(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月25日15時00分
京浜港横浜区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船たいせい丸 |
貨物船タイ ヘ |
総トン数 |
499トン |
35,963トン |
全長 |
64.85メートル |
236メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
16,747キロワット |
3 事実の経過
たいせい丸は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、エチレングリコール1,058トンを積載し、船首3.60メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、平成11年9月25日13時10分千葉港千葉区三井化学バースを発し、兵庫県姫路港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自分が08時から12時、20時から24時を担当し、00時から04時、12時から16時を二等航海士若しくは次席一等航海士、16時から20時、04時から08時を一等航海士とする3直制とし、出航操船に引き続き当直に就いて西行した。
13時40分ごろA受審人は、出航作業を終えて昇橋してきたB受審人が当直の引き継ぎを申し出たとき、船舶交通が輻輳(ふくそう)する東京湾であったから、自らが操船の指揮を執るべきであったが、同人が経験の豊富な船員であって東京湾の単独当直に慣れていたことを知っており、これまでも輪番制で行っていたことから、自ら操船の指揮を執らなかったばかりか、眠気を覚えたときの報告など居眠り防止措置を指示することなく、京葉シーバース付近で降橋した。
B受審人は、東水道を南下し、14時20分東京湾アクアライン風の塔灯から182度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で針路を240度に定め、機関を10.0ノットの全速力前進にかけ、折からの風潮流によって右方に4度ばかり圧流されながら、自動操舵で進行した。
ところで、B受審人は、退社後も休暇船員の交替要員として短期の乗船を繰り返していたところ、8月下旬からたいせい丸に乗船していたが、臨時乗船という気楽さもあって昼食時には飲酒をしており、当日も少々酒を飲んで船橋当直に就いた。
B受審人は、当直に就いてからすぐに船橋左舷側の肘掛けいすに腰を掛けて見張りを行っていたところ、定針して間もなく眠気を覚えたが、船長に報告したり、操舵を手動に切り替えて立って当直を行うなどの居眠り運航防止措置をとることなく、いすに腰を掛けたままでいたことから、いつしか居眠りに陥り、14時40分本牧船舶通航信号所(以下「信号所」という。)から086度3.9海里の地点に達したとき、錨泊中のタイ ヘ(以下「タ号」という。)を右舷船首4度3.3海里に見るようになり、その後同船に衝突のおそれのある態勢で接近し、同時54分1海里となったが、このことに気付かず、同船を避けないで原針路、原速力のまま続航し、15時00分信号所から144度1.5海里の地点において、たいせい丸の船首がタ号の左舷側後部に後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、タ号は、コンテナ船で、船長Dほか37人が乗り組み、貨物9,666トンを積載し、同月12日08時00分(現地時刻)アメリカ合衆国オークランド港を発し、越えて同月24日13時05分前示衝突地点において、船首5.80メートル船尾7.90メートルの喫水で投錨し、所定の形象物を掲げて錨泊した。
タ号は、翌25日14時54分船首を210度に向けて錨泊中、守錨当直者が自船にほぼ向首し1海里に接近したたいせい丸を認め、同船に避航の気配がないことから、同時57分VHFで呼びかけたり、大声を発して注意を喚起したが、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、たいせい丸は、船首及び右舷船尾外板などに損傷を生じ、タ号は、左舷後部外板に亀裂(きれつ)を伴う損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、京浜港横浜区において、たいせい丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中のタ号を避けなかったことによって発生したものである。
たいせい丸の運航が適切でなかったのは、船長が甲板指揮をとらなかったばかりか、居眠り運航防止措置の指示が十分でなかったことと、船橋当直者が眠気を覚えたとき、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
B受審人は、東京湾において船橋当直に就き、眠気を覚えた場合、船長に報告するなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ってタ号に接近していることに気付かず、同船との衝突を招き、たいせい丸の船首、右舷船尾外板などに損傷を生じさせ、タ号の左舷後部外板に亀裂を伴う損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、部下に船橋当直を引き継ぐ場合、居眠り運航とならないよう、眠気を覚えたときの報告を指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、眠気を覚えたときの報告を指示しなかった職務上の過失により、当直者が居眠りに陥ってタ号との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。