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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年仙審第46号
件名

漁船第五おの丸潜水者負傷事件
二審請求者〔補佐人 村上 誠〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年9月7日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、東 晴二、喜多 保)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第五おの丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:潜水者

損害
おの丸・・・損傷ない、潜水者が右腕骨折

原因
おの丸・・・見張り不十分、操船不適切
潜水者・・・自己の存在を示す措置不適切

主文

 本件潜水者負傷は、第五おの丸が、見張り不十分で、潜水者を避けなかったことと、潜水者が、自己の存在を示す措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月30日13時56分
 新潟県刈羽郡西山町大崎の沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五おの丸
総トン数 0.7トン
全長 6.77メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 18キロワット

3 事実の経過
 第五おの丸(以下「おの丸」という。)は、刺網漁業等に従事する船外機付和船型FRP製漁船で、船首に高さ1.5メートルのマスト、船首寄り左舷側にラインホーラがそれぞれ設置され、A受審人が1人で乗り組み、刺網を2枚投網する目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成11年5月30日13時45分新潟県刈羽郡西山町大字大崎の海岸を発し、1枚目の刺網投網地点に向かった。
 ところで、大崎の海岸は、海岸線が南西方向に延びる幅20ないし30メートルの砂浜で、夏期には海水浴場として賑わい、沖合70メートルばかりのところには、海岸線とほぼ並行して数箇所に消波堤が設置され、各消波堤の間は小型船が出入りできるようになっており、同堤付近の水域にはさざえ等が生息する岩礁が散在し、魚介類の磯漁場としてA受審人所属の地元漁業協同組合等による共同漁業権が設定されていた。
 おの丸は、消波堤と消波堤との間を通過したのち同堤沿いを北東方に航行し、1枚目の投網地点に至って13時52分投網を開始し、同時54分半少し過ぎ椎谷鼻灯台から048度(真方位、以下同じ。)2,360メートルの地点で投網を終え、ただちに同地点から2枚目の投網開始予定地点に向けて針路を210度に定め、右手に船外機舵柄を握って船尾部左舷側に立ち、前方にほとんど死角のない状態で、14.6ノットの全速力前進で発進した。
 A受審人は、発進後間もなく、左舷船首3度560メートルの消波堤と消波堤との間に、男性1人(以下「男性」という。)が赤系統の海水パンツ姿で、水面下の岩に立って膝上まで海水に浸かり、水中眼鏡で水中をのぞいているのを認め、ほかに潜水遊泳中の人のいることが予想されたが、男性に気を取られ、減速して前方の見張りを十分に行わなかったので、男性の友人であるB指定海難関係人が黄色の水中眼鏡と緑色のシュノーケルを着けて男性の周囲を潜水遊泳中で、13時55分半少し前船首方約250メートルの地点に浮上し、15秒ほどのちの同時55分半少し過ぎ船首方約140メートルとなったとき、再び潜水したが、同指定海難関係人に気付かずに進行した。
 男性は、おの丸が自身から100メートルばかりに近づいたところで初めて同船に気が付き、13時56分少し前潜水中のB指定海難関係人の方に向かって行くので危ないと思ったものの、声をかける間もなく同船の船首至近のところに同指定海難関係人が浮上し、13時56分椎谷鼻灯台から054度1,780メートルの地点において、おの丸は、原針路、原速力のまま船外機下端の保針フィンが同指定海難関係人の右腕に接触した。
 当時、天候は快晴で、風力1の北風が吹き、海上は平穏であった。
 また、B指定海難関係人は、新潟県柏崎市に在住する建具職人で、同月30日が日曜日で暖かかったことから、男性と2人で潜水遊泳することになり、13時00分ごろ同市内の男性の事務所から車で出発し、同時30分ごろ大崎の海岸に到着して、うすい青色の海水パンツに着替え、水中眼鏡、シュノーケル、耳栓及び紫色の足ひれを着けて準備したのち、同時35分ごろおの丸の発航地点近くから男性と前後して西方沖へ泳ぎ出し、同時50分ごろ沖合70メートルばかりの岩礁が散在する消波堤と消波堤との間に至り、潜水遊泳しながら素手によるさざえ捕りをすることになったが、潜水箇所の海面に目立つ標識を浮かべるなど、潜水時の自己の存在を示す措置をとらなかった。
 男性が、水面下の岩に立って水中をのぞく一方、B指定海難関係人は、水深2.5メートルばかりの消波堤よりやや沖側の水域で、さざえを捕ろうと男性の周囲20メートルばかりのところを、15ないし20秒間の潜水と10ないし20秒間の浮上とを繰り返しながら北から南にかけて遊泳し、同時56分少し前さざえを1個も捕れないまま頭を上に身体を垂直にして浮上したところ、後方からエンジン音が聞こえたので振り向いたとき、10メートルばかりのところにおの丸が迫ってくるのを認め、上半身をひねって逃れようとしたものの、前示のとおり右腕が同船と接触した。
 A受審人は、右手に持っている舵柄に衝撃を感じて後方を振り向いたところ、B指定海難関係人が立ち泳ぎの格好をしていたので、同指定海難関係人と接触したことを知り、引き返して同指定海難関係人を船に引き上げ、最寄りの発航地点付近の海岸に直行し、救急車を手配して病院に搬送した。
 その結果、おの丸に損傷はなかったが、B指定海難関係人が右腕骨折を負った。

(原因)
 本件潜水者負傷は、新潟県刈羽郡西山町大崎の沖合において、おの丸が漁場移動中、前方の見張りが不十分で、前路の潜水者を避けなかったことと、潜水者が、自己の存在を示す措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、新潟県刈羽郡西山町大崎の沖合において漁場移動中、自船の前方で水面下の岩に水着姿で立っている男性を認めた場合、ほかに潜水遊泳中の人のいることが予想されたから、前路の潜水者を見落とすことのないよう、減速して前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、男性に気を取られ、減速して前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で潜水遊泳中のB指定海難関係人に気付かないまま進行して自船との接触を招き、同指定海難関係人に右腕骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 B指定海難関係人が、新潟県刈羽郡西山町大崎の沖合において潜水遊泳する際、潜水箇所の海面に目立つ標識を浮かべるなど、自己の存在を示す措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでない。

 よって主文のとおり裁決する。





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