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平成12年神審第92号
件名

旅客船ソレイユ作業員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年7月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西山烝一、内山欽郎、小金沢重充)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:ソレイユ船長 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:ソレイユ機関長

損害
作業員が右下腿不全断裂及び左膝靱帯損傷等(リハビリ治療約6箇月入院)

原因
操縦レバーの位置確認不十分

主文

 本件作業員負傷は、係留作業終了時、操縦場所を切り替えるにあたり、操縦レバーの位置の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月22日17時47分
 大阪府泉州港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船ソレイユ
総トン数 297トン
全長 43.2メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 5,295キロワット

3 事実の経過
 ソレイユは、平成3年8月に進水した徳島小松島港、大阪港、大阪府泉州港間の定期航路に就航する、ディーゼル機関2基及びウォータージェット推進装置2基を装備した最大搭載人員304人の軽合金製高速旅客船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、旅客18人を乗せ、船首0.8メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成11年9月22日17時10分大阪港を発し、泉州港北泊地海上アクセス基地に向かった。
 ソレイユは、対称型双胴船で、船体中央部後方の航海船橋甲板上に船橋を配し、その下の船橋甲板と全通の上甲板が旅客室となっていて、上甲板下の船体後部に機関室があり、また、乗下船用の舷門が、船体中央から7メートル後方の上甲板上の両舷に設けられ、その開口部が幅2.6メートル奥行き1.2メートルとなっていた。
 ウォータージェット推進は、主機の駆動によりポンプを回転させ、海水を吸入ダクトから吸入し、操舵ノズルから噴射して推進力を得る方式で、ソレイユは、主機として新潟S.E.M.Tピールスティック型と称する、定格回転数毎分1,475の4サイクル16シリンダー・ディーゼル機関2基と、吸入ダクト、ポンプ・ユニット、操舵ノズル及び後進バケットで構成される推進装置2基を装備し、主機と推進装置のインペラ軸が、減速逆転機を介して連結され、一体となった形で機関室の右舷側と左舷側に据え付けられていた。
 船橋には、機関及び推進装置などを遠隔操作する制御盤が備えられ、操縦レバー及びレバー・ユニットが、中央スタンド、右舷ウイングスタンド(以下「右舷スタンド」という。)及び左舷ウイングスタンド(以下「左舷スタンド」という。)の3箇所に設けられ、中央スタンドのレバー・ユニットの右横には、4種の操作モードを選択できる操舵切替スイッチとレバー切替スイッチのパネルがあり、また、インペラ軸を正転、逆転及び中立にするためのプルターン・スイッチが、中央スタンドと右舷スタンドの2箇所に設けられていた。
 操縦レバー及びレバー・ユニットは、主機回転数、操舵ノズル及び後進バケットを同時にまたは単独に制御する操縦装置で、各操縦スタンドに右舷用及び左舷用レバー・ユニットが一対になって設けられ、レバー・ユニットの中央を0ノッチとして前進側と後進側に分かれており、ノッチを変えることにより、後進バケットの角度や主機回転数を変化させて船体の停止、前後進、速力の増減を制御し、レバー・ユニットを左右に回転させることで、操舵ノズルの方向を変えて操舵の機能をもたせていた。
 レバー切替スイッチには、中央スタンドの右舷用レバー・ユニットのみで同時に両舷主機及び後進バケットを制御するコモンモードと、左舷及び右舷の主機と後進バケットを各操縦レバー・ユニットで個々に制御するセパレイトモードとがあり、また、操舵切替スイッチには、中央スタンドの舵輪によるホイールモードと、レバー・ユニットで操舵できるレバーモードとがあった。
 ところで、ソレイユは、出港時、操縦場所を中央スタンドにしてレバー操舵のセパレイトモードで操船され、航海状態になると、操縦場所はそのままで操舵をホイールモードに切り替えてコモンモードとし、入港時は、操縦場所を着桟舷のウイングスタンドとし、レバー操舵でセパレイトモードによって操船されていた。
 A受審人は、平成3年9月からソレイユに船長として乗船し、平素、泉州港のバースに着桟して係留作業を終了すると、出港に備えて操縦場所を中央スタンドに切り替えるため、中央スタンドのレバー位置をウイングスタンドのレバー位置と同じ0ノッチに合わせ、マンシンクロの点灯を確認し、ウイングスタンドで操縦場所を選択するためのコマンド・トランスファーボタンを押してから中央スタンドに移り、操縦場所を切り替えるためのコマンド・リクエストボタンを押し、イン・コマンドランプが点灯して中央スタンドに操縦場所が切り替わったのち、同港では停泊時間が4分間と短いため、機関を停止しないで、プルターン・スイッチを中立に切り替えて主機を中立運転とし、その後出港まで船橋に待機していた。
 A受審人は、大阪天保山東岸壁を離岸して間もなく、レバーをコモンモード、操舵をホイールモードにして航行したところ、吸入ダクトにごみを吸い込んだような振動音を感じたことから、レバーをセパレイトモードに切り替え、両舷機ともプルターン・スイッチを逆転にしてごみを除去したのち、中央スタンドの両舷レバーを前進3ノッチにしてレバーをコモンモードに戻し、その後右舷用レバーのノッチを8.3まで上げ、機関を回転数毎分1,340の35.0ノットとし、一等航海士に操舵させて進行した。
 17時43分半A受審人は、関空泉州港北泊地沖灯標を通過したとき関空交通センターに連絡し、海上アクセス基地4番バース(以下「4番バース」という。)に入船右舷付とするため、中央スタンドの右舷用レバーを6ノッチに下げてから操縦場所を右舷スタンドに切り替え、次いで同レバーを0ノッチにしたものの、中央スタンドの左舷用レバーを元の位置のまま、レバー操舵でセパレイトモードにして自ら操船を開始した。
 ところで、4番バースは、泉州港北泊地海上アクセス基地内の旅客ターミナルビル北東側前面水域に築造されている、鋼製浮桟橋の東側に面しており、同バース北端から13メートルのところに、徳島関空ライン株式会社の旅客船専用の乗下船施設であるボーディングウェイが設置されていた。
 ボーディングウェイは、床上0.81メートルで幅3.60メートル長さ7.37メートルの平面通路部と幅1.56メートル長さ6.70メートルのスロープ部とがL字形に接続し、スロープ部及び平面通路部が支柱によりバース上に固定されており、その頂部がオーニングで覆われた鋼製構造物で、平面通路部には乗下船用のタラップが置かれていた。
 タラップは、合金製で、床面が幅1.40メートル長さ4.55メートルで、その両側に高さ1.02メートルのハンドレールが設けられ、床面端の片側(以下「後端部」という。)に長さ1.24メートルのスロープ板が取り付けられていて、床面下2箇所に移動用の車輪が付き、後端部付近には、舷門に架設されるタラップの先端部を上下させるための油圧式ジャッキが備えられていた。
 A受審人は、右舷スタンドで操縦レバーのノッチを徐々に下げて減速し、防波堤出入口付近で一等航海士を船首に、一等機関士を船尾の入港配置に就け、B指定海難関係人を船橋で機関などの監視に当たらせ、17時44分同出入口を通過し、4.0ノットの速力で4番バースに近づき、着桟予定位置付近で後進をかけて行きあしを止め、同時46分船首から1本の係留索を同バースのビットにスプリングとして取り、操縦レバー・ユニットを適宜操作しながら同バースに平行に接近し、船尾からも1本の係留策をスプリングに取ったのち、船体を同バースに着桟させた。
 B指定海難関係人は、入出港時、舷門で着桟位置の連絡とタラップの架設作業の支援に従事しており、船首の係留索がビットに取られたあと、舷門に赴いてその船首側に立ち、船体が着桟予定位置に完全に停止したのを認め、マイクで舷門定位置を船橋に報告し、A受審人からこの位置で船体固定の指示を受けたのち、ボーディングウェイで待機していた作業員Cほか1人に、タラップを架けるよう合図した。
 A受審人は、船首尾の係留作業が終了したので、主機を中立運転とするため、右舷スタンドの両舷レバーを0ノッチとし、右舷スタンドから中央スタンドに操縦場所を切り替えることにしたが、中央スタンド右舷用レバーの位置が0ノッチにあるのを見て、同左舷用レバーも同じ位置にあるものと思い、操縦レバーの位置を十分に確認することなく、コマンド・トランスファーボタンを押し、続いて中央スタンドのコマンド・リクエストボタンを押したところ、中央スタンドの左舷用レバーが前進3ノッチのままで操縦場所が切り替わったことから、船体が船首方向に前進し、間もなく停止したものの、船橋中央からではバースの岸壁が見えにくく、このことに気付かなかった。
 一方、C作業員は、海上アクセス基地における綱取りやタラップの設置などの業務に従事し、安全帽に上下の作業服で安全靴を履き、タラップの先端を舷門の舷縁上より少し高くした状態で、ボーディングウェイで待機し、ソレイユが着桟して係留作業を終えるとほぼ同時に、B指定海難関係人からタラップを架設するよう合図を受けたので、舷門の船首側でソレイユの方に向き、タラップのハンドレールを両手で持ち、17時47分わずか前タラップを移動させ、その先端を舷縁に架け終わったとき、船体が前進してタラップが引きずられ、17時47分4番バースの、関空泉州港海上アクセス基地西防波堤灯台から真方位245度275メートルの地点において、タラップとボーディングウェイ支柱間のハンドレールとの間に右足を挟まれた。
 当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 B指定海難関係人は、タラップが架かって間もなくソレイユが前進したのを認め、C作業員の悲鳴を聞いて事故に気付き、A受審人に報告した。
 A受審人は、事故発生の報告を受けて船橋の右舷側から4番バースを見たところ、C作業員が倒れているのを認めて舷門に駆けつけ、応急手当を行い、病院に搬送した。
 その結果、C作業員は、右下腿不全断裂及び左膝靱帯損傷を負い、右足切断の手術及びその後のリハビリ治療で約6箇月入院した。
 本件後、徳島関空ライン株式会社は、係留作業終了時の操縦場所を切り替える方法について、プルターン・スイッチの操作を先に行うなど、操船マニュアルを改訂し、乗組員に周知徹底した。

(原因)
 本件作業員負傷は、泉州港北泊地の4番バースにおいて、係留作業を終了して操縦場所を切り替える際、操縦レバーの位置の確認が不十分で、中央スタンド左舷用レバーが前進位置のまま切り替え操作が行われ、船体が前進して架設中のタラップが引きずられ、作業員がタラップとボーディングウェイ支柱間のハンドレールとの間に挟まれたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、泉州港北泊地の4番バースにおいて、船首尾の係留作業を終了し、右舷スタンドから中央スタンドに操縦場所を切り替える場合、両舷の操縦レバーが0ノッチの位置でないまま切り替え操作を行うと、船体が移動してタラップを架ける作業などに危険な事態が発生するおそれがあったから、操縦レバーの位置を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、中央スタンド右舷用レバーの位置が0ノッチになっているのを見て、同左舷用レバーも同じ位置にあるものと思い、操縦レバーの位置を十分に確認しなかった職務上の過失により、中央スタンド左舷用レバーが前進位置にあることに気付かないまま、操縦場所を切り替え、船体が前進して架設中のタラップが引きずられ、作業員がタラップとボーディングウェイ支柱間のハンドレールとの間に挟まれる事態を招き、同作業員に右下腿不全断裂などの傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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