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平成13年長審第30号
件名

漁船力丸プレジャーボートアンズII衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月18日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄)

副理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:力丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:アンズII船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
力丸・・・プロペラを曲損、船底外板に擦過傷
アンズII・・・船体前部を圧壊

原因
力丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主 因)
アンズII・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は、力丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のアンズIIを避けなかったことによって発生したが、アンズIIが、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月5日14時10分
 長崎県相浦港港外

2 船舶の要目
船種船名 漁船力丸 プレジャーボートアンズII
総トン数 18トン  
全長 23.00メートル 7.68メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 809キロワット 73キロワット

3 事実の経過
 力丸は、FRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、曳網を積み込む目的で、船首1.0メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成12年5月5日14時00分長崎県相浦港を発し、同港南西方沖合にある黒島に向かった。
 A受審人は、自ら操船して離岸し、14時08分相浦港1号防波堤灯台から347度(真方位、以下同じ。)680メートルの地点で、針路を237度に定め、機関を全速力前進にかけて24.0ノットの対地速力で、右舷前方と左舷前方にそれぞれ数隻の漁船が存在するのを視野に入れながら、手動操舵によって進行した。
 A受審人は操舵室右舷の椅子の上に乗り、蹲踞(そんきょ)した姿勢で進行していたが、この状態では、船首の浮上によって正船首から各舷約10度方向に死角が生じ、これを補うため、椅子の上に立って顔を天窓から出して見張りを行うとか、船首を左右に振るなどする必要があった。
 14時09分A受審人は、相浦港1号防波堤灯台から287度820メートルの地点に達したとき、正船首方740メートルにアンズIIが存在し、間もなく同船が漂泊して釣りを行っているのを死角を補う見張りをしていれば認めることができる状況となったが、左右に視認している漁船のほかに他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 A受審人は、右転するなどアンズIIを避けることなく進行し、14時10分相浦港1号防波堤灯台から263度1,400メートルの地点において、力丸の船首部が、原針路原速力のまま、アンズIIの右舷前部に前方から50度の角度で衝突し、これを乗り切った。
 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、視界は良好であった。
 また、アンズIIは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、きす釣りの目的で、船首0.70メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、同日08時30分佐世保市鹿子前町のマリーナを発し、釣りをしながら九十九島の島々を周航した。
 B受審人は、13時52分相浦港1号防波堤灯台から265度1,500メートルの地点で、船首を北方に向けて機関を停止し、船尾からパラシュート型シーアンカーを投入して漂泊し、船尾付近から両舷にそれぞれ1本の竿を出し、船尾に座って釣りを始めた。
 B受審人は、西寄りの風と東寄りの潮により、105度の方向に0.2ノットの対地速力で流されながら釣りを続けていたところ、14時08分相浦港から出てくる力丸を一瞥(いちべつ)し、同時9分前示衝突地点付近で船首が007度を向いていたとき、右舷船首50度740メートルに自船に向首して接近する力丸を認めたが、自船は漂泊中なので航走中の船が避けるものと思い、その後、力丸に対する動静監視を十分に行わなかった。
 B受審人は、力丸が自船に向首したまま避航の様子もなく更に接近してきたが、この頃当たりが来だして釣りに熱中し、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので依然としてこのことに気付かず、注意喚起信号を行わないまま、左舷側を向いて釣りを続け、14時10分わずか前エンジン音を聞いて振り返り、至近に迫った力丸を認め、船尾の手摺りをつかんでしゃがみ込んだ直後、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、力丸はプロペラを曲損したほか船底外板に擦過傷を生じ、アンズIIは船体前部を圧壊した。

(原因)
 本件衝突は、長崎県相浦港港外において、力丸が、漁場に向かって航行中、見張り不十分で、前路で漂泊して釣りを行っているアンズIIを避けなかったことによって発生したが、アンズIIが、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、漁船が散在する相浦港港外を漁場に向かって航行する場合、船首方に死角があったから、前路で漂泊して釣りを行っているアンズIIを見落とさないよう、操舵室天窓から顔を出したり、船首を左右に振るなど死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、アンズIIに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、力丸のプロペラに曲損を、アンズIIの船体前部に圧壊を生じさせるに至った。
 B受審人は、漁船が散在する相浦港港外において、漂泊して釣りを行っているとき自船に向首接近する力丸を認めた場合、同船が避航動作をとるかどうか引き続きその動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行中の力丸が漂泊中の自船を避けるものと思い、釣りに熱中し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、力丸が避航動作をとることなく更に接近することに気付かず、注意喚起信号を行わないまま釣りを続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 


参考図
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