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平成12年那審第46号
件名

漁船上原丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年7月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(金城隆支、清重隆彦、平井 透)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:上原丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:上原丸甲板員

損害
上原丸・・・損傷なし
甲板員・・・左下腿開放骨折(入院加療2箇月)

原因
機関をかける際の安全に対する配慮不十分、漁労作業の不適切

主文

 本件乗組員負傷は、上原丸が、追い込み漁の操業中、機関をかける際の安全に対する配慮が十分でなかったことによって発生したが、乗組員が、入水前に潜水器具を装着しなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月13日13時40分
 奄美群島請島西方

2 船舶の要目
船種船名 漁船上原丸
総トン数 2.51トン
登録長 8.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 117キロワット

3 事実の経過
 上原丸は、潜水器を使用して追い込み漁を行うFRP製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成12年7月13日07時30分鹿児島県古仁屋港を発し、09時ごろ奄美群島請島西方に至って操業を開始した。
 A受審人は、13時20分3回目の操業を始め、同時35分袖網及び袋網を海底に配置し、その後120メートルばかり北東進して、魚を追い込むため乗組員を入水させることとし、同時40分少し前機関をかけたままクラッチを中立にして行きあしを止めた。
 A受審人は、乗組員が入水したのち船尾から離れていないおそれがあったが、周囲を一瞥(いちべつ)しただけで、浮上している乗組員がいなかったことから、乗組員全員が潜水して十分に離れたと思い、船尾周辺の安全確認を十分に行うことなく、機関を後進にかけて袋網を配置した場所へ移動することにした。
 上原丸は、A受審人がクラッチを短時間後進に入れたところ、13時40分請島398メートル頂から288度(真方位、以下同じ。)1,650メートルの地点において、その推進器翼と船尾方で浮上していたB指定海難関係人の左足とが接触した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹いていた。
 A受審人は、B指定海難関係人が負傷して右舷側に浮いているのを認め、推進器翼に接触したことを知って同指定海難関係人を収容し、急患輸送船で病院に搬送するなどの事後措置にあたった。
 また、B指定海難関係人は、袖網及び袋網を海底に配置した後、水中眼鏡などは船上で装着したが、空気ボンベは船上で装着せずに水中で装着することとし、上原丸の行きあしが止まったとき左舷側から入水したところ、空気ボンベの装着に手間取っているうち上原丸の船尾に浮上し、両手で船尾を押して離れようとしたが、機関が後進にかかり、前示のとおり接触した。
 その結果、上原丸は損傷がなかったが、B指定海難関係人は2箇月の入院加療を要する左下腿開放骨折の重傷を負った。

(原因)
 本件乗組員負傷は、奄美群島請島西方において、上原丸が、追い込み漁の操業中、乗組員が魚を追い込むため入水後、移動のため機関を後進にかける際、安全に対する配慮が不十分であったことによって発生したが、乗組員が、入水前に潜水器具を装着しなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、奄美群島請島西方において、追い込み漁の操業中、乗組員が魚を追い込むため入水後、移動のため機関を後進にかける場合、乗組員が船尾から十分に離れていないおそれがあったから、推進器翼を乗組員に接触させないよう、船尾周辺の安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、周囲を一瞥しただけで、浮上している乗組員がいなかったことから、乗組員全員が潜水して十分に離れたと思い、船尾周辺の安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、機関を後進にかけ、上原丸の推進器翼と潜水器具の装着に手間取って船尾方で浮上していたB指定海難関係人との接触を招き、同指定海難関係人に2箇月の入院加療を要する左下腿開放骨折の重傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、奄美群島請島西方において、追い込み漁の操業中、魚を追い込むため入水する際、入水前に潜水器具を装着しなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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