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平成12年広審第122号
件名

旅客船旭洋丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年7月11日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、竹内伸二、勝又三郎)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:旭洋丸専任機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:旭洋丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
C株式会社海務部 業種名:海運業

損害
操舵機用電動機が2台とも焼損、操舵不能

原因
主配電盤気中遮断器の点検不十分

主文

 本件遭難は、主配電盤気中遮断器の点検が不十分であったこと、及び同器の主接点が著しい接触不良となって操舵機油圧ポンプ用電動機の三相欠相警報が作動した際、主配電盤上の計器類の点検が不十分で、電源の異状をきたして同電動機が焼損し、操舵不能となったことによって発生したものである。
 海運業者の海務部門が、主配電盤などの重要機器の整備に関する情報の収集を十分に行わず、乗組員に対して気中遮断器の整備を指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月12日21時53分
 安芸灘

2 船舶の要目
船種船名 旅客船旭洋丸
総トン数 696トン
全長 55.90メートル
13.11メートル
深さ 3.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット

3 事実の経過
(1)運航概要
 旭洋丸は、昭和62年4月に進水した、航行区域を平水区域とする2基2軸1舵を備えた船首船橋中央機関室型の鋼製旅客船兼自動車渡船で、僚船の翔洋丸及び他社が所有する2船との共同運航で、愛媛県松山港、広島県呉港、同県広島港の3港間を約2時間30分で結ぶ毎日上下各10便の定期運航に従事していた。
 旭洋丸の乗組員は、一括公認を受けたうえで配乗され、原則として2日乗船後2日休日の就労体制をとっていたものの、機関部については、乗組定数2人のところ5人が配属されていたので、このうち3人を輪番で機関長として乗り組ませるようにしていたほか、最古参の機関長が専任機関長となって保守管理を担当し、日常の機器保守整備計画や入渠工事仕様書などを立案することが慣習となっていた。
(2)給電設備及び操舵装置
 発電機は、いずれも出力198キロワットのディーゼル機関(以下「補機」という。)で駆動される電圧445ボルト容量225キロボルトアンペアの三相交流発電機を、機関室中央左右に据え付けられた主機の両舷にそれぞれ1基ずつ備えており、右舷側を1号機、左舷側を2号機とそれぞれ呼称し、通常航海中は1台で船内電力をまかない、出入港時にはバウスラスタを使用するため予備機を始動して並列運転を行い、運転機は毎日交互に切り替えられていた。
 また、主配電盤は、デッドフロント自立型で、機関室前部に設けられた機関制御室に、機関監視盤と前後に相対して設置され、右舷側から1号発電機盤、2号発電機盤、同期盤及び給電盤など6パネルを備え、各発電機盤に三菱電機株式会社が昭和62年に製造したABE402−S型と称する電気操作式の気中遮断器(以下「ACB」という。)を装備し、発電機盤及び同期盤内には発電機の自動同期投入、自動負荷分担及び自動並列解除などを行うための自動化機器類が組み込まれていた。
 ところで、ACBは、R、S及びT各相とも主接点の先端にアーク接点を取り付け、電路を開閉するとき各主接点に生ずるアークを軽減するようになっているものの、開閉回数が積み重ねられると、主接点の溶損あるいは消耗が進行して接触不良を起こすおそれがあることから、ACBメーカーでは、定期的に接触部の点検を実施し、要すれば接点の削正や取替えを行うよう、取扱説明書に記載して機関取扱者に注意を促していた。
 一方、操舵装置は、北川工業株式会社製のKE−W100型と称する、操舵スタンド、舵機シリンダ及び2基のポンプユニット(以下、右舷側及び左舷側ポンプユニットをそれぞれ「1号操舵機」及び「2号操舵機」という。)などで構成する電動油圧式で、油圧ポンプは三相交流電圧440ボルト定格出力5.5キロワットの電動機で駆動され、操舵室の集合盤及び機関制御室の機関監視盤とで遠隔発停と運転監視ができるようになっており、電動機に過負荷や三相欠相などの異常を生じた際には、両盤で警報を発するようになっていたが、両操舵機の使用不能に備えた人力操舵装置は付設されていなかった。
(3)受審人及び指定海難関係人
 A受審人は、昭和37年にC汽船株式会社(以下「C汽船」という。)に入社し、操機手などを経て同46年機関長に昇任して同社所有の各船に順次乗船したのち、平成6年12月から旭洋丸の機関長として乗り組み、その後専任機関長として保守管理を担当するようになり、毎年実施する検査入渠工事においては、各電気機器の絶縁抵抗測定、ACBの効力テスト、補機ガバナの作動テスト等を毎回施工するようにしていた。
 そして、A受審人は、旭洋丸が就航10年目を迎えた同9年の第一種中間検査工事の際、主配電盤内の電路点検と増締めを発注するとともに、就航以来行われていなかったACBの点検を船内作業で行うこととしたものの、ACBの前面にある電動装置を取外す要領が分からなかったため、内部の接点類を点検することができず、次いでバウスラスタ室においてバウスラスタ用遮断器の開放点検を行い、各接点が損耗しているのを認めて自ら予備品と取り替えた。
 ところが、A受審人は、主配電盤の事故は滅多に起きることはないし、主電路が2系統あるから、片方のACBに支障を生じても一方の電路で対処できるものと思い、翌年以降の入渠工事の際にも、ドック又はメーカーにACB内部の点検を発注することなく、使用を続けていたので、経年により、ACB主接点の損耗が進行していることに気付かなかった。
 B受審人は、昭和40年3月にC汽船に入社し、操機長又は機関士として各船に乗船したのち、平成11年5月から旭洋丸の一等機関士兼機関長として乗り組み、上席の機関長2人がいずれも休暇下船したときに機関長職を執っていたもので、同12年2月11日から機関長として機関の運転管理に当たっていた。
 一方、指定海難関係人C海務部(以下「C海務部」という。)は、同社が所有する旅客船5隻の保船、配船、資材調達、乗組員配乗及び運航管理などに係わる業務に当たり、全乗組員を対象とした研修会を定期的に開催し、事故例の周知などを図っていたが、それぞれの業務担当者が機関や電気についての知識をあまり持ち合わせていなかったこともあって、主配電盤及び操舵機などの重要な機器に関する情報の収集が不十分で、乗組員に対し、ACBの整備についての指示も、電気機器の取扱いについての教育も十分に行っていなかった。
(4)遭難に至る経過
 旭洋丸は、船長E、B受審人及び一等機関士ほか5人が乗り組み、乗客297人及び車両23台を載せ、船首1.9メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、平成12年2月12日20時20分松山港向けの最終便として呉港を発し、発電機を並列運転として操舵室で主機及びバウスラスタを操作しながら離岸中、船体振動の一時的な増大によるものか、損耗の進行していた1号発電機ACBのS相主接点が著しい接触不良のままとなり、同時21分各相電流の不平衡を検知した運転中の2号操舵機用電動機で三相欠相警報が作動した。
 機関制御室で当直にあたっていたB受審人は、機関監視盤上で2号操舵機の三相欠相警報が発せられたのち、操舵室で1号操舵機に切り替えたのを認め、折しも当直交代のため機関室に降りてきた一等機関士に操舵機の様子を見に行かせたところ、間もなく1号操舵機にも三相欠相警報が作動したが、電気関係の知識があまりなかったこともあって気が動転し、主配電盤上の計器類を点検しなかったので、1号発電機のS相電流値がほとんどゼロになり、両発電機の負荷分担が著しく変化しているなどの異変に気付かなかった。
 旭洋丸は、発電機が並列運転中であったことから完全な三相欠相状態には至らず、呉港沖合で操舵テストを行って操舵に支障がないことを確認のうえ、1号操舵機を継続運転とし、ほぼ憩流時の音戸瀬戸を通過して続航した。
 その後、B受審人は、一等機関士と三相欠相発生の原因を思案したものの、依然として主配電盤上の計器類を点検しなかったので、発電機側の異変に気付かないまま、定時の運転諸元計測に取り掛かるとともに、松山港着までまだ時間があるので発電機を単独運転にすることとした。
 こうして、旭洋丸は、安芸灘を南下中、一等機関士が1号発電機を停止するため、同機の並列解除ボタンを押したところ、同機S相欠相の影響によるものか発電機自動化機器類が誤動作し、それまで2号発電機側に偏っていた負荷が急激に1号発電機に移り、同日21時53分野惣那島灯台から真方位014度1,350メートルの地点において、2号発電機ACBが逆電力継電器の作動によってトリップするとともに2号補機が停止し、欠相状態の1号発電機ACBが入ったままで電源に異状を生じ、1号操舵機が停止した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 旭洋丸は、B受審人が2号補機の再始動に努める一方、照明の異状を認めた一等機関士が1号発電機ACBの開閉操作を手動で十数回行ううち、S相主接点の接触が回復して電源が正常に戻ったものの、その間に発停が繰り返された操舵機用電動機が2台とも焼損して操舵不能となったため、E船長が海務部ほか関係先に事態を通報するとともに救援を要請し、来援した引船に曳航され、予定入港時刻より2時間15分遅れの翌13日00時25分松山港に引き付けられた。
(5)事後措置
 旭洋丸は、電気修理業者などの手により、1号発電機ACBの応急修理を行い、操舵機用電動機を陸揚げして他社船所有の同型機と取り替えるなどの措置を済ませ、同日午後便から運航を再開し、後日、両ACBが新替えされた。
 本件発生後、海務部は、乗組員から操舵不能に至る状況を聴取した結果、主配電盤関係の整備及び電気機器の取扱いがいずれも不十分であったことから、修理業者に発注してACBの点検を定期的に行うよう改めるとともに、主配電盤メーカーの技術者に依頼し、全乗組員を対象とした電気機器取扱いに関する研修会を開催するなど、同種事故の再発防止策を講じた。

(原因)
 本件遭難は、定期的入渠時における主配電盤ACBの点検が不十分で、主接点が損耗したまま放置されたこと、及び発電機を並列運転として広島県呉港を出航中、1号発電機ACBのS相主接点が著しい接触不良となって操舵機用電動機の三相欠相警報が作動した際、主配電盤上の計器類の点検が不十分で、発電機側に異変を生じたまま並列解除が行われて電源の異状をきたし、同電動機が2台とも焼損して操舵不能となったことによって発生したものである。
 海運業者の海務部門が、主配電盤などの主要な機器の整備に関する情報の収集を十分に行わず、乗組員に対してACBの整備を指示しなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、機器の保守管理に当たり、船内作業ではACB内部の点検が困難な場合、主接点が損耗したまま放置することのないよう、定期的入渠の際にACB内部の点検を発注すべき注意義務があった。ところが、同人は、主配電盤の事故は滅多に起きることはないし、主電路が2系統あるから、片方のACBに支障を生じても一方の電路で対処できるものと思い、定期的入渠の際にACB内部の点検を発注しなかった職務上の過失により、ACB主接点の損耗が進行していることに気付かないまま使用を続け、1号発電機のS相主接点に著しい接触不良を招き、電源の異状をきたして操舵機用電動機を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、発電機を並列運転して呉港を出航中、運転中の操舵機用電動機に三相欠相の警報が生じた場合、操舵機側ばかりでなく、発電機側の異変を見落とすことのないよう、主配電盤上の計器類を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、電気関係の知識があまりなかったこともあって気が動転し、主配電盤上の計器類を点検しなかった職務上の過失により、1号発電機ACBS相主接点の著しい接触不良によって、同相の電流値がほとんどゼロとなり、発電機の負荷分担が著しく偏ったことに気付かないまま、発電機の並列解除を行って電源の異状を招き、操舵機用電動機を2台とも焼損させて操舵不能となるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C海務部が、主配電盤などの主要な機器の整備に関する情報の収集を十分に行わず、機器の整備に関することは乗組員や修理業者に任せたまま、乗組員に対してACBの整備を指示していなかったことは、本件発生の原因となる。
 C海務部に対しては、本件発生後、修理業者に発注してACBの点検を定期的に行うよう改めるとともに、主配電盤メーカーの技術者に依頼し、全乗組員を対象とした電気機器の取扱いに関する研修会を開催するなど、同種事故の再発防止策を講じた点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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