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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成13年横審第40号
件名

プレジャーボート純転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年8月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、谷川峯清、甲斐賢一郎)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:純船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
沈没し全損、同乗者が溺水により死亡

原因
磯波の危険性に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、外海への出航を取り止めなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月10日11時10分
 静岡県浜名港沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート純
登録長 6.39メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 51キロワット

3 事実の経過
 純は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成12年9月10日09時00分浜名湖西岸の静岡県湖西市新所スズキマリーナ浜名湖の岸壁を発し、同県浜名港経由により同港南方沖合の釣り場に向かった。
 ところで、浜名港は、遠州灘に面した浜名湖口に位置し、幅約180メートルの港口水路は、東西に延びた海岸線に対し南方に開口し、港口東岸から南向きに長さ約130メートルの港口東導流提及びその南端付近から南南西向きに長さ約230メートルの港口離岸導流提が、港口西岸には水路に沿って港口西導流提及びその南端から西方に向け岸線と並行に長さ約500メートルの新居(あらい)離岸提がそれぞれ築造されていた。
 また、港口南側は、港口東導流提及び港口離岸導流提西側の幅100ないし150メートルの部分で5ないし6メートルの水深があったものの、更に西側の新居離岸提沖合には、水深2メートル以下の浅所が同離岸提の南500メートルのところまで舌状に拡延していたため、南寄りのうねりがあると同浅所付近にしばしば磯波が高起し、港口水路に入航する船舶がこれに接近した場合、波の下り斜面において舵効を失い操縦不能に陥る、いわゆるブローチング現象を生じて転覆するおそれもあり、うねりのあるときに外海へ出航する船舶は、周辺に避難港がないことなどを考慮し、帰航時の安全についても十分に検討する必要があった。
 一方、当時、本州南方海上を台風14号が北上しており、同日09時には浜名港の南南西方600海里にあって、中心気圧930ヘクトパスカルの大型で非常に強い勢力に発達し、太平洋沿岸に南寄りの大きなうねりを発生させていた。
 A受審人は、純を購入した平成10年に初めて船舶の運航に携わって以来、外海には夏季の間月に2回程度しか出たことがなく、当日はたまたま天気予報を入手しなかったものの、平素、波高2.5メートル以上との波浪予報があれば外海に出ないことにしていたため、これまで外海で大きな波に遭遇した経験はなかったが、南寄りのうねりがあるとき港口西側の浅所付近ではしばしば磯波が発生することを知っており、また、ブローチング現象という言葉を知らなくとも、大きな追い波に乗って航行すると、操縦不能に陥って転覆の危険があることを認識していた。
 こうしてA受審人は、友人ともどもライフジャケットを着用しないまま、自ら操舵操船に従事して浜名湖西岸を南下し、09時16分浜名港口離岸導流提灯台(以下「導流提灯台」という。)から358度(真方位、以下同じ。)380メートルの港口中央部に達したとき、外海には南寄りの大きなうねりがあることを知った。
 このときA受審人は、外海に出ると帰航時に高起した磯波を船尾から受ける場合があることに加え、周辺に避難港がないこと及び自らの経験が不足していることを考慮し、外海への出航を取り止めるべき状況となっていたが、まさか転覆する事態にはならないと思い、磯波の危険性に配慮して外海への出航を取り止めることなく、大きくピッチングを繰り返しながら釣り場に向かった。
 A受審人は、陸岸から離れて沿岸波浪が小さくなった辺りからトローリングを開始して更に沖合に向かい、10時30分導流提灯台から175度4.2海里付近に達したとき、浜名湖の係留地付近に釣り場を移すこととして反転し、10時50分ごろトローリングを切り上げたが、そのころから操舵を友人に行わせ、自らは同人の左側で適宜操船を指示しながら浜名港口に向け北上した。
 A受審人は、導流提灯台の南東方1,000メートルばかりのところにいた漁船の釣り模様を見たのち、同灯台南側の波頭が砕ける大きなうねりを避けて同灯台の南西方約500メートル付近から右転して港口に向かうこととし、11時07分少し過ぎ同灯台から142度900メートルの地点に達したとき、針路を289度に定め、機関回転数を毎分3,500にかけ、15.0ノットの対地速力で進行した。
 11時09分少し前A受審人は、小舵角による右転を開始し、同時09分半わずか前導流提灯台から231度400メートルの地点に至ったとき、針路を港口中央部に向首する025度に転じたところ、左舷船首方の浅所付近に発生した磯波を認め、比較的水深があって磯波の発生していない港口離岸導流提の西側に沿って航行すべく、操舵中の友人に右舵をとらせたものの、舵効が得られず、まもなく高起した磯波の下り斜面に乗った船体は、原針路のまま同浅所のわずか東側に向け続航した。
 11時10分わずか前A受審人は、導流提灯台の西方に達したとき、浅所から遠ざかろうと友人に右方への転舵を強く指示したところ、船体が急速に右転し、11時10分同灯台から272度190メートルの地点において、純は、その船首がほぼ東方を向いたとき、右舷側から寄せた次のうねりにあおられて左舷側に瞬時に転覆した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、発生地点付近には波高約3メートルの磯波があった。
 転覆の結果、純は沈没して全損となり、また、同乗者C(昭和27年1月1日生)が溺水により死亡した。

(原因)
 本件転覆は、浜名港において、外海の釣り場に向かうべく同港口を通過中、南寄りの大きなうねりを認めた際、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、外海への出航を取り止めることなく釣り場に向かい、帰航中、港口西側の浅所付近においてブローチング現象が生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、浜名港において、外海の釣り場に向かうべく同港口を通過中、南寄りの大きなうねりを認めた場合、港口西側の浅所付近にしばしば磯波が発生することを知っていたのであるから、同波の危険性に十分に配慮し、外海への出航を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか転覆する事態にはならないと思い、外海への出航を取り止めなかった職務上の過失により、帰航中、港口西側の浅所付近においてブローチング現象が生じて転覆を招き、純を全損させるとともに、同乗者を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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