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平成12年広審第119号
件名

貨物船第二百治丸貨物船徳安丸衝突事件
二審請求者〔補佐人 田川俊一、補佐人 佐々木吉男〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、高橋昭雄、西林 眞)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第二百治丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:徳安丸一等航海士 海技免状:六級海技士(航海)

損害
百治丸・・・球状船首右舷側に凹損
徳安丸・・・左舷側前部に破口、浸水し転覆、のち沈没
船長が行方不明、のち死亡認定

原因
百治丸・・・見張り不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守
徳安丸・・・行会いの航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、第二百治丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、徳安丸が、早期に針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月29日04時28分
 瀬戸内海 クダコ水道

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二百治丸 貨物船徳安丸
総トン数 199.24トン 199.18トン
全長   36.90メートル
登録長 42.61メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 441キロワット

3 事実の経過
 第二百治丸(以下「百治丸」という。)は、船尾船橋型の引火性液体物質ばら積船で、A受審人(以下「A受審人」という。)ほか3人が乗り組み、清水バラスト150トンを載せ、船首1.8メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成12年2月28日13時50分神戸港を発し、熊本県水俣港に向かった。
 23時30分A受審人は、備後灘航路第5号灯浮標付近で単独で船橋当直に就き、航行中の動力船が表示する灯火を点灯して来島海峡を経て安芸灘北部を西行し、翌29日04時13分歌埼灯台から278度(真方位、以下同じ。)1,700メートルの地点で、針路を愛媛県クダコ島と怒和島との間に向く230度に定め、自動操舵として折からの潮流に抗して10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)でほとんど航行船が認められないクダコ水道に向かって進行した。
 04時25分少し前A受審人は、風切鼻灯台から078度1.6海里の地点に達したとき、右舷船首3度1.0海里に紅灯が強く認められる徳安丸の白、白、紅、緑4灯を視認することができ、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で互いに接近するのを認めることができる状況であったが、依然、クダコ水道を航行する他船がほとんど見あたらなかったことから、前方に対する見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、針路を右に転じないまま続航した。
 その後、04時27分半A受審人は、右舷船首近距離に徳安丸の灯火を初めて視認してその動向を見たのち、衝突の危険を感じて急いで左舵一杯としたが及ばず、04時28分風切鼻灯台から093度1.1海里の地点において、百治丸は、船首が215度を向いたとき、その右舷船首が徳安丸の左舷側前部に後方から80度の角度で原速力のまま衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、クダコ水道には0.7ノットの北東流があった。
 また、徳安丸は、船尾船橋型のセメント運搬船で、船長C及びB受審人(以下「B受審人」という。)ほか1人が乗り組み、セメント252.8トンを積載し、船首2.25メートル船尾3.43メートルの喫水をもって、同月28日22時30分徳山下松港を発し、航行中の動力船が表示する灯火を点灯して広島県福山港に向かった。
 22時50分B受審人は、徳山下松港の港界付近で、出航時から当直に就いていたC船長と交替して船橋当直に就き、その後上関海峡を経て平郡水道を東行し、反航船5隻と近距離に航過することがあったものの、航行上何らの支障もなく当直を続け、翌29日03時50分二神島西方沖合に達したところで、C船長と再び当直を交替して自室に退いた。
 こうして、04時00分少し前C船長は、クダコ島灯台から230度1.8海里の地点に達したとき、針路を039度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流の影響を受けて8.5ノットの速力でクダコ水道に向かって進行した。
 04時19分半C船長は、風切鼻灯台から168度1,220メートルの地点で、針路を057度に転じて続航し、同時25分少し前左舷船首2.5度1.0海里に緑灯が強く認められる百治丸の白、白、紅、緑4灯を視認することができ、その後、同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、十分な航過距離をもって通過できるよう早期に針路を右に転じないまま同じ針路で進行した。
 04時27分半C船長は、船首近距離に百治丸が接近したころ、同船との衝突を避けるために右舵一杯としたが及ばず、徳安丸は、船首が135度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、百治丸は、球状船首右舷側に凹損を生じたが、のち修理された。一方、徳安丸は、左舷側前部に破口を生じ、浸水して左舷側に転覆後沈没し、B受審人及び機関長の両人が海中に投げ出されて救命筏に乗っているところを百治丸に救助されたが、C船長(昭和3年2月13日生、四級海技士(航海)免状受有)が行方不明となり、のち死亡と認定された。

(主張に対する判断)
 理事官及び百治丸側は、相手船の徳安丸が両舷灯及びマスト灯(以下各灯火をまとめて「航海灯」という。)を点灯せず、無灯火であった旨を主張するので、以下この点について検討する。
(1)A受審人に対する質問調書において、徳安丸は航海灯を点灯していなかった旨を供述しているが、一方で、右舷船首近距離に同船の灯火が見えたので直ぐに左舵一杯としたが衝突した旨及び当廷においても同旨の供述をしていること。
(2)B受審人の当廷において、出港時、当直中とも航海灯の点灯状況を確認しなかったものの、5隻の反航船とすれ違った際、注意喚起のための信号などを受けなかった。また本件発生の数ヶ月前に航海灯表示盤のヒューズが切れた際に警報が鳴り、ヒューズを取り替えたことがあった旨を供述していること。
(3)徳安丸の航海灯給電システムについて、航海灯は、主電路系統図によると操舵室後壁に設置された航海灯表示盤上のスイッチによって点・消灯が行われ、同盤への電源として、発電機によって供給される交流220ボルトを主配電盤内の変圧器によって降圧した交流24ボルトの主電源と、蓄電池から供給される直流24ボルトの非常用電源から給電されるようになっており、航海灯表示盤は、同灯の点灯中にいずれかの灯火が消えた場合にも警報を発するほか、主スイッチのヒューズが切れたときにも警報を発するようになっていたこと。
 以上のことから、徳安丸は、航海灯を点灯して航行していたと認めるのが相当である。
 なお、C船長の見張り及び衝突回避模様については、徳安丸の左舷側前部と百治丸の右舷船首とが衝突していることから、衝突角度、船首方向からしてC船長は右舵をとったものと考えられ、このことは同人が百治丸に気付き、見張りをしていたものと認める。

(原因)
 本件衝突は、夜間、瀬戸内海クダコ水道において、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する際、百治丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、徳安丸が、早期に針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、クダコ水道を西行する際、単独で船橋当直にあたる場合、ほとんど真向かいに行き会う態勢で互いに接近する徳安丸を見落とすことのないよう、前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、クダコ水道を航行する他船がほとんど見あたらなかったことから、船首方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、徳安丸に気付かず、同船と左舷を対して通過することができるよう針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、百治丸の球状船首右舷側に凹損を生じ、徳安丸の左舷側前部に破口を生じて沈没させ、更に船長を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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