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平成12年門審第38号
件名

漁船美福丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、米原健一、橋本 學)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:美福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
美福丸・・・船首部を圧壊
防波堤・・・擦過痕

原因
水路調査不十分

主文

 本件防波堤衝突は、水路調査が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月24日01時30分
 関門港若松区

2 船舶の要目
船種船名 漁船美福丸
総トン数 9.1トン
全長 16.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット

3 事実の経過
 美福丸は、FRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成11年5月23日18時30分大分県南海部郡蒲江町の入津漁港を発し、長崎県福江港に向かった。
 A受審人は、平素潜水漁業などに従事する傍ら、許可期間のみ、はまちの稚魚であるもじゃこの採捕漁業に従事していたところ、当時同漁が不漁で、知り合いのはまち養殖業者から、養殖用のもじゃこが不足しているので長崎県五島列島福江の業者から購入して運んで来るように依頼され、一週間の休漁期間を利用して福江港に向かったものであった。
 ところで、A受審人は、関門海峡を数回通航した経験があり、操舵室に装備したGPSプロッターに表示される海岸線データの拡大画面には同海峡内の防波堤や灯浮標などが入力されているので、海図代わりにこれを使用すれば大丈夫と思い、複雑で狭隘(きょうあい)な同海峡を通過するにあたって、その水路調査を十分に行うことが出来るよう、海図などの水路図誌を船内に備えることなく発航した。
 こうして、A受審人は、発航操船に引き続いて単独で操船に当たって豊後水道を北上し、19時半ごろ甲板員と船橋当直を交替して休息をとり、22時半ごろ姫島西方で再び単独の船橋当直に就き、周防灘を西行し、翌24日00時半ごろ関門海峡東口に達した。
 そのころA受審人は、雨のため視界が悪化していたうえ、操舵室窓ガラスに付着した雨滴で見張りがしにくくなったので、機関を10.0ノットの半速力前進に減速し、関門航路内を通航せず、0.75海里レンジに設定したレーダーとGPSプロッターの拡大画面に表示された海岸線とを見て船位を確認し、回転窓を通して前方の見張りを行いながら主に北九州市側の航路外を西行した。
 01時00分A受審人は、小倉日明防潮堤灯台から124度(真方位、以下同じ。)720メートルの地点に達したとき、針路をGPSプロッターの表示する北九州市側海岸線に沿って同海峡西口に向かう317度に定め、機関を引き続き半速力前進にかけて自動操舵とし、10.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、以前、昼間に関門海峡を東行した際、洞海湾口から東方へ突き出した洞海湾口防波堤を視認したことがあったものの、事前に海図などの水路図誌で水路調査を十分に行っていなかったため、その存在をすっかり失念していたうえ、GPSプロッター上の拡大画面には未だ洞海湾口の南側しか表示されていない状態のまま、同画面を灯浮標や防波堤などが表示されない関門海峡全体を示す縮小画面に切り替えたので、自船が洞海湾口防波堤の東端付近に向首していることに気付かず、操舵室内のいすに腰を掛けてレーダーを監視し、回転窓を通して前方を見張りながら関門航路の各灯浮標を右舷側に見て続航した。
 01時14分A受審人は、前路0.75海里に洞海湾口防波堤をレーダー映像で認めることができる状況となったものの、そのころ船首方向200メートルばかりの若松航路第1号灯浮標やその前方の若松航路内で操業中の小型底引き網漁船の作業灯を認め、さらに若松航路に入航する貨物船を視認したので、機関を一時中立としたのち微速力前進とし、これらに留意しながら2.0ノットの対地速力で進行し、間もなく若松航路第1号灯浮標及び同漁船を左転して右舷側にかわし、同時27分少し過ぎ若松洞海湾口防波堤灯台から142度850メートルの地点で再び針路を317度とし、機関を半速力前進に戻して10.0ノットの対地速力で進行した。
 そのころA受審人は、右舷前方に洞海湾口防波堤の東端を示す若松洞海湾口防波堤灯台の灯火を視認していたものの、同灯火を灯浮標のものと思い、気にも留めずに続航中、01時30分わずか前、前方至近に同防波堤を初めて視認し、機関を後進にかけたが効なく、01時30分美福丸は、原針路、原速力のまま、若松洞海湾口防波堤灯台から246度80メートルの防波堤南面に、その船首がほぼ70度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力4の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視程は約1,000メートルであった。
 衝突の結果、船首部を圧壊したが、のち修理され、防波堤に擦過痕を生じた。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、複雑で狭隘な関門海峡を西行する際、水路調査が不十分で、洞海湾口防波堤に向首して進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、複雑で狭隘な関門海峡を西行する場合、以前同海峡を数回通航した経験があったものの、その正確な地形などを把握していなかったのであるから、同海峡を通過するに当たって海図などの水路図誌で水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、操舵室に装備したGPSプロッターに表示される海岸線データの拡大画面には同海峡内の防波堤や灯浮標などが入力されているので、海図代わりに使用すれば大丈夫と思い、海図など水路図誌を船内に備えることなく発航し、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、洞海湾口防波堤に向首して接近していることに気付かないまま進行して同防波堤との衝突を招き、船首部を圧壊させ、同防波堤に擦過痕を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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