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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成12年神審第140号
件名

漁船第三金剛丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年8月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(前久保勝己、西田克史、西山烝一)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第三金剛丸船長 海技免状:六級海技士(航海)

損害
沈没し全損

原因
荒天時の操船不適切

主文

 本件転覆は、荒天時の操船が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月6日08時30分
 石川県猿山岬西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三金剛丸
総トン数 39.91トン
全長 25.72メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 419キロワット

3 事実の経過
 第三金剛丸(以下「金剛丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する全通一層甲板型のFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、かに漁の目的で、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成11年12月5日07時20分石川県福浦港を発し、11時ごろ同県猿山岬北西方沖合の漁場に至って操業を開始した。
 ところで、金剛丸は、上甲板下は船首から順に、倉庫、船倉(氷貯蔵用)、1番魚倉、2番魚倉、機関室、船員室及び倉庫に区画され、上甲板上のほぼ中央に機関室囲壁及び賄室がある甲板室を有し、機関室囲壁の上に操舵室が設けられ、船体中央部におけるブルワーク高さは1.05メートルで、舷側には各舷7箇所に排水口が設けられていた。
 A受審人は、操業中に僚船から気象情報を入手し、低気圧の接近により操業海域が荒天模様になることを予想し、翌6日05時過ぎ7回目の揚網を終えたところで操業を切り上げて帰航することとし、漁網を後部甲板中央のネットホーラーに巻き取り、各倉口にさぶたをかぶせて閉鎖した。このとき、1番魚倉及び2番魚倉には漁獲物約1トンを収めた合計約80個の魚箱がそれぞれ2段積みに固定され、また、甲板上には固縛を要する移動物はなかった。
 05時30分A受審人は、弱い南西風のもと、猿山岬灯台から310度(真方位、以下同じ。)30.5海里の地点を発進し、福浦港に向けて針路を146度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 発進後、A受審人は、船橋当直を甲板員に任せ、操舵室後部のベッドで休息していたところ、06時30分ごろから南西風が強まり、その後同方向からの波浪が次第に高まるとともに、船体の横揺れが大きくなったので、07時00分自ら操船に就き、機関を全速力前進より少し減じ、9.0ノットの対地速力として続航した。
 07時30分A受審人は、猿山岬灯台から275度11.2海里の地点に達したとき、風、波浪とも更に増勢し、海水がブルワークを越えて甲板上に打ち込むようになり、船体が激しく横揺れを繰り返す状況になったのを認めたが、何とか航行できるものと思い、船首方向から風浪を受けるよう針路を変更し、更に減速するなど、荒天時の操船を適切に行うことなく、同一の針路速力で進行した。
 しばらくして、A受審人は、風速毎秒20メートルを超える強風と波高約5メートルの高波を受けて船体が大きく左に傾き、甲板上に打ち込んだ海水が多量に滞留し、左に傾斜したままの状態となり、旋回により甲板上の海水を排出して船体を立て直すつもりで、手動操舵に切り換えて左舵一杯にとったものの、風上側となった左舷ブルワーク上縁が海中に没して更に船体傾斜が増し、復原力を失い、08時30分猿山岬灯台から246度8.6海里の地点において、金剛丸は、北西に向首したとき左舷側に転覆した。
 当時、天候は曇で風力8の南西風が吹き、南西方から波高約5メートルの波浪があり、金沢地方気象台から石川県全域に雷、強風、波浪注意報が発表されていた。
 A受審人は、船体が大傾斜した直後僚船に無線電話で救助を依頼し、同人ほか5人の乗組員は転覆した金剛丸につかまっているところを来援した僚船に救助された。
 転覆の結果、金剛丸は、08時40分ごろ転覆地点付近に沈没して全損となった。

(原因)
 本件転覆は、石川県猿山岬西方沖合において、漁場から帰航中、右舷正横方から強い南西風と高波を受け、船体が激しく横揺れを繰り返す状況になったのを認めた際、荒天時の操船が不適切で、甲板上に打ち込んだ海水が多量に滞留して船体が大傾斜したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、石川県猿山岬西方沖合において、漁場から帰航中、右舷正横方から強い南西風と高波を受け、船体が激しく横揺れを繰り返す状況になったのを認めた場合、船首方向から風浪を受けるよう針路を変更し、更に減速するなど、荒天時の操船を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、何とか航行できるものと思い、荒天時の操船を適切に行わなかった職務上の過失により、甲板上に打ち込んだ海水が多量に滞留し、船体が大傾斜して転覆を招き、金剛丸を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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