日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年神審第41号
件名

貨物船第八ニッケル丸貨物船ニューつるよし衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月31日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(前久保勝己、内山欽郎、西山烝一)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:第八ニッケル丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八ニッケル丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:ニューつるよし船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
D 職名:ニューつるよし一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
ニッケル丸・・・バルバスバウに破口
つるよし・・・左舷中央部外板に破口

原因
ニッケル丸・・・狭視界時の航法(信号・レーダー・速力)不遵守
つるよし・・・狭視界時の航法(信号・レーダー・速力)不遵守

主文

 本件衝突は、第八ニッケル丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、ニューつるよしが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Dを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月1日04時34分
 静岡県御前埼南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八ニッケル丸 貨物船ニューつるよし
総トン数 497トン 199トン
全長 64.737メートル 59.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 625キロワット

3 事実の経過
 第八ニッケル丸(以下「ニッケル丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、コーン原油301トンを積載し、船首1.6メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成12年6月30日16時30分千葉港を発し、神戸港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を同人、B受審人及び甲板長とによる単独4時間交替制に定め、平素から機会ある毎に各船橋当直者に対して、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう指導していた。
 翌7月1日00時00分A受審人は、神奈川県剱埼沖合で船橋当直を甲板長に引き継ぐ際、折からの霧模様で視程が約3海里であったので、視界制限状態になったら速やかに報告するよう、また、次直のB受審人にもこれを申し送るよう指示したうえ、機関当直者を昇橋させて見張りに付け、自室で休息した。
 B受審人は、03時45分ごろ昇橋し、甲板長から船橋当直を引き継ぐにあたり、視界制限時の報告についての申し送りがなかったものの、平素より船長から機会ある毎に指導されていたので、視界制限状態となったときには速やかに船長に報告することを承知していた。
 03時55分船橋当直に就いたB受審人は、御前埼灯台から111度(真方位、以下同じ。)15.7海里の地点で、針路を254度に定め、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、そのころ視程が0.5海里以下で、視界制限状態となっていたが、船長を起こすまでもないと思い、同状態を船長に報告せず、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 04時25分B受審人は、御前埼灯台から125度12.3海里の地点に達したとき、6海里レンジのレーダーで右舷船首28度3.0海里のところに、ニューつるよし(以下「つるよし」という。)の映像を初めて探知したが、右舷を対して替わるものと思い、その後レーダーによる同船の動静監視を十分に行うことなく、濃霧となり視程が約300メートルに狭められたので、手動操舵に切り換えて続航した。
 こうして、B受審人は、04時29分つるよしの映像が右舷船首30度1.7海里となり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かないで、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行中、04時34分少し前右舷前方至近につるよしの灯火を視認し、急いで右舵一杯をとり、機関を全速力後進にかけたが及ばず、04時34分御前埼灯台から130度11.5海里の地点において、ニッケル丸は、原針路原速力のまま、その船首がつるよしの左舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の南西風が吹き、視程は約300メートルで、静岡地方気象台から静岡県全域に濃霧注意報が発表されていた。
 A受審人は、衝突の衝撃を感じて昇橋し、事後の処置にあたった。
 また、つるよしは、船尾船橋型鋼製貨物船で、C、D両受審人ほか2人が乗り組み、合成樹脂606.7トンを積載し、船首2.6メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同年6月29日17時40分大分港を発し、京浜港に向かった。
 C受審人は、船橋当直を同人、D受審人、航海士及び機関長とによる単独3時間交替制に定め、瀬戸内海を経由して和歌山県潮岬沖合を航過し、翌30日21時00分熊野灘で船橋当直を次直者に引き継ぐ際、ナブテックスなどの気象情報から、やがて霧模様になることを予測したので、視界制限状態になったら速やかに報告するよう、また、これを次の当直者にも順に申し送るよう指示して降橋した。
 D受審人は、翌々7月1日03時00分前直者から視界制限時の報告についての申し送りを受けて船橋当直にあたり、同時55分御前埼灯台から170度5.5海里の地点に達したとき、針路を090度に定め、機関を全速力前進にかけて12.6ノットの速力とし、所定の灯火を表示して自動操舵により進行したところ、間もなく、霧模様となり視程が0.5海里以下の視界制限状態になったが、そのうち回復するもの思い、同状態を船長に報告せず、また、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく続航した。
 D受審人は、04時05分御前埼灯台から151度6.2海里の地点に達したとき、船首方10海里ばかりのところに反航船2隻のレーダー映像を探知し、これを左方に離して替わすつもりで少し右転して進行中、同時16分半同灯台から136度8.0海里の地点で、船首が098度を向いていたとき、6海里レンジのレーダーで正船首方6.0海里のところにニッケル丸の映像を初めて探知したが、更に右転すれば同船と互いに左舷を対して替わるものと思い、その後レーダーによる同船の動静監視を十分に行うことなく、小刻みな右転を繰り返しながら続航した。
 こうして、D受審人は、04時29分御前埼灯台から131度10.5海里の地点に至り、針路を124度に転じたとき、ニッケル丸の映像が左舷船首20度1.7海里となり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かないで、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく、濃霧となり視程が約300メートルに狭められた中を進行した。
 04時33分D受審人は、ようやくニッケル丸の映像がレーダー画面の中心に迫り、危険を感じて手動操舵に切り換え、右舵一杯をとり、機関を中立にして右回頭を開始し、自室で休息していたC受審人が、急に機関音が小さくなったのに気付いて昇橋し、左舷方至近にニッケル丸の灯火を視認した直後、つるよしは、164度を向いたとき、ほぼ原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ニッケル丸は、バルバスバウに破口を、つるよしは、左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、両船が霧による視界制限状態の静岡県御前埼南東方沖合を航行中、西行するニッケル丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる動静監視が不十分で、前路に探知したつるよしと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行するつるよしが、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる動静監視が不十分で、前路に探知したニッケル丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、霧による視界制限状態の静岡県御前埼南東方沖合を西行中、右舷前方につるよしのレーダー映像を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷を対して替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、つるよしと著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かないで、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、ニッケル丸のバルバスバウに破口を、つるよしの左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は、夜間、霧による視界制限状態の静岡県御前埼南東方沖合を東行中、レーダーにより正船首方にニッケル丸の映像を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に右転すれば左舷を対して替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ニッケル丸と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かないで、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:38KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION