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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年函審第26号
件名

旅客船ニューしらゆり乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年7月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、安藤周二、工藤民雄)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:ニューしらゆり船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:ニューしらゆり一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
甲板手2人が左、右頸腓骨骨折、右足関節両果骨折

原因
甲板作業の不適切

主文

 本件乗組員負傷は、着岸係留作業を行う際、船首係留索の張る状況の確認が不十分で、同係留索が切断して乗組員を強打したことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月11日17時25分
 北海道苫小牧港東部

2 船舶の要目
船種船名 旅客船ニューしらゆり
総トン数 17,309トン
全長 184.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 21,844キロワット

3 事実の経過
 ニューしらゆりは、敦賀、新潟、秋田船川及び苫小牧の各港間に定期就航する、2基2軸、固定ピッチ推進器及びスラスタを装備する船首船橋型鋼製旅客船兼自動車渡船で、A及びB両受審人ほか32人が乗り組み、旅客92人を乗船させ、車両100台を積載し、船首5.83メートル船尾6.73メートルの喫水をもって、平成12年5月11日06時45分秋田船川港を発し、苫小牧港に向かった。
 16時54分A受審人は、苫小牧港外で入航操船の指揮に就き、以後、入港部署を令し、針路を適宜にとって減速しながら同港東部の東ふ頭(以下「東ふ頭」という。)へ進行した。
 ところで、ニューしらゆりの東ふ頭への着岸は、乗客及び車両の乗降口の関係から、定位置に入船右舷付けすることとされ、その船橋位置は、苫小牧港東港地区東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から050度(真方位、以下同じ。)5,190メートルの東ふ頭の岸壁上の地点における同岸壁法線に垂直に引いた線上とし、同地点が白色塗料でしるされていた。
 船首部の係留索は、右舷側からバウライン2本、ブレストライン1本及びスプリングライン1本を岸壁上のビットにそれぞれとることになっており、最先端のバウライン用岸壁上のビットは、定位置の前方約49メートルのところにあった。また、ニューしらゆりの船首甲板は、船首方向約22メートル船幅約21メートルの三角形状を成し、同甲板上には、揚錨機兼係船機2台、係船機1台及び各係船柱などが設置されて作業場所が限られており、A受審人は、船橋で操船に専念するようになることから、前示各係船機から出された係留索が緊張して切断した場合には予測できない方向に跳ねるおそれがあったので、平素、着岸作業に当たる船首配置員に対し、船内安全衛生委員会などの機会を利用して係留索の状態には十分に注意するよう指示を与えたうえ、B受審人に各係留索の状況を確認しやすい見通しのよい場所で船首作業全般の指揮を執らせていた。
 A受審人は、船橋に3人、船首部にB受審人ほか甲板部員5人を配置して着岸作業に当たらせ、17時16分半いつものとおり東防波堤灯台から051度4,310メートル(ニューしらゆりの船位については、船橋の位置を示す。以下同じ。)の地点で、針路を039度に定め、機関を停止し、折からの南東風を右舷船尾に受け、対地速力5.5ノットの惰力で前進中、同時19分半東ふ頭岸壁南西端に差し掛かったとき、前進惰力を制御するため左舷機関を2分間、右舷機関を1.5分間それぞれ微速力後進にかけた。
 その後、右舷ウイングで操船に当たっていたA受審人は、船体が前進惰力を持ったまま定位置を通過したため、17時22分半定位置を約10メートル行き過ぎた地点で左舷機関極微速力後進を1.5分間発動したが、いまだ定位置まで後退しないので、同時23分半、再び同機関を同様に1分間発動したのち、定位置まで後退して後進惰力がなくなるものと思って動静を監視していたところ、ニューしらゆりは、定位置を越えてゆっくり後退を続けた。
 一方、B受審人は、船首部で着岸係留作業の指揮に当たり、17時20分ごろスプリングラインを十分に緩ませてとり、同時23分ごろ船体が定位置から約5メートル進出した地点で、左舷揚錨機兼係船機の係留索リールから繰り出した直径88ミリメートルの合成繊維製ロープを、左舷船首フェアリーダを介したのち、船首甲板を横切って右舷船首フェアリーダを通し、最先端のバウラインとして船首係留索を船首前方約44メートルとなった岸壁上のビットに、水面につからない程度に緩ませてとり、甲板長にバウライン用リールのブレーキを掛けさせた。
 B受審人は、平素、船体が定位置で停止しないことはよくあることを承知しており、このようなときには岸壁上のビットにとった船首係留索をその都度緩ませて対処していた。ところが、同人は、当時、船体が定位置を行き過ぎたのち、前後位置を調整するために機関を使用してゆっくり後退しているのを認め、このまま後退を続けて最先端の船首係留索に過度な緊張が加わったとき、これが切断して予測できない方向に跳ねるおそれがあったが、同係留索の張る状況を確認していなかったので、後退するにつれ同係留索が徐々に緊張を加えられていることに気付かず、必要に応じてバウライン用リールのブレーキを緩めるよう、甲板長に指示しなかった。
 17時25分わずか前A受審人は、後進惰力を持ったまま定位置から約7メートル後方の地点に至ったのを認め、右舷機関極微速力前進の号令を発し、また、B受審人は、最先端の船首係留索が過度に緊張していることに気が付き、直ちに甲板長にバウライン用リールのブレーキを緩めるよう指示したが、ともに効なく、17時25分東防波堤灯台から050度5,180メートルの地点で、同係留索が右舷船首フェアリーダ付近で切断して跳ね、船首甲板で作業に当たっていた甲板部員のうち2人を強打した。
 当時、天候は曇で風力5の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 その結果、甲板手Cが左・右脛腓骨々折、同Dが右足関節両果骨折をそれぞれ負った。

(原因)
 本件乗組員負傷は、苫小牧港東部において着岸係留作業を行う際、船首係留索の張る状況の確認が不十分で、バウライン用リールのブレーキが緩められず、同係留索が過度に緊張して切断し跳ね、船首甲板で作業中の乗組員を強打したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、船首部配置の指揮者として着岸係留作業に従事中、船体停止前に最先端の船首係留索を岸壁上のビットにとった場合、船体の移動により同係留索に過度な緊張が加わって切断し、これが予測できない方向に跳ね、船首甲板で作業中の甲板部員を強打するおそれがあったから、同係留索の張る状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同係留索の張る状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、同係留索が徐々に緊張を加えられていることに気付かず、バウライン用リールのブレーキが緩められないまま、過度に緊張させて切断した同係留索が跳ね、船首部で作業に当たっていた甲板手2名を強打し、両名に骨折を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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