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平成12年門審第108号
件名

貨物船第十一住宝丸プレジャーボート恵比寿丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、佐和 明、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第十一住宝丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:恵比寿丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
住宝丸・・・損傷ない
恵比寿丸・・・右舷外板を損傷、転覆、のち廃船

原因
恵比寿丸・・・船員の常務(新たな危険・衝突回避措置)不遵守 (主因)
住宝丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、恵比寿丸が、第十一住宝丸の前路で停留し、同船に対して新たに衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第十一住宝丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月3日20時50分
 関門港若松第4区

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十一住宝丸 プレジャーボート恵比寿丸
総トン数 199トン 2.7トン
全長 56.14メートル 12.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット 66キロワット

3 事実の経過
 第十一住宝丸(以下「住宝丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鋼材691トンを積載し、船首2.90メートル船尾3.85メートルの喫水をもって、平成11年9月3日20時40分関門港若松第4区の製鉄戸畑内浦岸壁(以下「内浦岸壁」という。)第1岸を発し、千葉港に向かった。
 A受審人は、機関長を船首甲板に配置して揚錨作業に当たらせ、20時43分若戸大橋橋梁灯(C1灯)(以下「C1灯」という。)から048.5度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点において揚錨を終え、法定の灯火を表示し、自ら手動操舵に就いて針路を若松航路第15号灯浮標(以下、若松航路の各号灯浮標の名称については「若松航路」を省略する。)を左舷船首方に見る326度に定め、機関を毎分180回転の極微速力前進にかけ、若松航路に向けて進行した。
 20時45分半A受審人は、C1灯から031度800メートルの地点において、内浦岸壁第2岸の中央部に並航したところで、針路を352度に転じ、4.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で続航していたところ、同時46分半C1灯から026度910メートルの地点に達して、右舷船首20度1,110メートルのところに恵比寿丸の紅灯を初めて認め、灯火などの状況から、同船は漁船であり、その距離が比較的近いと判断し、機関を停止して同船の動静を監視しながら惰力で進行した。
 A受審人は、これまでも若松航路付近で漁船やプレジャーボートなどと出会った際、漁船などが岸壁寄りに転針することが多かったことから、そのうち恵比寿丸が左に転舵して自船と内浦岸壁との間の進路を採り、互いに右舷を対して通過するものと思っていたところ、その後も一向に左転する気配がなく、紅灯を見せたまま前路を左方に横切る態勢で続航していたので、20時48分C1灯から020度1,090メートルの地点において、右舷船首15度480メートルのところに接近した恵比寿丸に対し、自船の存在を示すつもりで、汽笛で短音を繰り返し吹鳴し、同船の動静を監視しながら惰力で進行した。
 こうして、A受審人は、前進惰力のまま続航中、20時49分C1灯から017.5度1,180メートルの地点に至り、紅灯を見せたまま前路を通過する態勢となった恵比寿丸が、船首方近距離のところで左転して両色灯を見せるようになったものの、緑灯に変わらなかったので、自船の存在に気づいていないものと思い、避航を促すために汽笛で長音を連続して吹鳴したが、機関を後進にかけ、行きあしを止めて衝突を避けるための措置をとらず、同時50分少し前ようやく機関を全速力後進にかけるとともに右舵一杯をとったが効なく、20時50分C1灯から016度1,250メートルの地点において、住宝丸は、原針路から17度右に回頭して009度を向き、約2ノットとなった速力で、その船首部が、恵比寿丸の右舷船首部に前方から4度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時に当たり、視界は良好であった。
 また、恵比寿丸は、電気式ホーンを備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣り仲間1人を乗せ、釣り場の下見を行う目的で、同日19時30分関門港若松第2区の松ケ島船だまりを発し、同第5区の焼結船だまりに向かった。
 ところで、B受審人は、恵比寿丸の所有者から依頼され、1年間に7ないし8回同船の船長として乗り組み、釣りに出かけていたので、同船の操船には慣れており、洞海湾の水路事情についてもよく知っていたが、昼間に出かけることが多く、今回は約1年ぶりの夜間航海であった。
 B受審人は、自ら手動操舵に当たり、法定の灯火を表示し、洞海湾を出て20時00分焼結船だまりに到着して釣り場の下見を行い、同時30分下見を終え、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で帰途に就き、洞海湾に入って若松航路南側の航路外を同航路に沿って西行した。
 20時47分少し前B受審人は、第11号灯浮標の南東方約130メートルに当たる、C1灯から016度1,980メートルの地点において、針路を196度に定め、第13号及び第15号両灯浮標の中間付近から若松航路に入航することにして、同航路を航行する船舶の状況を確認しながら南下していたところ、同時48分第13号灯浮標の北東方約90メートルに当たる、C1灯から016度1,560メートルの地点に達したとき、左舷船首9度480メートルのところに、内浦岸壁の照明灯の余光に照らされた住宝丸の船影を初めて認め、このころ同船が吹鳴する汽笛信号を聞き、同船は前路を右方に横切る態勢で、若松航路に向けて極低速力で北上中であることを知った。
 B受審人は、いったん停止して住宝丸の動静を十分に確認した上で、必要であれば岸壁寄りの進路を採って同船と右舷を対して通過することにし、20時49分前示衝突地点付近において、住宝丸を左舷船首19度100メートルのところに見るようになったとき、スロットルを一杯まで下げて左舵をとったところ、機関回転数が急激に下がったために機関が停止し、原針路から11度左に回頭して185度を向き、住宝丸の前路で同船に向首した態勢で停留し、同船に対して新たに衝突のおそれを生じさせた。
 B受審人は、機関回転数を上げようとしたところ、機関が停止していることに気づき、衝突の危険を感じて急いで起動用のスイッチを数回にわたって操作し、再起動を試みたものの、住宝丸が間近に接近したことに気が動転し、クラッチが前進の位置となったままであることに気づかなかったため、機関を再起動することができず、衝突を避けるための措置をとらずに停留を続け、20時50分少し前船首至近に迫った住宝丸に対して白色全周灯を点灯するなどしたが、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、住宝丸は、損傷がなかったが、恵比寿丸は、右舷外板に損傷を生じて転覆し、のち廃船とされ、B受審人及び同乗者は、転覆した恵比寿丸に掴まっていたところを、巡視警戒中の水上警察署の警備艇に救助された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門港若松第4区において、第十一住宝丸の前路を無難に通過する態勢の恵比寿丸が、第十一住宝丸の前路で機関が停止して停留し、同船に対して新たに衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第十一住宝丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、関門港若松第4区において、第十一住宝丸の前路を無難に通過する態勢で進行中、同船の前路で機関が停止した場合、機関を再起動して同船との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、急いで機関の再起動を試みたものの、住宝丸が接近していることに気が動転し、クラッチが前進の位置となったままであることに気づかなかったため、機関を再起動することができず、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、第十一住宝丸の前路で停留を続けて同船との衝突を招き、恵比寿丸を転覆させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、関門港若松第4区において、前路を左方に横切る態勢の恵比寿丸の進路を避けるため、機関を停止して前進惰力で進行中、前路を無難に通過する態勢であった恵比寿丸の灯火が船首方近距離のところで両色灯に変わったのを認めた場合、直ちに行きあしを止めて同船との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船は機関を停止して前進惰力で進行しているので、汽笛信号を行えば、恵比寿丸が避航措置をとるものと思い、直ちに汽笛信号を行ったものの、行きあしを止めて同船との衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、前路で停留した恵比寿丸に向けて前進惰力のまま進行して同船との衝突を招き、同船を転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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