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平成13年神審第10号
件名

漁船大栄丸貨物船イリニ エフ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、黒田 均、小金沢重充)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:大栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:イリニ エフ水先人 水先免状:内海水先区

損害
大栄丸・・・左舷船首部に凹傷等
船長が腰部打撲傷
イ 号・・・右舷側外板に擦過傷

原因
イ 号・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
大栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、イリニ  エフが、前路を左方に横切る大栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月15日04時08分
 播磨灘中央部

2 船舶の要目
船種船名 漁船大栄丸 貨物船イリニ エフ
総トン数 4.9トン 24,606トン
全長   182.80メートル
登録長 11.90メートル 176.552メートル
3.05メートル 30.50メートル
深さ 0.88メートル 15.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   8,382キロワット
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 大栄丸は、軽乗用車の後部座席(以下「座席」という。)を操舵室に備えた汽笛装備の、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.05メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、平成12年5月15日02時50分兵庫県坊勢漁港を発し、淡路島雁来埼(かりこみさき)北西方沖の漁場に向かった。
 これより先、A受審人は、所属の漁業協同組合の申合せにより、毎週火、土両曜日が休漁日なので同月13日(土曜日)に休み、翌14日(日曜日)午前中のソフトボール大会に参加した後、夕刻までに帰宅していつもの行動形態に戻し、18時ごろ就寝して翌15日02時30分起床し出漁を迎えたもので、特に疲労又は睡眠不足気味の状態ではなかった。
 03時06分A受審人は、松島灯台から046度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点に達したとき、針路を160度に定め、機関を9.0ノット(対地速力、以下同じ。)の全速力前進にかけ、自動操舵により進行し、船尾甲板に赴き網の取替え作業を行い、同時30分ごろ操舵室に戻り、坊勢漁港から後発した僚船10数隻が、2海里前後の船間距離で点々と後続する状況下、同一の針路速力で続航した。
 A受審人は、船首方1.5海里探知距離にオフセンターとし、1.5キロメートルレンジとしたレーダーを一瞥した後、座席に座った姿勢でいるうち眠気を催してきたが、いずれ播磨灘航路を横断するので、まさか居眠りすることはないと思い、同姿勢を続けると居眠りに陥りやすいから、座席から立ち上がり外気にあたるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、いつしか横に倒れこんで居眠りに陥り、04時03分半松島灯台から136度7.9海里の地点で、左舷船首62度1.1海里に、イリニ エフ(以下「イ号」という。)の白、白、緑3灯を認め得る状況となったが、同船の存在に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、その後イ号が、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、イ号が間近に接近したとき、大幅に転針するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、04時08分松島灯台から138度8.5海里の地点において、原針路原速力のまま、大栄丸の左舷船首部が、イ号の右舷船首部に、後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良好で、付近には微弱な西流があった。
 また、イ号は、船首端から操船位置まで150メートルの鉱石運搬船で、船長Cほか16人が乗り組み、銅鉱石27,000トンを積み、船首8.25メートル船尾8.35メートルの喫水をもって、B受審人が嚮導(きょうどう)に当たり、揚荷の目的で、同日01時05分神戸灯台から155度5.5海里の錨地を発し、岡山県宇野港に向かった。
 B受審人は、その後明石海峡を抜け、船長及び当直中の一等航海士が在橋し、当直操舵手が手動操舵に就いている状況で播磨灘を西進中、03時55分半松島灯台から122度9.7海里の地点に達したとき、針路を247度に定め、機関を13.0ノットの港内全速力前進にかけて進行した。
 そのうち、B受審人は、一等航海士から「レッドライト」の発声を聞き、04時03分半松島灯台から131度8.8海里の地点で、自らも右舷船首31度1.1海里に、大栄丸の白、紅2灯を初認し、間もなく同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることと、自船が避航船であることを知ったが、小型漁船は近づいてから針路速力の変更を行うことがあるので、移動式昼間信号灯の照射等により、大栄丸の注意を喚起すればよいと思い、避航措置が遅れないよう、速やかに減速を開始するなど、同船の進路を避けずに続航した。
 こうして、B受審人は、船長が短音連続を吹鳴している汽笛音を聞きながら、移動式昼間信号灯を用い、大栄丸への直接照射と、イ号右舷側外板の船首尾方向への照射とを繰り返し、大栄丸の動静を監視していたところ、04時06分大栄丸が右舷船首24度820メートルに迫って、ようやく衝突の危険を感じ、左舵一杯と機関停止とを命じたが間に合わず、左転中の船首が200度を向き速力11.0ノットのとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大栄丸は左舷船首部に凹傷等を生じたが、のち修理され、イ号は右舷側外板に擦過傷を生じ、また、A受審人は腰部打撲傷を負った。

(航法の適用等)
 本件は、夜間、播磨灘中央部において、南下中の大栄丸と西行中のイ号が衝突したものであるが、港則法又は海上交通安全法の適用海域で発生していない。よって以下、海上衝突予防法(以下「法」という。)の航法の適用を検討する。
1 イ号の大栄丸初認ごろから衝突までの両船の相対位置関係
 04時03分半から衝突するまでの両船の相対位置関係について、イ号の船型スケールに合わせ、時刻順に大栄丸に対するイ号操船位置からの相対方位距離を列記すれば次のとおりである。
 03分半 右舷船首31度 1.1海里
 04分 同上 30度 1,770メートル
 05分 同上 28.5度 1,300メートル
 06分 同上 24度 820メートル
2 イ号からの相対方位変化
 列記した関係時刻の各相対方位によって、イ号からの1分間の相対方位変化は、04分から05分まで1.5度、05分から06分までは4.5度となり、少しずつ左方に変化し、大栄丸はイ号の船首方に近づきつつある。
 ちなみに、イ号が06分に左舵一杯、機関停止を命じないで、直進した場合、07分少し過ぎ大栄丸はイ号の船首端から120メートルのところを通過する状況であった。
 しかるに、この状況を無難に替わる態勢であるか否かがポイントになるが、イ号の船体規模からして船体中心線上付近の操船位置から船首方死角となる範囲に入り、かろうじて右ウイングに出て認められ、左ウイングに急走して左舷側に替わった点を確認できるものの、かような状況をもって、しかも夜間、無難に替わる態勢とは認められない。
 前示の方位変化は、イ号の操船位置が船体中心線上付近の船橋に固定して示したもので、衝突箇所が右舷方向に船幅の半分、船首方向に100メートル離れていることから生じる方位変化の現象が含まれている。
 よって、本件は、イ号が大栄丸を初認してからほとんど方位変化がなく、つまり衝突のおそれがあるまま接近した関係にあったものと認めるのが相当で、定型航法の適用を検討する段階になる。
3 定型航法
 両船は、相互に相手船の1舷灯とマスト灯のみを認められる相対位置関係にあって、衝突三角形の形状からしても、定型航法のうち法第15条の横切り船の航法を適用することになる。
 つまり、イ号は法第16条の避航船に、大栄丸は法第17条の保持船に相当し、イ号は大栄丸の進路を避けなければならず、一方の大栄丸は針路速力を保持し、法第34条第5項による警告信号を適宜行うほか、イ号と間近に接近したとき、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなくてはならない。現にB受審人は、大栄丸を初認して間もなく、大栄丸と衝突のおそれがあること、イ号が避航船に当たることを認めていたところでもある。
4 避航船の避航可能性と結論
 ところで、横切り船の定型航法を適用する上で、避航船であるイ号は避航措置をとり得ることが前提となる。同措置は、針路・速力の変更をもって行うのであるが、針路変更のみならず、速力減少についても言及しなければならない。
 すなわち、本件の場合、2で示したように、イ号が左転と機関停止を行わず直進した場合、無難に替わる態勢ではないが、07分少し過ぎに大栄丸はイ号の船首方のわずか前方に存在していた。B受審人は、当廷においても、「機関はスタンバイ中で使用可能な状態であった。」旨を供述している。このことは、イ号の機関操作を急激に行わなくても、大栄丸を初認してから速やかに減速措置をとれば、距離をおいてイ号の前路に大栄丸を替わすことができた点を表している。
 イ号側からは、大栄丸の接近が急であったとするB受審人の動静判断の誤りと、右舷側の漁船群と左舷側の反航船3隻の存在とがあって、右転又は左転の避航動作に躊躇(ちゅうちょ)せざるを得なかった点等を指摘し、横切り船の航法を適用するのは適当でなく、船員の常務をもって律するのが相当である旨の主張がある。
 しかしながら、横切り船の航法を否定し、船員の常務をもって律するとすれば、イ号の衝突2分前の左転を完全に無視できず、前路進出等についての検討が不可避で、本件は、同常務をもって両船の原因が即等因につながるものとする事例ではない。
 したがって、以上を総合すると、本件は、横切り船の航法をもって律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、夜間、播磨灘中央部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、イ号が、前路を左方に横切る大栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、播磨灘中央部を西進中、右舷船首方に大栄丸の白、紅2灯を認め、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることと、自船が避航船であることを知った場合、速やかに減速を開始するなど、大栄丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型漁船は近づいてから針路速力の変更を行うことがあるので、移動式昼間信号灯の照射等により、大栄丸の注意を喚起すればよいと思い、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、避航動作が遅れて同船との衝突を招き、大栄丸の左舷船首部に凹傷等を、イ号の右舷側外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、A受審人に腰部打撲傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、漁場に向け播磨灘中央部を南下中、航海当直に当たり眠気を催した場合、座席に座った姿勢を続けると、居眠りに陥りやすいから、立ち上がって外気にあたるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近しているイ号に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行してイ号との衝突を招き、前示の損傷と負傷とを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
(拡大画面:47KB)

参考図2
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