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平成13年仙審第15号
件名

旅客船鈴華丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年9月7日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(東 晴二、喜多 保、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:鈴華丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:鈴華丸甲板長

損害
両舷プロペラ及び右舷シャフトに曲損、定置網型枠には固定用コンパウンドロープ切断

原因
針路確認不十分

主文

 本件遭難は、針路の確認が不十分で、定置網設置区画に進入し、定置網型枠固定用コンパウンドロープをプロペラに絡ませ、運航不能となったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月1日04時24分
 宮城県牡鹿郡牡鹿町鮎川港南側水域

2 船舶の要目
船種船名 旅客船鈴華丸
総トン数 118トン
全長 31.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 647キロワット

3 事実の経過
 鈴華丸は、旅客最大搭載人員450人、航行区域を限定沿海区域とし、2基2軸の鋼製旅客船で、宮城県牡鹿町営鮎川金華山航路旅客船及び丸中金華山汽船株式会社の旅客船2隻とともに、同県鮎川港と同県金華山港との間の1日1往復、昼間のみの定期運航に従事していたが、例年金華山黄金山神社初もうで目的の乗客のため、元旦に定期便を含めて同船だけでも11往復する臨時運航を行っていた。
 こうして、平成13年1月1日00時30分鈴華丸は、A受審人、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、年間を通じて元旦だけとなる夜間運航を開始し、鮎川、金華山両港間を2回往復したのち、03時30分3航海目の往航として鮎川港を出港し、金華山港で乗客を降ろし、3航海目の復航として、乗客114人を乗せ、船首1.80メートル、船尾2.60メートルの喫水をもって、04時04分同港を発し、鮎川港に向かった。
 A受審人は、船首に一等航海士、船尾に機関長、舷門にB指定海難関係人を配置して離桟時の操船に当たり、04時12分陸前黒埼灯台(以下「黒埼灯台」という。)から050度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、操舵当直のため昇橋したB指定海難関係人に操舵させ、針路を211度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で進行し、同時19分同灯台から134度900メートルの地点で、針路を270度に転じ、北西方からのやや強い風と波を受けるようになったなか、間もなく同灯台から286度1,100メートルの地点に設置されている私設灯浮標(以下「私設灯浮標」という。)を右舷前方に視認した。
 ところで、黒埼灯台から297度1,020メートルの地点を中心に海岸に沿って長さ約200メートル、幅約50メートルの定置網の型枠が設置されており、その左右前後の外側方向に固定用の径22ないし26ミリメートルのコンパウンドロープが多数張られ、前示私設灯浮標は定置網設置区画の標識として設置されていたもので、灯質が黄色の毎4秒1閃光、光達距離が約4.0海里で、船舶はその沖側を航行する必要があった。
 04時21分A受審人は、黒埼灯台から196度600メートルの地点に達したとき、黒埼を通過したことを無線で鮎川・金華山航路事業管理所に伝えるとともに、平素私設灯浮標を約30メートル離して航過することとしていたことから、B指定海難関係人にこれを右に見るように進行するよう指示し、黒埼南側の苫ヶ根の浅瀬がかわったという安堵(ど)感もあって、操舵室の後部の腰掛けると前方が見にくい2人掛けのいすに腰掛け、同指定海難関係人が適宜私設灯浮標を右方にかわしていくと思い、その後目標である私設灯浮標の方向やコンパス針路を確かめたり、レーダーにより右舷前方の海岸からの離岸距離を計測するなどの針路の確認を行わなかったので、同指定海難関係人の転じた針路が私設灯浮標を正船首少し右方に見る314度ばかりと相違しており、定置網設置区画に向首していることに気付かないまま進行した。
 一方、B指定海難関係人は、A受審人の指示により右転したが、その際、鮎川港南防波堤灯台から240度630メートルの地点に設置されている銀ざけ養殖施設の灯浮標が風波の影響を受けずに比較的よく見えていたこともあり、また私設灯浮標と灯質が同じであったこともあって、銀ざけ養殖施設の灯浮標を私設灯浮標と間違え、銀ざけ養殖施設の灯浮標を正船首少し右方に見る325度の針路とし、このときコンパス針路をA受審人に報告せず、その後見張りを十分に行わず、左舷前方に私設灯浮標を視認できる状況であったが、波が高くなっていてやや見にくい状況であったこともあって、目標を取り違えていることに気付かず、銀ざけ養殖施設の灯浮標を目標に同針路のまま操舵を続けた。
 こうして、鈴華丸は、325度の針路及び12.0ノットの対地速力で進行中、04時24分黒埼灯台から295度1,000メートルの地点において、定置網設置区画に進入し、固定用のコンパウンドロープをプロペラに絡ませ、行きあしが停止した。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 A受審人は、いすに腰掛けていたところ、振動を感じ、機関を中立とし、沖側に私設灯浮標を認め、定置網設置区画に進入したことを知り、右舷機が自停していたので、左舷機のクラッチを入れたところ、これも停止し、鈴華丸は、運航不能となった。
 A受審人は、携帯電話で塩釜海上保安部に救助を求めるとともに、会社に状況を伝えるなど、事後の措置に当たった。
 10時00分北西方からの風波が一段と強くなったなかで、来援した巡視艇及びタグボートにより鈴華丸の引出しが試みられたが、絡んでいた定置網型枠の固定用コンパウンドロープを切断しなければ引出しできない状況で、これに時間がかかることから、13時00分巡視艇2隻及びダイバー支援船による乗客の救出が開始され、同時45分全員が無事鮎川港に上陸した。
 14時42分鈴華丸は、固定用コンパウンドロープの切断、取り除きを終え、タグボートにより引き出され、宮城県石巻港まで曳航された。
 その結果、鈴華丸は、両舷プロペラ及び右舷シャフトに曲損を生じ、右舷プロペラ及び右舷シャフトの新替えなどを含む修理がなされ、また定置網型枠には固定用コンパウンドロープ切断などの損傷が生じた。

(原因)
 本件遭難は、夜間、宮城県金華山港から同県鮎川港に向かって航行中、針路を転じた際、目標とした私設灯浮標の方向及び右舷前方の海岸からの離岸距離を確かめるなどの転じた針路の確認が不十分で、鮎川港南側水域において、海岸に沿って設置された定置網設置区画に向首する針路のまま進行し、同区画に進入して定置網型枠固定用のコンパウンドロープをプロペラに絡ませ、運航不能となったことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、宮城県金華山港から同県鮎川港に向かって航行中、操船に当たり、操舵員に私設灯浮標を操舵目標として転針するよう指示した場合、私設灯浮標の方向及び右舷前方の海岸からの離岸距離を確かめるなどして転じた針路の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、操舵員に操舵目標を指示したので、予定針路で進行していると思い、針路の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、定置網設置区画に進入し、定置網型枠固定用コンパウンドロープをプロペラに絡ませ、運航不能となり、旅客が長時間にわたる船内滞留を余儀なくされる事態を生じさせ、また鈴華丸に両舷プロペラ及び右舷シャフトの曲損を生じさせ、定置網型枠固定用コンパウンドロープに損傷を生じさせた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、針路を転じた際、コンパス針路を船長に報告しなかったこと及び見張りを十分に行わず、船長から指示された操舵目標となる私設灯浮標と遠方の銀ざけ養殖施設の灯浮標とを取り違えたまま操舵を続けたことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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