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平成13年横審第37号
件名

漁船海福丸遊漁船国盛丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月1日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、吉川 進、甲斐賢一郎)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:海福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:国盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:海福丸甲板員

損害
海福丸・・・左舷船首部に擦過傷
国盛丸・・・船首部を圧懐
釣客1人が頸椎捻挫

原因
海福丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
国盛丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、海福丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の国盛丸を避けなかったことによって発生したが、国盛丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年10月24日17時00分
 三重県鎧(よろい)埼東南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船海福丸 遊漁船国盛丸
総トン数 14トン 11トン
登録長 18.41メートル  
全長   17.68メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160  
出力   426キロワット

3 事実の経過
 海福丸は、小型機船底びき網漁業に従事する船体中央部船首寄りに操舵室があるFRP製漁船で、A受審人が父であるB指定海難関係人と2人で乗り組み、底びき網漁の目的で、船首0.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成9年10月24日02時30分愛知県東幡豆港を発し、大王埼東方沖合の水深約100メートルの漁場に向かい、04時30分同漁場に到着して操業を繰り返した。
 ところで、海福丸は、B指定海難関係人の海技免状の資格が四級小型船舶操縦士で船舶職員法の乗組み基準を満たさないため、同指定海難関係人が甲板員として、また、有資格のA受審人が船長として乗り組んでいたが、操業を含む船舶の運航について長年の経験を有する同指定海難関係人の指揮のもとに運航されていた。A受審人は、操業時を含む出航から入航までの単独の船橋当直をB指定海難関係人に任せ、自らは曳網中には操舵室で操船する同指定海難関係人の横で見張りに、揚網後には船尾甲板で漁獲物選別作業(以下「選別作業」という。)にそれぞれ当たるほか、港内入港前に同当直を交代して着岸時の操船に当たっていた。
 16時30分A受審人は、鎧埼灯台から150度(真方位、以下同じ。)9.4海里の地点で、操業を終えて発進し、B指定海難関係人に船橋当直を任せ、自らは船尾甲板で選別作業に当たって帰途に就いた。
 発進時にB指定海難関係人は、針路を358度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 その後B指定海難関係人は、A受審人が見つけた左舷前方の遊漁船を替わして原針路に戻したのち、自らが船尾甲板に行って手伝えば選別作業を早く済ますことができると考え、16時55分鎧埼灯台から131度6.0海里の地点に差し掛かったとき、機関を全速力前進にかけて17.0ノットの速力とし、周囲を一瞥して航行に支障となる他船を認めなかったことから、同作業を行う5分ばかりの時間に接近する他船はいないものと思い、操舵室を無人として船尾甲板に移動し、周囲の見張りを十分に行わずに続航した。
 16時55分少し過ぎA受審人は、B指定海難関係人が操舵室を無人にして選別作業を手伝いにきたが、同指定海難関係人が同室を離れる前に周囲に他船がいないことを十分に確認してきたものと思い、操舵室に戻って引き続き周囲の見張りを十分に行うよう指示することなく、同指定海難関係人とともに下を向いた姿勢で同作業を始め、周囲の見張りが不十分になったまま、同じ針路、速力で進行した。
 16時58分B指定海難関係人は、鎧埼灯台から124度5.4海里の地点に達したとき、正船首方1,050メートルのところに、黒球を掲げて錨泊中の国盛丸がおり、その後衝突のおそれがある態勢で同船に向首接近していることを認め得る状況であったが、依然、操舵室を無人にして選別作業を行っていたので、国盛丸に気づかず、A受審人が同船を避けることができないまま続航中、17時00分鎧埼灯台から119度5.1海里の地点において、海福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、国盛丸の右舷船首部に後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮侯は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、衝撃で衝突を知り、事後の措置に当たった。
 また、国盛丸は、船体中央部に操舵室があるFRP製遊漁船で、C受審人ほか1人が乗り組み、釣客12人を乗せ、たい釣り遊漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日12時30分三重県国崎(くざき)漁港を発し、同県鎧埼の東南東方沖合約5海里の人工魚礁が敷設してある釣場に向かった。
 ところで、国盛丸は、発航の前々日22日に進水し、C受審人が直ちに遊漁船業を営むため、初めて航行の用に供するための第1回定期検査を受検後、船舶検査証書が発給されるまでの約1箇月間、臨時航行許可証の発給を受けて運航されていた。同船の揚錨設備は、油圧駆動のウインチで、重量約80キログラムの四爪錨、直径24ミリメートル長さ3メートルの錨鎖及び直径18ミリメートル長さ200メートルのクレモナと称する合成繊維索(以下「錨索」という。)を順に連結して同ウインチに巻き込み、揚錨時には錨索を毎分70メートルで巻き上げる能力を有していた。C受審人は、錨泊して遊漁する際には、水深の約1.5倍を目安に錨索を伸出することとし、同ウインチを使用して投揚錨を行っていた。
 12時45分C受審人は、前示釣場に到着し、黒球1個を操舵室頂部のマストに掲げて錨泊したのち遊漁を始め、その後魚の釣れ具合を見ながら、人工魚礁の周辺を何回か転錨しては遊漁を続け、16時00分前示衝突地点に移動して船首を東北東方に向け、投錨して錨索を約75メートル伸出したのち遊漁を再開し、周囲の見張りに当たりながら、釣道具や釣れた魚の整理に当たった。
 16時30分C受審人は、夕まづめを迎えてそろそろ魚の餌食いが良くなり始めるころとなったので、船首部左舷側に立ち、活餌(いきえ)を一杯に詰めたこませ籠(かご)を水深の半分の深さまで投入したのち引き揚げる方法で、1回数十秒を要する撒き餌作業を始め、その後数分間隔で同作業を繰り返した。
 16時58分C受審人は、前示衝突地点で、船首を068度に向けて錨泊しているとき、右舷正横後20度1,050メートルのところに、航行中の海福丸がおり、その後衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近していることを認め得る状況であったが、ちょうどこのころ魚の餌食いが良くなったこともあり、撒(ま)き餌(え)作業を連続して行うことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行うことなく、海福丸に気づかず、警告信号を行うことも、更に接近してもウインチを起動して揚錨するなり、機関を使用して移動するなりして衝突を避けるための措置もとらないまま、同作業を行いながら錨泊を続けた。
 17時00分少し前C受審人は、ふと右舷後方を見たとき、同方位100メートルのところに、海福丸を初めて認め、急いで操舵室に戻り、機関を始動して全速力後進にかけたが間に合わず、国盛丸は、同じ船首方位のまま、船体がわずかに後退したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海福丸は、左舷船首部に擦過傷を生じただけで、国盛丸は、船首部を圧壊したが、のち修理され、国盛丸の釣客1人が軽度の頚椎捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は、三重県鎧埼東南東方沖合において、航行中の海福丸が、操舵室を無人にしたばかりか、見張り不十分で、前路で錨泊中の国盛丸を避けなかったことによって発生したが、国盛丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 海福丸の運航が適切でなかったのは、選別作業を行いながら帰航するに当たり、船長が、同作業を手伝いにきた船橋当直者に対し、操舵室に戻って引き続き周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、船橋当直者が、選別作業を手伝うため船尾甲板に移動して操舵室を無人にしたこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、三重県鎧埼東南東方沖合において、自らが船尾甲板で選別作業を行いながら、B指定海難関係人に船橋当直を任せて帰航中、同指定海難関係人が操舵室を無人にして同作業を手伝いにきた場合、前路の他船を見落とさないよう、同指定海難関係人に対し、同室に戻って引き続き周囲の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同指定海難関係人が操舵室を離れる前に周囲に他船がいないことを十分に確認してきたものと思い、同室に戻って引き続き周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、操舵室が無人となって周囲の見張りが十分に行われず、前路で錨泊中の国盛丸に気づかず、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、海福丸の左舷船首部に擦過傷及び国盛丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせ、国盛丸の釣客1人に頚椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、三重県鎧埼東南東方沖合において、錨泊して遊漁を行う場合、自船に向首接近する海福丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、夕まづめのころとなって魚の餌食いが良くなってきたことから撒き餌作業を連続して行うことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近してくる海福丸に気づかず、警告信号を行うことも、更に接近してもウインチを起動して揚錨するなり、機関を使用して移動するなりして衝突を避けるための措置もとらないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに釣客1人に頚椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、三重県鎧埼東南東方沖合において、船長職を執るA受審人が船尾甲板で選別作業を行いながら、自らが船橋当直を任されて帰航する際、同作業を手伝うため船尾甲板に移動し、操舵室を無人として周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、今後船橋当直に就く際には、見張りの重要性を認識し、同当直に当たらなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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