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平成13年神審第12号
件名

漁船第八 七宝丸漁船第五幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、西田克史)

理事官
杉崎忠志、加藤昌平

受審人
A 職名:第八 七宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五幸丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
七宝丸・・・右舷船首船底外板に擦過傷
幸 丸・・・船尾を大破、転覆、のち廃船
船長が頚髄損傷による四肢麻痺

原因
七宝丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸 丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八  七宝丸が、見張り不十分で、漂泊中の第五幸丸を避けなかったことによって発生したが、第五幸丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月9日05時20分
 石川県鵜浦漁港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八 七宝丸 漁船第五幸丸
総トン数 2.9トン 0.7トン
全長   7.24メートル
登録長 8.80メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 16

3 事実の経過
 第八 七宝丸(以下「七宝丸」という。)は、船体後部に機関室囲壁と操舵室を備えた、刺網漁業と定置漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成11年10月9日02時00分石川県鵜浦漁港を発し、同漁港南東方2海里付近の漁場に向かい、同漁場で刺網を揚げたのち、その北西方近距離のところに設置してある自らの定置網に至って網揚げを行い、かわはぎ5キログラムを獲て、05時18分少し前能登観音埼灯台(以下「観音埼灯台」という。)から141.5度(真方位、以下同じ。)2,920メートルの地点を発進して、帰途についた。
 ところで、七宝丸は、操舵室前面窓の外側から17センチメートル船首側の機関室囲壁上には、船体中央部よりやや右舷側に高さ1メートル直径45センチメートルの煙突が直立に設置され、また、右舷船首舷縁には、幅1メートルの網揚機が船横に設置されていたことによって、操舵室中央部よりやや右側で操舵に当たると、正船首方右舷側約10度から左舷側約4度にわたって死角を生じていた。
 A受審人は、発進直後、法定灯火を表示し、船首が西方を向いていたので、主機の回転数を半速力前進の毎分1,780にかけ、9.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、右回頭して自らの定置網の北東端をかわしたのち、05時18分観音埼灯台から141度2,890メートルの地点において、針路を307度に定め、操舵室中央部よりやや右側で手動操舵により進行した。
 A受審人は、観音埼灯台から141度2,480メートルの地点に設置してある定置網の大型浮子(以下「大型浮子」という。)に右舷側が並ぶころ、鵜浦漁港南東方沖合にあるドスガケ礁をかわすため、右転して針路を同灯台に向ける予定で北上し、05時19分半わずか前観音埼灯台から143度2,500メートルの地点において、大型浮子を右舷側100メートルに並航した。
 このとき、A受審人は、右舷船首13.5度200メートルのところに、日出近くでかなり明るくなっていたことから静止中の第五幸丸(以下「幸丸」という。)の船影を視認することができる状況であったが、右舷方の大型浮子を見ることに気を取られ、同船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行わなかったので、幸丸の存在に気付かず、まもなく右転を開始した。
 こうして、05時19分半A受審人は、観音埼灯台から143度2,480メートルの地点で、針路を同灯台に向かう323度とし、主機の回転数を全速力前進の毎分2,300に上げ、11.0ノットの速力で進行したところ、死角に入ったまま漂泊中の幸丸が正船首方170メートルに迫っていることに気付かず、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然見張り不十分で、同船を避けることなく続航中、05時20分観音埼灯台から143度2,310メートルの地点において、七宝丸は、原針路原速力のまま、その船首が、幸丸の左舷船尾端に後方から平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の西寄りの風が吹き、視界は良好で、日出は05時52分であった。
 また、幸丸は、船外機を装備した甲板構造物がない、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あおりいかを釣る目的で、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日04時50分鵜浦漁港を発し、同漁港南東方1海里付近の漁場に向かった。
 B受審人は、05時10分衝突地点付近に到着し、機関停止のうえ、長さ2メートル直径8ミリメートルの合成繊維索に付した直径1メートルの手製パラシュート型シーアンカーを右舷船首から投じて漂泊したのち、法定灯火を表示しないまま作業灯1個を点灯し、右舷側中央部の甲板に船首を向いて立ち、右手で竿釣りを開始した。
 ところで、作業灯は、船体ほぼ中央部の左舷側舷縁上に高さ1.05メートルのL字形鉄パイプの先端に12ボルトの蓄電池を電源とする60ワットの白色電球が取り付けられ、おわん形のかさが被せてあった。
 05時18分B受審人は、船首を323度に向けて漂泊中、右舷船尾11.5度585メートルのところに、周囲が明るくなり、航海灯を視認できなかったものの、定置網から離れて来航する七宝丸の船影を初認し、その後七宝丸が自船の左舷船尾方わずかのところに向かって接近するのを知ったが、まさか衝突することはあるまいと思い、自船を無難に通過するまで、その動静監視を十分に行うことなく釣りを続けた。
 こうして、B受審人は、05時19分半正船尾方170メートルのところで、七宝丸が針路を転じて自船に向け接近していることに気付かず、機関をかけて衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続け、同時20分わずか前後ろを振り向いたとき、間近に迫った七宝丸を認めたがどうするいとまもなく、幸丸は、船首を323度に向けて、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、七宝丸は右舷船首船底外板に擦過傷を生じ、幸丸は船外機のカバーを破損したほか、船尾を大破して転覆したが、七宝丸や僚船により救助されて鵜浦漁港に曳航され、のち廃棄された。また、B受審人は、頚髄損傷による四肢麻痺の重傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、石川県鵜浦漁港南東方沖合において、漁場から帰航中の七宝丸が、見張り不十分で、漂泊中の幸丸を避けなかったことによって発生したが、幸丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、単独で乗り組んで操船に当たり、石川県鵜浦漁港南東方沖合を漁場から同漁港に向かって帰航する場合、前路で漂泊中の他船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針目標にしていた右舷方の大型浮子を見ることに気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸丸の存在と接近に気付かず、漂泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷船首船底外板に擦過傷を生じ、幸丸の船外機のカバーに破損、左舷船尾に破口をそれぞれ生じさせて転覆させ、また、B受審人に、頚髄損傷による四肢麻痺の重傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、日出前の薄明時、石川県鵜浦漁港南東方沖合の漁場において、パラシュート型シーアンカーを投じて漂泊して竿釣り中、七宝丸が定置網から離れて来航するのを初認し、同船が自船の左舷船尾方わずかのところに向かって接近するのを知った場合、自船を無難に通過するまで、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか衝突することはあるまいと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、七宝丸が少し右転して衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、機関をかけて衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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