日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年長審第26号
件名

漁船第二十八野村丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年9月5日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、平田照彦、亀井龍雄)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第二十八野村丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
B 職名:第二十八野村丸漁ろう長

損害
甲板員が両大腿骨開放性骨折、多発肋骨骨折、外傷性血気胸及び腸腔内出血の重症

原因
乗船者に対する教育・指導不十分、漁労作業の不適切

主文

 本件乗組員負傷は、新規採用の乗船者に対する教育・指導が不十分であったことと、同人を許可があるまで揚網作業に従事させない旨の指示が不徹底であったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月25日6時40分
 東シナ海

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八野村丸
総トン数 135トン
全長 48.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 853キロワット

3 事実の経過
 第二十八野村丸(以下「野村丸」という。)は、大中型まき網漁業船団の網船として操業に従事する鋼製漁船で、船体後部に網置場を配置し、揚網用の甲板機械として、船尾にネットローラ及びパワーブロック付きのブーム、上甲板左舷側にパースウィンチ2台、右舷側にコーンローラ2台、セクリローラ2台、右舷ブルワーク上にサイドローラその他を装備していた。
 サイドローラは、直径が約23センチメートル(以下「センチ」という。)で、上甲板からブルワーク上縁までの高さが81センチ、ブルワーク上縁とサイドローラとの隙間が19センチで、油圧モーターで駆動され、操作ハンドルによって回転方向と回転速度が調整できるようになっていた。
 野村丸は、1航海約23日で、船体整備をする8月を除いて東シナ海一帯で周年夜間操業し、1晩に1ないし3回操業していた。
 操業は、長さ約1,000メートル幅約400メートル目の大きさ2センチ四方の網で魚群を囲んだのち揚網にかかり、網下部に取り付けられている環が全部右舷側にくるまで環ワイヤをパースウィンチで巻き締め、次にネットローラ及びパワーブロックを使用して船尾側から揚網して網を網置場に収納していき、海中の網が船体長さぐらいになると運搬船を網の反対側に付け、コーンローラ、セクリローラ及びサイドローラを使用して右舷側から網を引き揚げ、このとき数人の乗組員が右舷側に位置してサイドローラ越しに手で引き寄せた網を足元に重ねていき、野村丸と運搬船との距離が15メートルほどになると、クレーンを使用して魚をすくって運搬船に取り込んだ後、再度ネットローラ及びパワーブロックを使用して網置場に網を収納するという手順で行われていた。
 ところで、右舷側から網を引き揚げる際、網の状況を監視しながら引き揚げ速度を毎秒1メートルほどに各ローラの操作ハンドルで調整するが、ときとして網がサイドローラに巻きつくことがあり、そのときは直ちに各ローラを一時停止させ、サイドローラを逆転させて巻きついた網を引き出さなければならず、熟練の乗組員は、網がサイドローラに巻きついたとき網に引っ張られてサイドローラに巻き込まれることのないよう、網目に指を入れずに手のひらで網をつかんで引き寄せるようにしていた。
 A受審人は、M漁業株式会社の就業規則で野村丸での安全及び教育訓練の担当者に定められており、操業中は漁ろう長の指揮のもとで現場責任者として甲板作業に従事していた。
 B指定海難関係人は、操業に関する総責任者で、操業時は船橋で操船と指揮にあたるが、乗組員は全員熟練者であったことから、揚網中網がサイドローラに巻きつくなど異常発生時の処置については現場の乗組員に任せていた。
 A受審人は、平成12年4月7日Cが中学校を卒業してすぐ甲板員として新規採用され、船内作業についてなんらの教育も受けないまま乗船したとき、同人に対して2年ほど賄いの仕事を担当し、その間に自分で甲板作業を見習って慣れるにしたがって甲板作業を手伝うようにと指示したのみで、熟練の現場甲板員が適宜作業要領を教えるものと思い、同人に対して異常発生時の対処方法や回転機械の危険性などについての教育をすることなく、また、同人が乗船後2航海目の同年5月ごろから自主的に甲板作業を手伝うのを認めたとき、作業現場で指導することもなかった。
 B指定海難関係人は、C甲板員の能力の向上を見定めて甲板作業に従事させても良いか否かを判断する立場にあったところ、5月ごろ揚網作業中同人が網を引く作業を手伝っているのを認め、同作業に従事するには時期尚早であるので手を出さないよう注意したが、許可があるまで揚網作業を行ってはならない旨の指示を同人及び現場責任者に対して十分に徹底していなかった。
 野村丸は、A受審人、B指定海難関係人、C甲板員ほか19人が乗り組み、船首2.0メートル船尾5.0メートルの喫水で、同月22日07時15分長崎県奈良尾港を発して東シナ海の漁場に至り、翌23日から操業を始め、翌々25日1回目の投網後03時15分船尾側からの揚網を終え、06時15分ごろから右舷側からの揚網の準備作業にかかった。
 B指定海難関係人は、操舵室で指揮にあたり、A受審人を船尾側のコーンローラ及びサイドローラの操作係に、甲板員3ないし4人をサイドローラ前に配置したが、C甲板員がサイドローラ前に位置していることを黙認し、06時35分右舷側からの揚網を開始した。
 野村丸は、右舷側から揚網中、C甲板員の前で網がサイドローラに巻きつき、06時40分北緯29度11分東経127度1分の地点において、同人がサイドローラを停止するよう連絡しないまま網を引き出そうとしてそのまま引き込まれ、これに気付いたA受審人が急ぎサイドローラの操作ハンドルを停止位置にとった。
 当時、天候は曇で風力3の東南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 この結果、C甲板員は、網とともにサイドローラの周囲を3回転ほどし、両大腿骨開放性骨折、多発肋骨骨折、外傷性血気胸及び腸腔内出血の重症を負った。

(原因)
 本件乗組員負傷は、新規採用された甲板員が船内作業についてなんらの教育も受けないまま初めて乗船した際、同人に対する教育・指導が不十分であったことと、同人を許可があるまで揚網作業に従事させない旨の指示が不徹底であったこととにより、同人が自主的に揚網作業に従事中、サイドローラに巻きついた網を引き出そうとして網とともにサイドローラに巻き込まれたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、新規採用された甲板員が船内作業についてなんらの教育も受けないまま初めて乗船した場合、網がサイドローラに巻きついたときの対処方法などを知らないまま揚網作業に従事することのないよう、異常発生時の対処方法や回転機械の危険性などを教育し、かつ、現場で指導したのち作業に就かせるなど、十分に教育・指導すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、現場の甲板員が新乗船者に適宜作業要領を教えるものと思い、新乗船者を十分に教育・指導しなかった職務上の過失により、新乗船者が異常発生時の対処方法や回転機械の危険性などを知らないまま、揚網作業に従事する事態を招き、同人に両大腿骨開放性骨折、多発肋骨骨折、外傷性血気胸及び腸腔内出血の重症を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、新規採用された甲板員が船内作業についてなんらの教育も受けないまま初めて乗船した際、許可があるまで同人に揚網作業を行ってはならない旨の指示が不徹底であったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION