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平成12年神審第150号
件名

貨物船君鉄丸漁船勇喜丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月1日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、阿部能正、小金沢重充)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:君鉄丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:勇喜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
君鉄丸・・・右舷中央部ハンドレールに曲損等
勇喜丸・・・船首部を圧懐

原因
君鉄丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
勇喜丸・・・居眠り運航防止措置不十分、注意喚起信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、君鉄丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る勇喜丸の進路を避けなかったことによって発生したが、勇喜丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、有効な音響による避航を促す信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月5日11時13分
 室戸岬南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船君鉄丸 漁船勇喜丸
総トン数 10,747トン 7.73トン
全長 149.06メートル  
登録長   11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,192キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 君鉄丸は、専ら高知県須崎港で積んだ石灰石を各地に運送する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか10人が乗り組み、石灰石16,690トンを載せ、船首8.32メートル船尾8.20メートルの喫水をもって、平成12年5月5日06時30分須崎港を発し、千葉県木更津港に向かった。
 A受審人は、単独の船橋当直に当たり、10時53分室戸岬灯台から195度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点で、針路を075度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.3ノットの対地速力で進行した。
 11時10分A受審人は、室戸岬灯台から146度3.7海里の地点に達したとき、右舷船首27度1,700メートルのところに、前路を左方に横切る態勢の勇喜丸を初めて視認したが、一瞥(いちべつ)しただけで自船の船首方を無難に替わるものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、勇喜丸に対する動静監視を十分に行うことなく、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないで続航した。
 11時12分半A受審人は、右舷前方至近に勇喜丸を認め、衝突の危険を感じて急ぎ手動操舵により左舵をとったが及ばず、11時13分室戸岬灯台から138度3.9海里の地点において、君鉄丸は、045度に向首したとき、原速力のまま、その右舷中央部に、勇喜丸の船首が前方から88度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、視界は良好であった。
 また、勇喜丸は、立縄釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日01時30分高知県室津港を発し、03時30分室戸岬南東方15海里付近の漁場に至って操業を開始し、きんめだい200キログラムの漁獲を得て、10時ごろ同漁場を発進し帰途に就いた。
 ところで、B受審人は、夜半過ぎに出港して室戸岬南東方15から38海里ばかりの漁場で操業し、昼ごろ帰港して水揚げを終え、帰宅して休息するという、日帰り操業をほとんど毎日繰り返し、当日もいつものように出漁したものであった。
 漁場を発したB受審人は、室戸岬に向けて北上を続け、11時03分室戸岬灯台から137度5.5海里の地点で、針路を313度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
 B受審人は、操舵室の後ろに立ち右舷側の壁に寄り掛かった姿勢で見張りに当たっていたところ、いつしか眠気を感じるようになったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航とならないよう、操舵室上部の開口部から顔を出して見張るなり、手動操舵に切り替えるなど、居眠り運航の防止措置をとらないでいるうち、居眠りに陥った。
 11時10分B受審人は、室戸岬灯台から137.5度4.4海里の地点に達したとき、左舷船首31度1,700メートルのところに、前路を右方に横切る態勢の君鉄丸を視認することができ、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、居眠りしていたのでこのことに気付かなかった。
 こうして、B受審人は、君鉄丸に対して有効な音響による避航を促す信号を行うことも、間近に接近したとき機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための協力動作をとることもできないで続航中、突然衝撃を受け、勇喜丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、君鉄丸は、右舷中央部ハンドレールに曲損等を、同部外板に擦過傷をそれぞれ生じ、勇喜丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、室戸岬南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行する君鉄丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る勇喜丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する勇喜丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、有効な音響による避航を促す信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、室戸岬南東方沖合を東行中、右舷前方に前路を左方に横切る態勢の勇喜丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで自船の船首方を無難に替わるものと思い、勇喜丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、自船の右舷中央部ハンドレールに曲損及び同部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、勇喜丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、単独で操船に当たり、室戸岬南東方沖合を漁場から室津港に向けて北上中、操舵室の後ろに立って右舷側の壁に寄り掛かった姿勢で見張りに当たっていたところ眠気を感じた場合、居眠り運航とならないよう、操舵室上部の開口部から顔を出して見張るなり、手動操舵に切り替えるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する君鉄丸に気付かず、有効な音響による避航を促す信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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