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平成13年那審第7号
件名

遊漁船アースマン遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年7月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(清重隆彦、金城隆支、平井 透)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:アースマン船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機に濡損

原因
発航前の点検不十分

主文

 本件遭難は、発航前の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月27日11時10分
 沖縄県伊良部島北方

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船アースマン
機関の種類 ディーゼル機関
出力 88キロワット

3 事実の経過
 アースマンは、専らダイビング客の案内及び送迎に従事するFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、ダイビングスタッフ2人とダイビング客3人とを乗せ、スキューバダイビングの目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成12年5月27日09時30分沖縄県平良港を発し、伊良部島北方のダイビングポイントに向かった。
 ところで、アースマンは、平成2年1月に進水した、ヤマハ発動機株式会社の71Y(D343K−J)型と称するディーゼル機関と中間軸を介してボルボペンタ社製のER1型と称するドライブユニットとを組み合わせた推進機関を有する漁船タイプの遊漁船であった。
 ドライブユニットをトランサムスターンに固定するトランサムシールドプレートは、縦約52センチメートル横約35センチメートルの長方形の金属製で、その内側の縁にはパッキンが取り付けられ、上部、中央部及び下部のそれぞれ左右に計6個のネジ穴が設けられていた。
 トランサムシールドプレートには、材質がSCM435と称するクロムモリブデン鋼製で、直径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ103ミリ、植込み側のネジ部長さ14ミリ、ナット側のネジ部長さ42ミリの取付けボルトが6個のネジ穴に植え込まれており、同プレートは、トランサムを貫通した同ボルトをトランサムの内側でナット締めすることにより取り付けられていた。
 A受審人は、平成11年12月に中古船として購入されたアースマンの整備にあたり、翌12年3月より同船の船長として運航に従事していたところ、走行時の振動等により、いつしか、トランサムシールドプレートの取付けボルトが緩み、同ボルトが損傷していたが、軸点検ハッチを開けて同ボルトやナット類の点検をせず、このことに気付かないまま運航を続けていた。
 発航に先立って、A受審人は、5月27日09時15分発航前点検を行ったところ、日頃なかった少量のビルジを機関室内に認めたが、排水すれば大丈夫と思い、軸点検ハッチを開けてドライブユニット取付け部を点検するなど、浸水箇所の点検及び整備を行わなかった。
 A受審人は、平良港を発して目的地に向かって進行しているあいだに機関室のビルジを排出したものの、浸水箇所の点検を行っていなかったので、トランサムシールドプレートの取付けボルトの緩みや損傷により、同プレートの締付けが緩み、トランサムとの間に生じた隙間から軸室に海水が侵入し、軸貫通部の開口を経由して機関室に流入していたことに気付かないまま、10時30分伊良部島北方のダイビングポイントに至ってブイに係留し、同乗者1人を船上に残してダイビングを始めた。
 アースマンは、走行時の振動等でトランサムシールドプレートの取付けボルトの緩みや損傷が進み、同ボルト6本のうち、中央部右舷側の1本のみが正常で、下部左右2本の植込み側ネジ部が緩んで脱落し、中央部左舷側のナット側ネジ部及び上部左右2本の植込み側ネジ部が折損し、同プレートの締付けが更に緩み、トランサムとの間の隙間が拡大し、11時10分佐良浜港北第1防波堤灯台から301度2.7海里の地点で、機関室に60センチメートルばかり海水が浸入した。
 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、ダイビングを終えて船上に戻ったところ、左舷側に傾斜して左舷側排水口まで沈下していることに気付き、異常を感じて機関室を見て海水が浸入していることを認め、急ぎ至近で錨泊中のダイビングボートにダイビング客や同器材を移して喫水を軽くし、バケツで排水した。
 その結果、主機に濡損を生じたが、ダイビングボートによって平良港に引き付けられ、のち修理された。

(原因)
 本件遭難は、発航前の点検で日頃なかったビルジを機関室内に認めた際、浸水箇所の点検及び整備が不十分で、ドライブユニットのトランサムシールドプレートの取付けボルトが緩んだり折損したりしていることに気付かないまま運航し、同プレートとトランサムとの間に生じた隙間から軸室に海水が浸入し、軸貫通部の開口を経由して機関室に流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、発航前の点検で日頃なかったビルジを機関室内に認めた場合、浸水箇所の点検及び整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、ビルジが少量なので排水すれば大丈夫と思い、浸水箇所の点検及び整備を十分に行わなかった職務上の過失により、ドライブユニットのトランサムシールドプレートの取付けボルトが緩んだり折損したりしていることに気付かないまま運航し、同プレートとトランサムとの間に生じた隙間から軸室及び機関室への海水の浸入を招き、主機を濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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