日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成12年横審第86号
件名

貨物船ちとせ漁船第三十一日東丸漁具損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成13年7月6日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(葉山忠雄、小須田 敏、甲斐賢一郎)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:ちとせ一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第三十一日東丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
ちとせ・・・損傷ない
日東丸・・・まき網に損傷

原因
ちとせ・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
日東丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件漁具損傷は、ちとせが、動静監視不十分で、第三十一日東丸から展張されていたまき網を避けなかったことによって発生したが、第三十一日東丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年12月22日03時53分
 鹿島灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船ちとせ 漁船第三十一日東丸
総トン数 5,599トン 135トン
全長 128.71メートル 39.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 6,178キロワット 956キロワット

3 事実の経過
 ちとせは、京浜港と苫小牧港との間で定期運航されている混載自動車専用船で、A受審人、船長Cほか12人が乗り組み、車両142台を搭載し、船首4.70メートル船尾5.75メートルの喫水をもって、平成10年12月21日18時40分京浜港川崎区を発し、苫小牧港に向かった。
 ところで、ちとせの船橋当直は、4時間交替の3直制とし、4時から8時までをA受審人、8時から12時までを三等航海士及び0時から4時までを二等航海士がそれぞれ甲板手一人とともに行うもので、また、同受審人は、昭和56年11月にP海運株式会社に入社し、同社所属船に勤務するうち本州東岸海域の航行には十分に慣れていた。
 翌22日02時26分犬吠埼灯台から130度(真方位、以下同じ。)8.2海里のところで、船橋当直中の二等航海士は、針路を004度に定め、機関を16.8ノットの全速力前進にかけ、自動操舵で進行していたところ、03時40分同灯台から028度17.0海里の地点で、A受審人が昇橋し、同受審人は、左舷船首3度3.7海里に第三十一日東丸(以下「日東丸」という。)の多数の作業灯とその西方に漁船群の灯火とを初めて認め、同時45分同灯台から026度18.2海里の地点に達したとき、二等航海士から船橋当直を引き継いで同針路、同速力で進行した。
 A受審人は、03時47分犬吠埼灯台から025度18.6海里の地点にきたとき、日東丸が漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げ、左舷船首10度1.9海里のところを右方に移動しながら投網しているのを認めたが、まき網を展張していると思わず、同船の船尾方に向けて針路を355度に転じたので、このまま続航すれば無難に替わるものと思い、その後日東丸の動静を十分に監視することなく、左舷船首方の漁船群に注意をしながら進行した。
 03時48分犬吠埼灯台から024.5度19.0海里の地点にきたとき、A受審人は、ほぼ円を描きながら投網している日東丸が右舷船首9度1.4海里のところで円上の最東端に達し、その付近にまき網の存在を示す点滅式標識灯を設置していたが、左舷船首方の漁船群に依然として気をとられ、日東丸の動静を十分に監視していなかったので、同船のまき網の展張状態が分からないまま続航した。
 A受審人は、03時52分犬吠埼灯台から023度20.0海里の地点で、停止した日東丸を左舷船首8度0.3海里に見るようになったとき、同船を大きく避けるつもりで038度に転じたところ、同船から展張されていたまき網の南東端に著しく接近する状況となったが、折から同船を離れてちとせに接近する小型船に気をとられ、同網に設置された赤、白色の点滅式標識灯に気付かないで進行し、ちとせは、03時53分犬吠埼灯台から023度20.3海里の地点で、原針路、原速力のまま、日東丸から展張されていたまき網を乗り切った。
 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、視界は良好であった。
 そのころA受審人は、日東丸から離れた小型船がちとせの船首部を照射しているのを認めたが、事件発生に気付かないで航海を続けていたところ、日東丸からの船舶電話による連絡を受け、このことを知った。
 また、日東丸は、専らまき網漁に従事する鋼製漁船で、運搬船2隻と探索船1隻とで船団を構成し、操業の目的で、B受審人ほか24人が乗り組み、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって同月21日20時00分千葉県銚子港を発し、同港北東方沖合の漁場に向かい、23時00分同漁場に至って操業を開始した。
 ところで、日東丸のまき網漁における網の展張方法は、操業開始地点においてレッコボートと称する小型船にまき網の一端を渡し、同ボートに同網をその場で保持させて張り腰と呼ばれる潮流による網の流向に対して直角となる方向に、全長1,400メートルのほぼ半分のところに赤色の、並びに4分の1及び4分の3のところに白色の点滅式標識灯を設備したまき網と同網に連結した長さ800メートルの大手ワイヤと称するワイヤロープとを、展張しながら右回りに6分間で一周し、張り終わりには直径約500メートルの円を作ってレッコボートに戻るものであった。
 こうしてB受審人は、03時40分犬吠埼灯台から022.5度20.3海里の地点に至って、第3回目の操業を行うこととし、同時45分同地点において、漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げ、操舵室前部、後部マスト及び船尾端に作業灯各3個を点灯し、船首を340度に向け、約9.0ノットの速力で右回りに投網を開始し、そのころちとせの白、白、紅3灯を左舷船尾12度2.3海里に初認し、一べつして同船とは無難に替わると判断して進行した。
 B受審人は、03時48分犬吠埼灯台から022.8度20.5海里の地点において、ほぼ180度を向いたとき、右舷船首4度1.5海里にちとせの白、白、緑3灯を見るようになり、自船の投網方向に近づくのを認めたが、自船が漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げているうえ、まき網に設置した標識灯を点灯しているので、いずれちとせが同網を避ける針路に転じるものと思い、警告信号を行うことなく、そのまま続航した。
 03時51分B受審人は、まき網と大手ワイヤの全部を展張して投網開始地点に戻り、船首を340度に向けて停止し、同時52分レッコボートから網の一端を受け取ってまき網の底部にある環ワイヤを巻き始めたとき、左舷船尾7度0.3海里でちとせが針路を転じたものの、展張したまき網の南東端に著しく接近する態勢となったことから、汽笛による長音一回の注意喚起信号を行うとともに、同船にレッコボートを近づけさせて同船に更に右転を促そうとしたが効なく、前示のとおりちとせがまき網を乗り切った。
 B受審人は、レッコボートにサーチライトを用いさせ、ちとせの船名を確認し、のち、同船に船舶電話で事件の発生を連絡した。
 その結果、ちとせに損傷はなかったが、日東丸はまき網に損傷を生じ、のち修理された。

(原因)
 本件漁具損傷は、夜間、鹿島灘において、北上中のちとせが、動静監視不十分で、まき網による漁ろうに従事中の日東丸から展張されていた同網を避けなかったことによって発生したが、日東丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鹿島灘を北上中、右舷船首方にまき網による漁ろうに従事中の日東丸を認めた場合、同網の展張状態を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、日東丸の船尾方に向けて針路を転じたので、このまま進行すれば無難に替わると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船から展張されていたまき網を避けないで進行して同網を乗り切る事態を招き、同網に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、鹿島灘でまき網を投網中、ちとせが日東丸の投網方向に近づくのを認めた場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船が漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げているうえ、まき網に設置した標識灯を点灯しているので、いずれちとせが同網を避ける針路に転じると思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船が同網を乗り切る事態を招き、同網に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION