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平成13年神審第58号
件名

プレジャーボートまこと丸II岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、西田克史、前久保勝己)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:まこと丸II船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
まこと丸II・・・左舷側前部、同後部が大破、のち廃棄処分
船長が肋骨及び鎖骨骨折、同乗者が脳挫傷で死亡

原因
操船不適切

主文

 本件岸壁衝突は、操縦が適切に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月29日15時42分
 兵庫県尼崎西宮芦屋港第2区

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートまこと丸II
全長 2.86メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 89キロワット

3 事実の経過
 まこと丸II(以下「まこと」という。)は、ヤマハ発動機株式会社製のGP8と称するFRP製2人乗り水上オートバイで、A受審人が単独で乗り組み、同乗者Fを乗せ、両人がライフジャケット着用のうえ、レジャーの目的で友人の水上オートバイ1隻と共に、平成12年7月29日15時00分兵庫県尼崎西宮芦屋港の、西宮内防波堤灯台(以下「内防波堤灯台」という。)から358度(真方位、以下同じ。)1,630メートルの岸壁を発し、同港内を周回航走して同時30分発航地沖合に戻ったのち、芦屋沖地区の芦屋ヨットハーバー(仮称)に向かった。
 芦屋ヨットハーバーは、袋状の形状を有しているヨットハーバーで、内防波堤灯台から289度1,820メートルの地点を出入口の北側(以下「北端」という。)とし、同端から西方へ楕円状に120メートルほど膨らみ、順次反時計回りに、342度400メートル(以下「イ岸壁」という。)、248度140メートル、180度140メートル(以下「ロ岸壁」という。)の各岸壁、また、ロ岸壁の南西側奥には2つの入り組んだ小突堤が、ロ岸壁南方の対岸にあたる、内防波堤灯台から287度2,160メートルの地点から少し南側にへこみながら111度350メートル方向に延びる岸壁(以下「ハ岸壁」という。)があって、この東端が出入口の南側(以下「南端」という。)となっており、南、北両端の幅は約40メートル、イ、ロ両岸壁間の幅は約140メートル、イ、ハ両岸壁間の幅は約200メートルであった。
 ところで、まことは、進みたい方向にあわせてステアリングハンドル(以下「ハンドル」という。)を左、または右にきると、この動きと連動し、艇体後部にあるジェットノズルから出るジェット噴流の向きがかわり、このノズルの向きにより旋回することができ、また、ハンドルの右グリップにスロットルレバーが備えられ、同レバーをハンドル側に引くと機関回転数が上昇して増速し、放すと自動的にスロットルは閉じたアイドリング位置に戻り、ジェット噴流がなくなってハンドルをきっても旋回できず、逆噴射装置がないので、約50ノットで航走中、停止するまで100ないし115メートル直進する停止性能をもっていた。
 A受審人は、芦屋ヨットハーバーに進入し、F同乗者から操縦を教えてほしい旨の申し出があり、ハ岸壁沖合において、15時35分北端から286度190メートルの地点で、まことを停止させ、F同乗者を前部シートに座らせてハンドル及びスロットルレバーを握らせ、同レバーを放すとアイドリング位置に戻り、ハンドルをきっても旋回できないこと等の操縦法を一応説明し、同人に操縦させて航走することとした。
 しかしながら、A受審人は、芦屋ヨットハーバー内は他船がおらず、波がないので、少しの間なら大丈夫と思い、F同乗者と午前中初めて会って同乗させたもので、同人が無資格者で操縦に不慣れなことを知っていたから、増速状態のままスロットルレバーを放すなど、同レバー操作が不適切とならないよう、F同乗者を出来る限り前部シートの前側に座らせ、スロットルレバーに手を添えるなど、自ら操縦することなく、同乗者の後ろに座り、F同乗者の操縦で15時40分半前示地点を発進した。
 発進時、F同乗者は、針路をロ岸壁の南端付近に向かう337度に定め、スロットルレバーを調整して6.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、15時41分少し過ぎ北端から308度310メートルの地点で、ハンドルを右にきって旋回し、同時42分少し前北端から323度260メートルの地点に達したとき、針路をイ岸壁西端至近に向ける164度に転じ、スロットルレバーを引いて24.3ノットの速力に増速したところ、急に同時42分わずか前目の前に同岸壁西端が迫るので恐ろしくなったのか、同レバーを放して、とっさにハンドルを右にきった。
 こうして、まことは、スロットルレバー操作が適切に行われなかったので、旋回できず、また、A受審人もどうすることもできないまま、15時42分内防波堤灯台から290度1,940メートルの地点にあたる、北端から305度140メートルのイ岸壁西端に、原針路原速力のまま、左舷側が衝突した。
 当時、天候は曇で風はなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、海面は穏やかであった。
 A受審人は、岸壁に叩きつけられたのち海中に転落し、F同乗者を探したところ、同人が水面に浮いているのを認め、来援した友人の水上バイクによりF同乗者をまことに引き上げ、救助を要請するなど事後の措置に当たった。
 衝突の結果、まことは、左舷側前部、同後部が大破して修理が不能となり、のち廃棄処分とされ、また、A受審人が肋骨及び鎖骨骨折を負い、F同乗者(昭和53年11月19日生)が、脳挫傷を負って死亡した。

(原因)
 本件岸壁衝突は、兵庫県尼崎西宮芦屋港第2区において、水上オートバイを航走させる際、有資格者が操縦せず、無資格の同乗者に操縦を行わせ、スロットルレバー操作が適切に行われないまま岸壁端付近に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、兵庫県尼崎西宮芦屋港第2区において、無資格者を同乗させて水上オートバイを航走させる場合、F同乗者と午前中初めて会って同乗させたもので、同人が無資格者で操縦に不慣れなことを知っていたから、増速状態のままスロットルレバーを放すなど、同レバー操作が不適切とならないよう、自ら操縦すべき注意義務があった。しかるに、同人は、芦屋ヨットハーバー内は他船がおらず、波がないので、少しの間なら大丈夫と思い、無資格の同乗者に操縦を行わせて自ら操縦しなかった職務上の過失により、スロットルレバー操作が適切に行われないまま岸壁端付近に向け進行して岸壁との衝突を招き、まことを大破させ、自らが肋骨及び鎖骨骨折を負い、同乗者に脳挫傷を負わせて死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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