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平成12年神審第149号
件名

貨物船幸伸丸プレジャーボート遊友衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月15日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、黒田 均、前久保勝己)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:幸伸丸二等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:遊友船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:遊友同乗者

損害
幸伸丸・・・船首部外板に擦過傷
遊友・・・船尾部に破口、沈没

原因
幸伸丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
遊友・・・警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、遊友を追い越す幸伸丸が、見張り不十分で、遊友の進路を避けなかったことによって発生したが、遊友が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年3月8日02時50分
 和歌山県大島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船幸伸丸 プレジャーボート遊友
総トン数 497トン 14トン
全長 64.99メートル 14.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 88キロワット

3 事実の経過
 幸伸丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、ノルマルパラフィン802.233トンを載せ、荷役の目的で、船首3.10メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成10年3月7日15時50分岡山県水島港を発し、千葉港に向かった。
 23時45分A受審人は、市江埼灯台南方沖合で昇橋し、前直の船長から船橋当直を引き継ぎ、所定の灯火表示を確かめ、翌8日任意で昇橋した機関当直の一等機関士を見張り等に当たらせ、潮岬半島南岸沖合を東進し、02時43分樫野埼灯台から167度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点に達したとき、針路を050度に定め、機関を13.0ノット(対地速力、以下同じ。)の全速力前進にかけ、自動操舵により進行した。
 02時45分A受審人は、樫野埼灯台から156度2.0海里の地点で、左舷船首12度0.7海里に、遊友の白、白2灯を認め得る状況であったが、前方2ないし3海里に所在の船舶の明るい灯火に気を取られ、見張りを十分に行うことなく、遊友の灯火を見落としたまま続航した。
 こうして、A受審人は、遊友を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、速やかに右転するなど、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまで同船の進路を避けずに続航中、02時50分樫野埼灯台から124度2.0海里の地点において、幸伸丸の船首部が、遊友の船尾中央部に、後方から39度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、遊友は、メイン、ミズン両マストを有する木製プレジャーヨットで、B受審人が1人で乗り組み、C指定海難関係人ほか同乗者1人を乗せ、回航の目的で、最大喫水2.5メートルをもって、同月7日07時45分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し、神奈川県横須賀港に向かった。
 ところで、遊友は、メインマスト頂上部に三色灯、船首部右舷側に右舷灯、同左舷側に左舷灯、船尾部に船尾灯、ミズンマスト頂部に白色全周灯をそれぞれ備え、メインマスト頂部には、各ステイ取付用のスプレダー両端付近に、下方向きのライト各1個(以下「スプレダーライト」という。)が埋め込まれ、夜間、甲板の操帆作業時にも、ジブ等の展帆状況を他船に示す照明用にも、点灯できるようになっていた。
 B受審人は、大阪湾を機走で南下し、友ケ島水道航過後に機関を停止し、ジブとメンスルを展帆して帆走に移り、やがて日没時刻を迎え三色灯を表示し、翌8日01時15分潮岬灯台から194度2.0海里の地点に達したとき、折からの北風を受け、ポートタックで実効針路を069度に定め、5.1ノットの平均速力で、手動操舵により進行した。
 間もなく、B受審人は、無資格のC指定海難関係人に航海当直を行わせることにしたが、同人が四級小型船舶操縦士の免状を受有し洋上帆走経験も豊かなので大丈夫と思い、同人に対し、他船が接近したとき船長報告する旨を指示することなく、キャビンに入って休息した。
 C指定海難関係人は、舵輪後方の左舷席付近に就き、同右舷席に同乗者を座らせ、手動操舵と操帆に当たって進行中、02時43分樫野埼灯台から140度1.7海里の地点で、右舷船尾31度1.0海里に、幸伸丸の白、白、紅3灯を初認し、同時45分同灯台から135度1.8海里の地点に至り、同3灯の方位が変わらず0.7海里となり、その後同船が接近する模様を認めたが、同模様についての船長報告を行わず、三色灯に加え、機走時に多用する船尾灯、右舷灯及び左舷灯を点じて続航した。
 B受審人は、前示の報告がなかったので、幸伸丸が遊友を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき、直ちに機関を始動し帆機併用で大幅に左転するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 こうして、C指定海難関係人は、幸伸丸の右舷側航過を期待し、やや切上げ気味に帆走中、02時49分半ようやく至近に迫った幸伸丸との衝突の危険を感じ、スプレダーライトを点じ、同乗者共々、同船に向け携帯式点滅灯と懐中電灯とを照射し、幾度か号鐘を鳴らしたが効なく、損傷軽減の目的で右舵一杯をとって間もなく、遊友は、右転中の船首が089度を向いたとき、原速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸伸丸は、船首部外板に擦過傷を生じ、遊友は、船尾部に破口を生じた後、沈没した。また、B受審人、C指定海難関係人及び同乗者は幸伸丸に救助された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、両船が和歌山県大島南方沖合を東進中、遊友を追い越す幸伸丸が、見張り不十分で、遊友を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、遊友が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 遊友の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の同乗者に航海当直を行わせるに当たり、他船が接近したとき船長報告する旨の指示を行わなかったことと、同同乗者が他船が接近したとき船長報告を行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、和歌山県大島南方沖合を東進中、船橋当直に当たる場合、遊友の灯火を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方に所在の船舶の明るい灯火に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、遊友の灯火を見落とし、自船が追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、遊友を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、幸伸丸の船首部に擦過傷を、遊友の船尾部に破口をそれぞれ生じさせ、遊友を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、和歌山県大島南方沖合を東進中、無資格の同乗者に航海当直を行わせる場合、通航船舶の多い海域であったから、衝突回避措置等がとれるよう、同人に対し、他船が接近したとき船長報告する旨を指示しておくべき注意義務があった。しかるに、同人は、同同乗者が四級小型船舶操縦士の免状を受有し洋上帆走経験も豊かなので大丈夫と思い、前示の船長報告する旨を指示しなかった職務上の過失により、同報告が得られなかったので、幸伸丸が遊友を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき、直ちに機関を始動し帆機併用で大幅に左転するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して幸伸丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、夜間、和歌山県大島南方沖合を東進中、帆走航海当直に当たり、右舷船尾方に幸伸丸の白、白、紅3灯を認め、同船が接近模様であることを知った際、同模様の船長報告を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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