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平成13年横審第59号
件名

貨物船洋星丸漁船正永丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、半間俊士、甲斐賢一郎)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:洋星丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:正永丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
洋星丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
正永丸・・・船尾ブルワークなどに損傷、のち廃船
船長が右肋骨骨折

原因
洋星丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
正永丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、洋星丸が、見張り不十分で、漂泊中の正永丸を避けなかったことによって発生したが、正永丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月11日11時10分
 志摩半島南岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船洋星丸 漁船正永丸
総トン数 499トン 1.77トン
全長 75.50メートル 10.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット  
漁船法馬力数   30

3 事実の経過
 洋星丸は、主として木材輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、製材1,400トンを載せ、船首3.4メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成11年11月10日14時00分呉港を発し、名古屋港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を単独による4時間3直制と決め、自らが08時から12時まで、次いで甲板長、一等航海士の順に行うこととし、翌11日07時45分鵜殿港南防波堤灯台から118度(真方位、以下同じ。)7.9海里の地点で、一等航海士から同当直を引き継いだ。このとき、同受審人は、視界が良好なうえに穏やかな天候であったことから、後学のために険礁群が散在する志摩半島南岸沖にあって、東西に通じる長さ約2.5海里、可航幅約350メートルの布施田水道を航行しておくことを思いつき、針路を同水道西口付近に向かう039度に定め、機関を全速力前進にかけて12.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 09時08分A受審人は、三木埼灯台から130度7.1海里の地点において船位を確認したのち、針路を045度に転じて続航し、11時00分御座埼灯台から200.5度6.2海里の地点に差し掛かったとき、操業中の漁船を無難に替わしたことから、船橋内左舷船尾側に設けた海図台に向かい、布施田水道の航行に備えて水路調査に取り掛かった。
 A受審人は、11時05分わずか過ぎ御座埼灯台から195.5度5.3海里の地点に達したとき、正船首方1.0海里のところに自船に船尾を向け、船尾マストにスパンカーと称する台形状の帆を掲げた正永丸を視認でき、その後漂泊中の同船に衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況にあったが、布施田水道の水路調査に取り掛かるときに前路を一瞥して何も認めなかったので、船首方に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、海図台に向かって同調査に専念していて正永丸に気付かず、同船を避けないまま進行した。
 11時09分半A受審人は、正永丸まで190メートルとなったものの、海図台に向かったまま船首方に視線を戻すことなく続航し、11時10分御座埼灯台から189度4.4海里の地点において、洋星丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が正永丸の左舷船尾部に後方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、何気なく周囲を見渡したとき、自船の右舷正横後至近に漂泊状態の正永丸を初めて認めたものの、同船と衝突したことに気付かずに北上を続け、布施田水道を東行して大王埼沖合を航行中、鳥羽海上保安部の指示を受けて反転し、三重県英虞湾に投錨したのち、衝突の事実を知った。
 また、正永丸は、一本釣り漁業に従事する船体中央部船尾寄りに無蓋(むがい)の操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たい一本釣り漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同月11日06時00分三重県宿田曽漁港を発し、志摩半島南岸沖合の漁場に向かった。
 ところで、B受審人の行うたい一本釣り漁は、魚群探知器を用いて探索を行い、魚群反応を認めたところで機関を中立回転として漂泊し、船尾マストに上辺長さ0.6メートル下辺長さ1.0メートル高さ1.8メートルのスパンカー2枚を船尾方に向けてV字形に開いて掲げ、船首部船底から差し舵と称する長さ1.0メートル幅約0.2メートルの板を海中に突出させ、風に船首を向けた状態で、釣り糸を垂らしたまま主機クラッチや舵棒が操作できるように、船尾部右舷側で操舵室近くに腰を降ろし、右舷方を向いて行うものであった。また、同受審人は、船尾部右舷側で腰をおろすと、掲げたスパンカーのために正船尾方から左舷船尾方にかけて約30度の範囲に死角を生じることから、操業中も時々左舷側に移動して同死角を補う見張りを行うようにしていた。
 B受審人は、06時40分御座埼灯台の西南西方2海里の地点で、1回目の操業を始め、その後南南東方に向けて釣り場を移動しながら操業を繰り返し、10時40分前示衝突地点に差し掛かったとき、良好な魚群反応を認めたので機関を中立回転とし、いつものように漂泊して操業を再開した。
 11時05分わずか過ぎB受審人は、北東風を受けて船首が035度に向いていたとき、スパンカーで死角となった左舷船尾10度1.0海里のところに自船に向首した洋星丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況にあったが、自船がスパンカーを掲げ、漂泊して操業中であることから、接近する他船が避けて行くものと思い、死角を補う見張りを十分に行うことなく、折りから仕掛けに掛かった魚を揚げることに気をとられていて洋星丸に気付かなかった。
 B受審人は、洋星丸が自船に向首したまま間近に接近したものの、依然としてこれに気付かず、速やかに機関を使用して前進するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け、同時10分わずか前船尾方至近に洋星丸の船首を初めて認めたが、どうすることもできず、正永丸は035度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、洋星丸は、右舷船首部外板に擦過傷を生じたが、のち修理され、正永丸は、船尾ブルワークなどに損傷を生じ、のち廃船処理され、B受審人が右肋骨骨折を負った。

(原因)
 本件衝突は、志摩半島南岸沖合において、北上中の洋星丸が、見張り不十分で、漂泊中の正永丸を避けなかったことによって発生したが、正永丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、志摩半島南岸沖合を布施田水道西口に向けて北上する場合、正船首方で漂泊中の正永丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、布施田水道の水路調査に取り掛かるとき、前路を一瞥して何も認めなかったので、船首方に他船はいないものと思い、海図台に向かって布施田水道の水路調査に専念し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正永丸に気付かず、これを避けることなく進行して同船との衝突を招き、洋星丸の右舷船首部外板に擦過傷を、正永丸の船尾ブルワークなどに損傷を生じさせ、B受審人に右肋骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、志摩半島南岸沖合において、船尾マストにスパンカーを掲げ、漂泊して操業をする場合、同スパンカーにより船尾方に死角を生じていたのであるから、船尾方から接近する他船を見落とすことのないよう、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、自船がスパンカーを掲げ、漂泊して操業中であることから、接近する他船が避けて行くものと思い、仕掛けに掛かった魚を揚げることに気をとられ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方から接近する洋星丸に気付かず、速やかに機関を使用して前進するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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