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平成12年長審第81号
件名

貨物船泰神丸漁船やまと丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月27日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、亀井龍雄、河本和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:泰神丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:やまと丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:泰神丸甲板員

損害
泰神丸・・・球状船首部に擦過傷
やまと丸・・・船体が切断、のち廃船
船長が右腰背部に打撲傷

原因
やまと丸・・・見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、やまと丸が、見張り不十分で、泰神丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月12日06時39分
 房総半島東方沿岸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船泰神丸 漁船やまと丸
総トン数 749トン 4.68トン
全長 74.83メートル  
登録長   9.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット  
漁船法馬力数   45

3 事実の経過
 泰神丸は、船尾船橋型ケミカルタンカーで、A受審人、B指定海難関係人ほか4人が乗り組み、粗製ベンゼン2,000キロリットルを載せ、船首3.8メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成12年1月11日13時40分塩釜港仙台区を発し、京浜港横浜区に向かった。
 A受審人は、船橋当直を00時から04時及び12時から16時を自らが行い、04時から08時及び16時から20時をB指定海難関係人、08時から12時及び20時から24時を一等航海士に分担させる3直制として南下し、翌12日03時10分犬吠埼灯台から111度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点に達したとき、針路を215度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.8ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、03時45分ごろ昇橋した次直のB指定海難関係人に当直を引き継ぐとき、付近海域には漁船が何隻かいて、早朝にかけて房総半島の各漁港から小型漁船が出漁する状況にあったことから、十分に注意して早目に避航すること、何か変わったことがあれば直ちに報告することなどを指示し、休息のため降橋した。
 B指定海難関係人は、太東埼に並航したころ、前方の小型漁船や釣り船を転舵して避けながら続航し、06時13分勝浦灯台から062度9.3海里の地点で原針路に戻して南下を続け、同時20分右舷船首10度4海里ばかりにやまと丸の紅、白の2灯を初めて視認し、その後同船が前路を左方に航過し、同時25分左舷船首5度ばかりのところに停留したのを確認して進行した。
 06時37分B指定海難関係人は、左舷船首13度0.6海里ばかりのやまと丸が緑灯を見せて北上するのを認め、前方近距離を航過する態勢であったことから、手動操舵に切り替えて10度ばかり左転し、同船の動静を監視していたところ、同時37分半前方を航過したものの、同時39分少し前右舷船首1点200メートルばかりの同船が突然紅灯を見せ前路に進出する態勢となり、急いで左舵40度をとり機関を停止したが、効なく、06時39分勝浦灯台から089度5.3海里の地点において、泰神丸は、180度に向いたとき、原速力のまま、船首部がやまと丸の左舷中央部に後方から73度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、やまと丸は、船尾に舵柄式の操舵装置を有するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、まぐろ引き縄漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月12日05時50分千葉県勝浦東部漁港を発し、同港沖合の漁場に向かった。
 ところで、C受審人は、引き縄漁を行うときには、各舷の船体中央部に約10メートルの竹竿をほぼ正横に張り出し、その先端と中央付近に1本ずつ釣り縄を取り付け、さらに船尾から1本を出し、合計5本の20ないし50メートルの釣り縄を流していたが、竹竿の中央部の釣り縄には潜航板と称する渦流のできる板を取り付けているので、この抵抗によって船体は先に投入した舷側に回頭する状況にあった。
 C受審人は、発航後漁場に向け、機関を10ノットの全速力前進にかけて東行していたところ、06時15分勝浦灯台から078度4.2海里の地点に至ったとき、僚船の無線で距岸5海里付近でまぐろが揚がったことを知ったので南東に向けることとし、針路を128度に定めて続航し、同時25分勝浦灯台から091度5.4海里のところで機関を中立回転として漂泊し、カッパを着用して漁具の準備にかかり、同時36分半折からの風浪を右舷側から受けて南西方に向首していたとき、機関を7.0ノットの微速力前進にかけ、右舷側の潜航板を投入して進行した。
 C受審人は、航走を再開したとき、自船から018度0.7海里のところを泰神丸が南下していたが、見張りを十分に行うことなく、引き続き左舷の潜航板や釣り縄の投入を行っていたので、同船に気付かず、同時37分半泰神丸の前路を右転しながら右舷方に航過し、その後も舵柄が左舷側に移動していたことから、船体が依然として右回頭を続け、再度、同船の前路を航過する態勢となって衝突のおそれを生じさせたが、このことに気付かず、大きく左舵をとるなど衝突を避けるための措置をとらず、左舷側の釣り縄の投入を終え、船首が107度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、泰神丸は、球状船首部に擦過傷を生じ、のち修理され、やまと丸は、船体が切断し、のち廃船とされ、C受審人が右腰背部に打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、未明、房総半島東方沿岸において、やまと丸が、引き縄を投入中、見張り不十分で、泰神丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、船舶交通が輻輳(ふくそう)する房総半島東方沿岸において操業する場合、泰神丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、引き縄の投入に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、泰神丸に気付かず、同船の前路に進出して衝突を招き、泰神丸の球状船首部に擦過傷を生じさせ、やまと丸の船体を切断させるとともに自らが右腰背部に打撲傷を負うに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:37KB)





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