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平成12年門審第117号
件名

漁船海祐丸漁船第二豊漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、西村敏和、米原健一)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:海祐丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二豊漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
海祐丸・・・球状船首部ペイントを剥離
豊漁丸・・・左舷中央部舷側外板に破口を伴う亀裂

原因
海祐丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
豊漁丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、海祐丸が、見張り不十分で、漂泊中の第二豊漁丸を避けなかったことによって発生したが、第二豊漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月15日16時10分
 長崎県壱岐島北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船海祐丸 漁船第二豊漁丸
総トン数 19トン 4.8トン
全長 23.04メートル 14.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 558キロワット 250キロワット

3 事実の経過
 海祐丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成12年3月15日15時40分長崎県壱岐島の勝本港を発し、同港西方沖合約20海里の漁場へ向かった。
 A受審人は、出航操船に引き続き1人で操舵操船に当たり、15時48分勝本港辰ノ島防波堤灯台から180度(真方位、以下同じ。)60メートルの地点に達したとき、針路を271度に定めて自動操舵とし、機関回転数を半速力前進の毎分1,300にかけ、折からの風潮流の影響を受けて右方に少しばかり圧流されながら、11.0ノットの対地速力で進行した。
 ところで、海祐丸には、船首楼から操舵室までの間に1番船倉から7番船倉まで7つの船倉があり、漁獲物を冷蔵する氷を1番船倉から3番船倉まで満載したときは、船首が下がるので前方に死角が生じることはなかったが、事故当日は、1番船倉と2番船倉に氷をそれぞれ半載した状態であったことから、半速力前進で航行すると船首が持ち上がり、操舵室後方に設けられた床面からの高さ約70センチメートル、縦幅約35センチメートル、横幅約25センチメートルの、操舵用のいすを兼ねた台(以下「見張り台」という。)に腰を掛けて見張りに当たると、右舷前方約10度から左舷前方約15度の範囲に渡って水平線が船首部に隠れて死角が生じる状況であった。
 15時55分半A受審人は、勝本港辰ノ島防波堤灯台から270度1.3海里の地点に達したとき、前路で操業中の漁船群に接近する状況となったことから、見張り台の上に立ち上がって操舵室天井の開口部から顔を出し、前方の死角を補う見張りを行いながら速力を10.0ノットに減速して続航した。
 16時03分ごろA受審人は、勝本港辰ノ島防波堤灯台から271度2.6海里の地点に至ったとき、漁船群が粗方後方に替わったことから、その後、前路に危険な他船がいないものと思い、見張り台に腰を掛け右舷側の窓から顔を出して見張りに当たり、折から右舷側を南下してきた義兄の漁船に向かって手を振るなどして、前方の死角を補う見張りを十分に行わずに進行した。
 16時08分A受審人は、勝本港辰ノ島防波堤灯台から271度3.3海里の地点に達したとき、正船首方650メートルのところに第二豊漁丸(以下「豊漁丸」という。)を視認でき、その後、その方位に変化がないことや接近模様などから、同船が停止していることを判別できる状況となったが、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、自船の船首部に隠れた豊漁丸に気付かず、同時09分11.0ノットに増速して続航した。
 こうして、A受審人は、前路の豊漁丸を避けないで進行中、16時10分わずか前同船の白い操舵室を初めて認め、急いで機関を全速力後進としたが、効なく、16時10分勝本港辰ノ島防波堤灯台から271度3.7海里の地点において、海祐丸は原針路のまま、速力が約6.0ノットとなったとき、その船首が豊漁丸の左舷中央部に前方から79度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力1の東風が吹き、視界は良好であった。
 また、豊漁丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日12時30分長崎県壱岐島の郷ノ浦港を発し、同港北西方沖合の漁場へ向かった。
 13時15分B受審人は、勝本港西方沖合5海里付近に至り、機関を中立運転として漂泊を行い、船尾甲板の右舷側で船首方を向いて立ち、長さ約50メートルの道糸に12本ほどの擬餌針をつけ、その最下端に錘を結んで海底まで垂らし、同道糸を手でしゃくりながら操業を始めた。
 15時55分ころB受審人は、ぶりとやず約20キログラムを漁獲したところで食事をとることとし、操業を休止して操舵室に入り、同室内後方に、両舷に渡して設けられた床面からの高さ約50センチメートル、幅約30センチメートルの板に腰を掛けて持参した弁当を食べ始めたが、弁当を食べることに気をとられ、その後、周囲の見張りを十分に行わずに漂泊を続けた。
 16時08分B受審人は、前示衝突地点で、船首を170度に向けて漂泊中、左舷船首79度650メートルのところに、自船に向首して接近する海祐丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かないまま食事を続けた。
 こうして、B受審人は、海祐丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、機関のクラッチを入れて場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、豊漁丸は、船首を170度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海祐丸は球状船首部ペイントの剥離(はくり)を生じ、豊漁丸は左舷中央部舷側外板に破口を伴う亀裂を生じるに至った。

(原因)
 本件衝突は、長崎県壱岐島北西方沖合において、海祐丸が、見張り不十分で、漂泊中の豊漁丸を避けなかったことによって発生したが、豊漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県壱岐島北西方沖合において、単独で操舵操船に当たり、同県勝本港西方沖合の漁場へ向けて航行する場合、船首が持ち上がって前方に死角を生じていたのであるから、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁船群に接近したとき、死角を補うため見張り台の上に立ち上がり、操舵室天井の開口部から顔を出して見張りを行っていたものの、漁船群が粗方後方へ替わってからは、もはや前路に危険な他船がいないものと思い、その後、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の豊漁丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の球状船首部にペイントの剥離を生じさせ、豊漁丸の左舷中央部船側外板に破口を伴う亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、長崎県壱岐島北西方沖合において、漂泊して一本釣り漁に従事中、操業を休止して食事をとる場合、自船に向首して接近する海祐丸を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、弁当を食べることに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する海祐丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、機関のクラッチを入れて場所を移動するなどの、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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