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平成12年神審第127号
件名

漁船第五十八田井丸漁船第二幸友丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月18日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、阿部能正、西田克史)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:第五十八田井丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二幸友丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
田井丸・・・ほとんど損傷ない
幸友丸・・・左舷船首外板に破口を伴う損傷、全損

原因
田井丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸友丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第五十八田井丸が、見張り不十分で、錨泊中の第二幸友丸を避けなかったことによって発生したが、第二幸友丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月11日06時20分
 福井県安島岬北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八田井丸 漁船第二幸友丸
総トン数 19トン 0.5トン
全長 22.80メートル 5.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 558キロワット 18キロワット

3 事実の経過
 第五十八田井丸(以下「田井丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、数隻の僚船とともに漁場の海底清掃を行う目的で、船首0.9メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成12年6月11日05時55分福井県福井港三国区を発し、同区北西方沖合の漁場へ向かった。
 A受審人は、単独で船橋当直にあたり、06時08分半雄島灯台から183度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点で、針路を345度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したころ、A受審人は、周囲を一べつし、前路に他船が見えなかったことから、GPSプロッターに直航針路をセットすることとし、船橋後部の海図台に赴き、操業日誌をもとに清掃海域の場所を確認しながら続航した。
 06時17分A受審人は、雄島灯台から322度0.7海里の地点に達したとき、正船首930メートルのところに第二幸友丸(以下「幸友丸」という。)を視認することができる状況であったが、GPSプロッターへ目的地を入力する作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かずに北上した。
 こうして、A受審人は、その後幸友丸に近づくにつれ、その静止状況から、船首を南方に向けて錨泊中であることが分かる同船に、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、幸友丸を避けることなく進行し、06時20分雄島灯台から334度1.2海里の地点において、田井丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部が、幸友丸の左舷船首部に平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、付近にはわずかな北西流があった。
 また、幸友丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日05時40分福井県福井港三国区を発し、安島岬沖合の釣り場へ向かった。
 06時00分B受審人は、前示衝突地点に至り、水深約60メートルのところで、機関を停止のうえ、船首部から重さ7キログラムの鋼製錨を投じ、直径10ミリメートルの合成繊維製の錨索を80メートル延出して錨泊したのち、他の船舶が通常航行する水域であったが、錨泊中の形象物を掲げないまま、船尾甲板に赴いて釣り竿を両舷に各一本張り出し、釣りを始めた。
 B受審人は、06時17分船首を165度に向けていたとき、正船首方930メートルのところに自船に向首した田井丸を初めて認め、同時18分半衝突のおそれのある態勢で460メートルに接近した同船に対し、両手でタオルを振りながらその動静を見守るうち、同船が同じ態勢のまま間近に接近したことを知ったが、そのうち自船を避けてくれるものと思い、速やかに機関を始動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく、錨泊を続けた。
 こうして、B受審人は、田井丸が同じ態勢で至近に接近したとき、ようやく危険を感じたが、どうすることもできず、幸友丸は、165度に向首したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、田井丸は、ほとんど損傷がなかったが、幸友丸は、左舷船首外板に破口を伴う損傷を生じ、修理費を考慮して全損となった。

(原因)
 本件衝突は、福井県安島岬北西方沖合において、航行中の田井丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の幸友丸を避けなかったことによって発生したが、幸友丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、福井県安島岬北西方沖合を漁場に向け航行する場合、錨泊中の幸友丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、GPSプロッターへ目的地を入力する作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸友丸の存在に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、幸友丸の左舷船首部外板に破口を伴う損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、福井県安島岬北西方沖合において、魚釣りを行いながら錨泊中、田井丸が衝突のおそれのある態勢のまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに機関を始動するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち自船を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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