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平成13年那審第10号(第1)
平成13年那審第9号(第2)
件名

(第1)プレジャーボート玉久丸運航阻害事件
(第2)プレジャーボート玉久丸同乗者死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年9月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:玉久丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
(第1)シフトロッドがシフトレバーとの連結部から抜け出し航行不能
(第2)B同乗者が溺水による死亡

原因
(第1)船内外機ドライブユニットのシフトロッドの連結方法不適切
(第2)服装に関する指揮・監督の不適切

主文

(第1)
 本件運航阻害は、船内外機ドライブユニットのシフトロッドの連結方法が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
(第2)
 本件同乗者死亡は、同乗者が、船長の制止を聞き入れないまま、遊泳が続けられたことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成12年9月5日14時05分
 沖縄県前泊漁港北方沖合
(第2)
 平成12年9月5日14時35分
 沖縄県前泊漁港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート玉久丸
総トン数 0.9トン
登録長 6.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 25

3 事実の経過
 玉久丸は、昭和62年3月に進水したFRP製プレジャーボートで、主機として船内に備えられたディーゼル機関と推進装置として船外に備えられたヤンマーディーゼル株式会社が製造したSZ80型と称するドライブユニットとで構成された船内外機を装備していた。
 ドライブユニットは、主機の出力軸から同ユニットの自在継手、水平入力軸、上部駆動歯車、クラッチ機構、被駆動歯車、垂直駆動軸、下部駆動歯車、被駆動歯車、水平駆動軸及び推進器翼へと順に出力を伝達するとともに、チルトと称する装置で推進器翼の推力方向を微調整して最適な推進効率を得る機能及び同ユニットの海水面に対する俯角を変更して浅瀬の航走を可能とする機能並びにステアリングバーで同ユニットを旋回させて舵に代える機能などを備えていた。
 クラッチ機構は、操舵輪の右舷側に設置されたクラッチハンドルを前後進及び中立側に操作すると同ハンドルとワイヤで連結されたドライブユニット下部のクラッチ用レバーが上下し、同レバーと連結したステンレス鋼製のシフトロッドが同ユニット上部のシフトレバーを上下に動かしてクラッチを前後進及び中立側にそれぞれ切り替えるようになっていた。
 シフトロッドの連結方法は、各レバーに開けられた穴に90度の角度に曲げられた同ロッドの両端を差し込み、同ロッドに開けられたピン穴に黄銅製の割ピンを差し込んでそれぞれ連結する方法で、連結状況は外部から容易に確認できるようになっていた。
 A受審人は、平成11年8月玉久丸を購入し、農業の傍ら1箇月に3ないし5回遊漁を行い、1回につき主機を30ないし70分間運転していた。
 A受審人は、以前宮古列島多良間島の祭見物を弟から誘われた際に一旦は断っていたものの、同12年9月5日09時00分天気も良く、弟達にも会いたくなったことから、同島へ行ってみようかと思いながら釣りに出かける準備をしていたところ、友人Bの訪問を受け、そのとき同島の友人に釣りを兼ねて同島へ行く旨の電話をかけた。
 傍らで電話を聞いていたB友人は、暇であったことから自分も同島へ行く気になり、A受審人と同行することにした。
 A受審人は、多良間島の友人への土産として泡盛1升、菓子などを持ち、B友人と別々の自動車で自宅を出発し、途中、友人C宅に寄って同島に行く旨などの話をしたのち沖縄県伊野田漁港に向った。
 そののち、C友人は、多良間島へ行ったことがなかったことなどからA受審人等と同行しようと思い、伊野田漁港に向った。
 A受審人は、同漁港に到着したのち10時10分トレーラーから玉久丸を海に降ろして船に荷物を積込んでいたとき、C友人が船に乗り込んできたが拒否する理由もないことから、3人で多良間島へ行くことにした。
 こうして、玉久丸は、A受審人が単独で乗り組み、友人2人を同乗者として乗せ、多良間島の祭見物の目的で10時30分伊野田漁港を発し、同島に向った。
 A受審人は、航海中1人で操船を続け、途中同乗者2人が土産の泡盛を飲み始め、同受審人も飲酒を勧められたが断り、12時30分沖縄県前泊漁港に着岸した。
 A受審人は、泡盛約3合の大半を飲んで泥酔して立つこともできないC同乗者を船から降ろし、3人で多良間島の友人の長男が運転する自動車に乗って祭会場に行き、同乗者2人を車中に残したまま祭を見物して弟達とも会ったのち、前泊漁港に戻って帰途に就くことにした。
(第1)
 ところで、玉久丸のドライブユニットは、シフトレバーとシフトロッドとが割ピンで連結する適切な連結方法ではなく、ステンレス鋼の細い針金が緩んでも脱落しないよう、ピン穴に何度か通して同ロッドに巻き付ける方法で連結されていたので、クラッチ操作及び機関振動で針金がピン穴部などと擦れ合って摩耗や疲労で折損した場合、針金が脱落する
おそれがあった。
 A受審人は、船内外機の運転及び保守管理にあたり、玉久丸を購入したとき前示シフトロッドの連結状況を知っていたものの、同ロッドがシフトレバーから抜けなければよいのだから針金でも大丈夫と思い、同ロッドの連結を割ピンで連結する適切な連結方法とすることなく、船内外機の運転を続けていた。
 こうして、玉久丸は、14時00分前泊漁港を発し、約4分後、500メートルほど沖に出た地点でクラッチを中立とし、A受審人がB同乗者と協力して泥酔していたC同乗者を操舵席前方の船員室に入れ、さんご礁の中の針路模様を確認したのちクラッチを前進として機関を微速力前進としたものの、やがて沖に出ることからB同乗者を安全な操舵席付近に呼び寄せる目的で再度クラッチを中立としたとき、前示針金が折損してシフトロッドから脱落し、14時05分前泊港防波堤(東)北西端から真方位334度240メートルの地点において、同ロッドがシフトレバーとの連結部から抜け出してクラッチ操作ができなくなり、航行不能となった。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、主機が回転しているのに推進器翼が回転していないことに気付き、クラッチ操作及び主機の増減速を約30分間繰り返し行ったものの、前後進ができないことから、陸上に向って服を振るなどして救助を求めた。
 玉久丸は、来援した船に曳航されて発航地に引き付けられ、のちシフトロッドがシフトレバーとの連結部から抜け出していることが認められて修理された。
(第2)
 一方、B同乗者は、C同乗者を船員室に入れたのち、操舵席から210センチメートル離れた船尾の機関室のふたに右舷側を向いて座っていたものの、A受審人が針路模様を確認している間に、いつしか海に入り遊泳を始めた。
 A受審人は、B同乗者が遊泳を始めたことに気付かないまま再発航したものの、B同乗者を安全な操舵席付近に呼び寄せる目的で再度クラッチを中立とし、前方を見て水路口の確認を行いながら「沖に出ると危ないから私の側に来い。」と3度ほど促し、後を振り向いたところ、舷側から約1メートル離れた右舷側で遊泳しているB同乗者を認めた。
 A受審人は、B同乗者に近づこうとしてクラッチ操作をしたものの同操作ができず、焦りながら同操作、主機の増減速を繰り返し行い、その間、「早く上がれ。」「早く来い。」などと数回呼びかけてB同乗者の遊泳を制止した。
 B同乗者は、A受審人の制止に対して「大丈夫、大丈夫。」と普通の返事をするのみで、同人の制止を聞き入れないまま遊泳を続けていたが、やがて身体が浮き沈みするようになった。
 A受審人は、B同乗者の状況を船員室で寝ていたC同乗者に伝え、C同乗者が同室から出て救助のために飛び込もうとしたが、酩酊状態のC同乗者が救助に向かうことは危険であると判断し、C同乗者が飛び込まないよう制止を続けた。
 B同乗者は、浮き沈みを繰り返し、14時35分前泊港防波堤(東)北西端から真方位334度240メートルの地点において、沈んだまま浮上しなくなった。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、B同乗者が沈んだままになったことを認めたことから、搭載していた長さ約4メートルの竹竿を突いて沈下地点に近づき、同地点に錨を取り付けた浮環を目印として設置し、救助船に同地点を連絡した。
 この結果、B同乗者(昭和29年10月10日生)は、救助船の乗組員によって水深約1.5メートルの海底から引き揚げられ、のち診療所に運ばれたが溺水による死亡と検案された。

(原因)
(第1)
 本件運航阻害は、船内外機の運転及び保守管理にあたる際、ドライブユニットのシフトレバーとシフトロッドとの連結方法が不適切で、同ロッドが同レバーから抜け出してクラッチ操作ができなくなったことによって発生したものである。
(第2)
 本件同乗者死亡は、同乗者が、遊泳に対する船長の制止を聞き入れないまま、遊泳が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
(第1)
 A受審人は、船内外機の運転及び保守管理にあたる場合、玉久丸を購入したときドライブユニットのシフトレバーとシフトロッドとが割ピンで連結する適切な連結方法ではないことを知っていたのだから、同ロッドを割ピンで連結する適切な連結方法とすべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ロッドが同レバーから抜けなければよいのだから針金でも大丈夫と思い、適切な連結方法としなかった職務上の過失により、針金の脱落による同ロッドの同レバーからの抜け出しを生じさせ、クラッチ操作ができなくなったことによる航行不能を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
(第2)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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