日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成12年神審第113号
件名

引船第六静丸被引はしけMD103転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年9月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、阿部能正、黒田 均)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:第六静丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
操舵装置に濡れ損

原因
荒天避難の措置不適切

主文

 本件転覆は、荒天避難の措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月6日11時40分
 尼崎西宮芦屋港

2 船舶の要目
船種船名 引船第六静丸 はしけMD103
総トン数 9.7トン  
全長   25.8メートル
登録長 11.81メートル  
3.4メートル 6.0メートル
深さ 1.6メートル 1.9メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 55キロワット  

3 事実の経過
 第六静丸(以下「静丸」という。)は、大阪及び神戸両港内において台船の曳航作業などに従事する鋼製引船で、A受審人が単独で乗り組み、無人のはしけMD103(以下「はしけ」という。)を船尾に引き、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成11年12月6日09時30分大阪港大阪区第6区の常吉岸壁を発し、神戸港第3区に向かった。
 ところで、はしけは、油圧式手動操舵装置を設備し、長さ15.5メートル幅約4.8メートル高さ約1.6メートルで容積120立方メートルの船倉を有し、同船倉に甲板上の高さ約0.45メートルのハッチコーミングを備え、約80立方メートルの砂を船倉中央部に頂部高さ2.5メートルの山形に積載し、船首0.9メートル船尾1.0メートルの喫水となり、船倉が無蓋で、降雨や波浪の打ち込みがあると、そのまま倉内へ入る状態であった。
 A受審人は、径50ミリメートルの曳航索をはしけの船首両端から、それぞれ同じ長さとして15メートル延出して自船の船尾ビットにとり、静丸の船首端からはしけの船尾端まで長さ約53メートルの引船列とし、4.5ノットの曳航速力で手動操舵により進行した。
 09時40分少し過ぎA受審人は、大阪北港北灯台から066度(真方位、以下同じ。)90メートルの地点で新淀川に入り、そのころ北西の風が強くなってきたものの、北西方の対岸に尼崎沖埋立処分場の岸壁が広がっていたことから、風浪の打ち込みも少なかったので、新淀川の河口に向けて西行を続けた。
 09時58分少し過ぎA受審人は、尼崎西防波堤灯台から180度1,010メートルの地点で、尼崎沖埋立処分場の南端を右舷方100メートルばかりに見て、徐々に右へ舵をとりながら新淀川の河口を航過して右回頭を始めた。
 10時01分A受審人は、尼崎西防波堤灯台から201度980メートルの地点に達したとき、針路を316度に定めたところ、北西風を船首方から受けるようになり、曳航速力も4.0ノットに落ち、風浪による多量のしぶきがはしけの船倉へ打ち込む状況となったのを認めたが、なんとか航行できるものと思い、風浪の影響の少ない同灯台と尼崎沖埋立処分場との間の泊地で避泊するなど、荒天避難の措置をとることなく、そのまま続航した。
 A受審人は、10時12分半西宮鳴尾防波堤灯台を右舷正横300メートルに見て航過するころ、はしけの乾舷が減少していることを認め、ようやく危険を感じ、西宮市今津真砂町の岸壁で避泊することとし、波浪の打ち込みを受け続け速力も著しく減少して進行し、11時30分同岸壁に左舷側を着岸した。
 はしけは、曳航索を利用して左舷船首の係船索とし、そのころ多量の海水を含み比重が大きくなった砂が右舷船尾側へ移動し、大きく右舷側に傾き、右舷側ハッチコーミングが海中に没し、船倉への急激な海水の浸入を招き、11時40分大関酒造今津灯台から207度350メートルの地点において、復原力を喪失して右舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、神戸海洋気象台から兵庫県南東部に強風、波浪注意報が発表されていた。
 転覆の結果、はしけの操舵装置に濡れ損を生じ、来援したサルベージ会社の作業船によって大阪港大阪区第3区の大正内港に引きつけられ、のち修理された。

(原因)
 本件転覆は、無蓋の船倉に砂を山積みにしたはしけを曳航し、大阪港から神戸港へ向け航行中、風浪による多量のしぶきが船倉に入る状況となった際、荒天避難の措置をとらず、はしけが長時間にわたり波浪の打ち込みを受け、尼崎西宮芦屋港内において、多量の海水と砂が船倉の右舷船尾側に移動し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、無蓋の船倉に砂を山積みにしたはしけを曳航し、大阪港から神戸港へ向け航行中、風浪による多量のしぶきが船倉に入る状況となったのを認めた場合、海水が船倉に入り続け復原力を喪失しないよう、風浪の影響の少ない尼崎西防波堤灯台と尼崎沖埋立処分場との間の泊地で避泊するなど、荒天避難の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、なんとか航行できると思い、荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により、はしけが長時間にわたり波浪の打ち込みを受け、尼崎西宮芦屋港内において、多量の海水と砂が船倉の右舷船尾側に移動し、復原力を喪失して転覆を招き、操舵装置に濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION