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平成12年広審第120号
件名

遊漁船第7福屋丸プレジャーボート政好丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第7福屋丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:政好丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
福屋丸・・・船首船底部に擦過傷
政好丸・・・右舷外板に亀裂を伴う損傷
船長が下顎部打撲割創

原因
政好丸・・・灯火不表示、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、灯火設備のない政好丸が、日出を待たずに出航したばかりか、水路を南下中の第7福屋丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月18日05時08分
 岡山県笠岡港外

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第7福屋丸 プレジャーボート政好丸
全長   7.08メートル
登録長 11.04メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 279キロワット 40キロワット

3 事実の経過
 第7福屋丸(以下「福屋丸」という。)は、旅客定員22人のFRP製遊漁船で、受審人Aが1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成12年9月18日04時50分岡山県笠岡港笠岡地区を発して笠岡市南西岸と神島北東岸に挟まれた水路(以下「笠岡水路」という。)を南下し、途中、神島大橋付近のスベリと呼ばれる小型船の発着所に立ち寄り、釣り客12人を乗せ、05時05分香川県荘内半島沖に向けて同所を発進した。
 ところで、笠岡水路は、笠岡港笠岡地区に出入りするための港外にある唯一の経路で、南東方に延びる全長約5キロメートル、幅約100メートル、水深3メートルの掘り下げられた水路で、神島大橋が架かっている同市南西岸付近は、南東方へ舌状に延びた長さ600メートル幅200メートルの大戸州と呼ばれる半島により成っていて、水路が東西方向に屈曲していた。また、半島の東側奥には、同市横江漁港入江の船だまりが存在し、半島西側の神島大橋から南東方へ600メートルにあたる水路の屈曲部には、水路の西端を示す笠岡港口第5号灯浮標が設置され、水路はここから大戸州南端に沿って東方へ約300メートル延び、更に南東方へ続いていた。そして、大戸州南端は、夜間、街灯もなく森の茂る真っ暗闇の場所であった。
 こうして、A受審人は、スベリを発進してすぐ、操縦席に就いて0.25海里レンジとしたレーダー画面及び目視により水路前方を確認したものの、そのころ大戸州の陰に隠れていた政好丸を認めることができず、以後は専ら目視による見張りを行い、05時06分五重塔(高さ8.2メートル)から345度(真方位、以下同じ。)160メートルの地点で、針路を水路に沿う145度に定め、機関を毎分回転数800の微速力前進にかけて手動操舵により6.0ノットの対地速力で、成規の灯火を表示して進行した。
 05時07分A受審人は、五重塔から091度70メートルの地点に達したとき、左舷船首24度210メートルのところに、停留して投錨準備をする政好丸が存在したものの、同船が無灯火であり、これを視認することができないまま半速力前進の8.0ノットに増速して続航した。
 05時07分半A受審人は、水路に沿って110度に転じたことにより、投錨作業中の政好丸に向首して110メートルに接近する状況となったが、暗闇の中、依然同船を認めることができないまま進行中、05時08分五重塔から120度280メートルの地点において、福屋丸は、原針路、原速力のまま、その船首が政好丸の右舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の中央期で、日出時刻は05時50分であった。
 また、政好丸は、灯火設備を有せず、夜間航行が禁止されている和船型のFRP製プレジャーボートで、専らB受審人により釣りを行う目的で、使用されていた。
 ところで、B受審人は、友人から衝突地点付近がふぐ釣りの好ポイントなので、早めに行って錨泊場所を確保するとよいと聞き、他の釣り船に先駆けて早朝に同地点に向かうこととした。
 こうして、同日05時03分B受審人は、周囲がまだ暗闇状態で無灯火で航行すると他船から視認することができない状況であったが、間もなく明るくなるので航行しても大丈夫と思い、出航を日出まで待つことなく、政好丸に1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、横江漁港入江の係留場所を発し、釣り場に向けて出航した。
 ところで、政好丸がふぐ釣りを行う際の錨泊方法は、それぞれ長さ30メートル直径12ミリメートルのクレモナ索を結びつけた2個の錨を船首尾から投下して水路に直角に2錨泊するもので、第1錨の船尾錨を沿岸の浅瀬に投入したあとで、わずかに機関を使用して惰力で前進し、船尾索をすべて繰り出して行きあしが止まったところで、第2錨の船首錨を前方に投入して船首索約15メートルを延出して船首部に固縛し、船尾索約15メートルを短縮して2錨間の距離を約40メートルとして錨泊するものであった。
 05時07分B受審人は、大戸州南岸を替わり、衝突地点の北方30メートルにあたる水路東側端に達したとき、第1錨投入のため、機関を適宜使用し、船首を水路内に向く190度として停留し、船尾方を振り向いたとき、右舷船尾67度210メートルのところに、水路を南下中の福屋丸の白、紅2灯を認めたものの、そのまま、同船が航過するまで水路外で待機するなど同船を避けることなく、船尾錨を投入し、その後、わずかに機関を使用して行きあしをつけ、前進惰力により190度に向首して船尾索を延出しながら水路内を進行し、同時08分少し前衝突地点の南方約10メートルの地点で船尾索が張ったところで、船首錨を船首方へ投入して2錨泊とし、船尾索を短縮しているとき、突然衝撃を感じ、政好丸は190度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、福屋丸は船首船底部に擦過傷を、政好丸は右舷外板に亀裂を伴う損傷を生じ、B受審人が下顎部打撲割創などの負傷をした。

(原因)
 本件衝突は、夜間、灯火設備のない政好丸が、日出を待たずに出航したばかりか、笠岡港外の水路を南下中の福屋丸を認めた際、水路外で待機するなど同船を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、岡山県笠岡市横江漁港から釣り場に向かおうとする場合、自船に灯火設備がなかったのであるから、他船が自船を認識することができるよう、日出を待って出航すべき注意義務があった。しかるに、同人は、間もなく明るくなるので航行しても大丈夫と思い、日出を待たずに出航した職務上の過失により、福屋丸に自船の存在を認識させることができず、同船との衝突を招き、福屋丸の船首船底部に擦過傷を、政好丸の右舷外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、自ら下顎部打撲割創などの負傷をするに至った。 
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:194KB)





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