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平成13年那審第23号
件名

貨物船フ クオ シン岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(金城隆支、清重隆彦、平井 透)

理事官
長浜義昭

指定海難関係人
A 職名:フ クオ シン船長 

損害
フ号・・・船尾外板に凹損
岸壁・・・破損

原因
出港操船に対する配慮不十分

主文

 本件岸壁衝突は、狭い港内での出港操船に対する配慮が不十分で、操船支援のための引船を手配しなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月18日18時22分
 沖縄県伊良部島長山港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船フ クオ シン
総トン数 4,556トン
全長 106.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,794キロワット

3 事実の経過
 フ クオ シン(以下「フ号」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A指定海難関係人ほか15人が乗り組み、右舷錨を投じて錨鎖4節を伸出し、長山港西側岸壁に船首を020度(真方位、以下同じ。)に向けて左舷付け係留中のところ、平成12年10月18日18時00分川砂4,000トンの揚荷を終え、船首3.2メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、台湾花蓮港に向かうことになった。
 ところで、長山港は、長さ230メートルの西側岸壁、長さ285メートルの北側岸壁、東側を長さ170メートルの防波堤(波除)、南側を長さ560メートルの南防波堤で囲まれ、防波堤(波除)南端と南防波堤の間の幅約160メートルの港口が130度の方向に開かれていた。したがって、西側岸壁に左舷付け係留した状態から離岸して港口に向かうには約110度右回頭することとなり、船型、喫水、投錨地点、他船の接岸状況及び気象等により、引船の支援を必要とすることがあった。
 A指定海難関係人は、長山港に入港した経験があって、同港の操船水域が狭いことを知っており、17時ごろ長さ約40メートルの台船2隻が北側岸壁の東寄りに馬繋ぎで接岸したので、自船船首と台船間の距離が170メートルとなって更に狭められた水域で、大角度の右回頭をしなければならなかった。しかし、同指定海難関係人は、右舷錨のみを使用して出港した経験があったことから、自船が空倉であること、投錨地点、自船船首と台船間の距離及び風力4の北東風の影響等を検討するなど、狭い港内での出港操船に対する配慮を十分に行わず、何とか引船の支援なしで出港できると思い、操船支援のための引船を手配することなく、出港することにした。
 A指定海難関係人は、三等航海士を操船補佐に、操舵手を手動操舵に、機関長を船橋で主機遠隔操縦の操作に、一等航海士ほか3人を船首配置に、二等航海士ほか1人を船尾配置につけ、18時13分自ら出港操船指揮にあたって離岸作業を開始し、同時15分最後の係留索を離し、同時19分揚錨を終えた。
 フ号は、機関と舵を種々に使用して右回頭中、北側岸壁に係留していた台船に船首が接近したので、機関を微速力後進にかけて後退中、18時22分船首が090度に向いたとき、長山港第8号立標から010度1,340メートルの地点で、船尾が西側岸壁に衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、日没時刻は18時10分であった。
 フ号は、右回頭を続けているうち、再び船尾が西側岸壁に衝突し、その後台船を替わして港口に差し掛かったが、港口に向けることができず、いったん後退した後左舵をとって港口に向けて進行したところ、折からの北東風に圧流され、18時45分長山港第8号立標から032度1,050メートルの地点で、南防波堤に寄せ付けられて航行不能となった。
 その結果、フ号は船尾外板に凹損を生じ、岸壁を破損したが、のちいずれも修理され、フ号は翌日引船の援助を受けて出港した。

(原因)
 本件岸壁衝突は、日没後の薄明時、操船水域が狭い長山港において、西側岸壁から大角度の右回頭をして出港する際、狭い港内での出港操船に対する配慮が不十分で、操船支援のための引船を手配せず、離岸後に右回頭中、西側岸壁に著しく接近したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、日没後の薄明時、操船水域が狭い長山港において、西側岸壁から大角度の右回頭をして出港する際、操船支援のための引船を手配しなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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