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平成12年第二審第16号
件名

プレジャーボート幸丸プレジャーボート功生丸衝突事件[原審神戸]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年10月10日

審判庁区分
高等海難審判庁(森田秀彦、山崎重勝、田邉行夫、川本 豊、山田豊三郎)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:功生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
幸 丸・・・左舷船首部、亀裂及び破口
功生丸・・・左舷船首部及び同船尾部、亀裂及び破口
同乗者1人が頭部挫滅で死亡

原因
功生丸・・・法定灯火不表示、動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
幸 丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

二審請求者
受審人A

主文

 本件衝突は、功生丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、前路から接近する幸丸に対し、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年7月21日21時10分
 徳島県徳島小松島港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート幸丸 プレジャーボート功生丸
全長 9.95メートル 8.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 77キロワット 128キロワット

3 事実の経過
 幸丸は、船体中央部付近にキャビン区画を、その後方に操舵区画を配置したFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、花火見物の目的で、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成9年7月21日20時45分徳島県吉野川大橋付近の係留地を発し、法定灯火の他に黄色回転灯を点灯して同県徳島小松島港小松島区に向かった。
 ところで、幸丸の白色全周灯は、船尾甲板上の、操舵室の天井より少し高い位置に展張したキャンバス製オーニング上部の後端中央部に設置され、その前方17センチメートル(以下「センチ」という。)のところに黄色回転灯が取り付けられており、同灯と白色全周灯とがほぼ同じ高さで、夜間、船首方から来航する他船から見ると、両灯が点灯された状態では、白色と黄色とが混濁し、すぐには白色全周灯を識別できない状況にあった。
 また、両色灯は、キャビン区画天井の前端中央部に設置され、停船状態における同灯の水面上の高さと船首端の上面とがほぼ同じ高さで、機関を回転数毎分2,700で航走すると、船首端が停船状態よりも29センチ浮上し、夜間、船首方から来航する他船から見ると、船首の上下動や左右の振れなどによって同灯火が見え隠れする状況にあった。
 A受審人は、発航時から操舵操船に当たり、吉野川口灯浮標を船首目標にして吉野川を下り、同灯浮標の手前から徐々に右転を始め、21時06分徳島津田外防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から019度(真方位、以下同じ。)2,400メートルの地点において、針路を小松島区沖合に向く180度に定め、機関回転数を毎分3,000にかけ、16.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、船首をやや上下左右に振りながら手動操舵によって進行した。
 21時09分A受審人は、東灯台から045度1,100メートルの地点に達したとき、徳島第1号灯浮標及び同第2号灯浮標に接近したので、機関回転数を毎分2,700の14.0ノットに減速し、そのころ右舷船首7度850メートルのところに功生丸が北上し、同船の見え隠れする紅灯を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近していたが、右舷側方の港内の状況に気をとられ、船首方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気づかず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。
 21時10分幸丸は、東灯台から066度860メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が功生丸の左舷船首部に前方から14度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期に当たり、視界は良く、月齢は16日であった。
 また、功生丸は、船体中央部に機関区画を、その後方に操舵区画を配置したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者2人を乗せ、花火見物の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同年7月21日19時25分吉野川大橋付近の係留地を発し、徳島小松島港小松島区に向かい、20時ごろ同区に到着して花火見物ののち、20時58分小松島東防波堤北灯台から247度150メートルの地点を発進し、法定灯火を点灯して帰途についた。
 ところで、功生丸の白色全周灯は、操舵区画天井部に張られたキャンバス製オーニング上部の前端中央部に設置されていたが、その明かりが前部甲板に反射していた。また、両色灯は、機関区画前端部中央に立てた木製柱上部に設置され、停船状態における同灯と船首端の上面とがほぼ同じ高さで、機関を回転数毎分2,000で航走すると、船首端が停船状態よりも38センチ浮上し、夜間、船首方から来航する他船から見ると、船首の上下動や左右の振れなどによって同灯火が見え隠れする状況にあった。
 B受審人は、以前、海面の浮遊物がプロペラに巻きついたり、海水吸入口を塞いだりしたことがあったので、月明かりの下、船首至近の海面に注意を払ってこれらの浮遊物を避けて航行することとし、21時02分ごろ小松島高曽根灯標を左舷側に航過し、そのころ前部甲板に反射して前方の浮遊物の発見を妨げる状況にあった白色全周灯を消灯して両色灯のみとし、法定灯火を表示することなく航行した。
 21時05分半B受審人は、東灯台から167度1,520メートルの地点において、針路を014度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけ、14.0ノットの速力で、手動操舵により、船首をやや上下左右に振りながら進行した。
 21時07分B受審人は、左舷船首8度2,700メートルに幸丸の白色と黄色の混濁した灯火を初認し、すぐには白色全周灯を識別できなかったが、やがてこれが接近する小型船の灯火であることに気づいたものの、その後同船に対する動静監視を行うことなく、船首至近の海面に注意しながら続航した。
 21時09分B受審人は、左舷船首7度850メートルに幸丸の前示灯火と見え隠れする緑灯を認めることができ、その後衝突のおそれが発生していたが、依然同船に対する動静監視を行っていなかったので、このことに気づかず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 21時10分わずか前B受審人は、船首至近に幸丸の白色全周灯と黄色回転灯及び船体を認め、驚いて右舵をとったが、及ばず、功生丸は原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸丸は左舷船首部に、功生丸は左舷船首部及び同船尾部にそれぞれ亀裂及び破口を伴う損傷を生じたが、のち両船とも修理され、功生丸の同乗者D(昭和25年5月14日生)が、頭部挫滅で死亡した。

(原因)
 本件衝突は、夜間、徳島小松島港徳島区において、北上する功生丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、前路から接近する幸丸に対し、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、南下する幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、徳島小松島港小松島区から係留地に向かって帰航中、前路に幸丸の白色と黄色の混濁した灯火を視認し、その後それを接近する小型船の灯火と認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首至近の海面の浮遊物に注意を払いながら航行し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、幸丸と衝突のおそれが発生していることに気づかず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、功生丸の左舷船首部及び同船尾部に亀裂を伴う破口を並びに幸丸の左舷船首部に亀裂を伴う破口をそれぞれ生じさせ、また功生丸の同乗者を死亡させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、徳島小松島港沖合を航行する場合、船首方から接近する他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側方の港内の状況に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、功生丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気づかず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、功生丸の同乗者を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成12年7月25日神審言渡
 本件衝突は、幸丸が、法定灯火の表示が適切でなかったばかりか、見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと、功生丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する.


参考図
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