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平成12年門審第33号
件名

貨物船サルファートリッパー漁船新生丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、西村敏和、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:サルファートリッパー船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:新生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
サ号・・・右舷中央部外板に凹損及び同舷ハンドレールに曲損
新生丸・・・船首部を圧壊、同乗者2人が腰部打撲及び顔面切創等

原因
新生丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、新生丸が、見張り不十分で、錨泊中のサルファー トリッパーを避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月15日19時50分
 関門海峡西口

2 船舶の要目
船種船名 貨物船サルファートリッパー
総トン数 697トン
全長 64.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

船種船名 漁船新生丸
総トン数 9.1トン
登録長 12.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120

3 事実の経過
 サルファー トリッパー(以下「サ号」という。)は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか5人が乗り組み、溶融硫黄950トンを積載し、船首3.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって平成11年9月14日10時45分香川県坂出港を発し、関門港若松区に向かった。
 翌15日00時45分A受審人は、関門海峡西口の関門港六連島区東側港域外に至り、翌々16日の朝に着岸予定であったことから、沖待ちのため、太郎ケ瀬鼻灯台から303度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの地点において左舷錨鎖4節を延出して錨泊した。
 ところで、サ号の錨地付近は、多くの船舶が沖待ちのため錨泊するほか、下関漁港のある彦島と本州との間の小瀬戸に近く、同瀬戸へ出入りする漁船が多数航行する海域であった。
 A受審人は、夜間においては法定の灯火のほか、後部マストに危険物積載船の紅色全周灯1個及び船橋前部と前部マストに300ワットないし500ワットの甲板照明用作業灯3個をそれぞれ点灯し、居住区周りの外部通路灯も全て点灯したうえ、自らが時折昇橋して周囲の錨泊船の状況や天候を確認し、乗組員には休息をとらせていた。
 こうして、15日19時50分サ号は、前示地点において船首を031度に向けて錨泊中、同船の右舷中央部に新生丸の船首がほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 A受審人は、自室で休息していたとき、衝撃で衝突に気付き、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
 また、新生丸は、専ら福岡県藍島漁港を基地として響灘で操業し、下関漁港において水揚げを行う、いか一本釣り漁業に従事するFRP製の漁船で、B受審人が1人で乗り組み、荒天で出漁できなかったので魚倉の氷を補充する目的と骨休めを兼ね、妻と知人1人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月15日09時00分藍島漁港を出港して下関漁港に至り、氷の積込み作業を行ったうえ、3人で上陸してパチンコなどに興じたのち、19時40分太郎ケ瀬鼻灯台から089度1,450メートルの同漁港岸壁を発して藍島漁港への帰途についた。
 B受審人は、法定の灯火を表示してレーダーをスタンバイ状態にし、見張りを行い易いように通常より一段床から高くした操舵室内のいすに腰を掛け、単独で操船に当たって小瀬戸を西行し、19時46分半太郎ケ瀬鼻灯台から043度180メートルの、彦島大橋下を通過したとき、針路を六連島と馬島との間に向首する293度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で進行した。
 B受審人は、当時、新生丸の前路に5、6隻の甲板照明をした船舶が錨泊していたが、接近してからこれをかわせばよいと考えて続航中、六連島の灯火や錨泊船の灯火に紛れていた小型船の両色灯を前路近くに突然認め、その進路を避けるため、19時49分太郎ケ瀬鼻灯台から303度900メートルの地点において自動操舵のまま右舵をとって針路を301度に転じたところ、正船首方向400メートルのところで錨泊中のサ号に向首する態勢となった。
 しかし、B受審人は、小型船のかわり具合に気を取られ、前路の見張りを十分に行わず、サ号の甲板照明と錨泊灯等に気付かないまま、小型船が左舷前方で紅灯のみを示すようになったとき、レーダーを使用しての見張りが必要と思い、左側に設置されているレーダーの方を向き、頭を下げて始動操作を行った。
 こうして、B受審人は、サ号に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま、これを避けることなく進行中、19時50分わずか前、レーダーの始動を終えて前を向いたとき、船首方向至近にサ号の甲板照明を認め、あわてて機関のクラッチを切ったが及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、サ号は右舷中央部外板に凹損及び同舷ハンドレールに曲損をそれぞれ生じ、新生丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、また、衝突時の衝撃で新生丸の同乗者2人が腰部打撲及び顔面切創等の傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、多数の船舶が錨泊する関門港港域外において、航行中の新生丸が、見張り不十分で、法定の灯火を表示して、甲板照明を行っている錨泊中のサルファー トリッパーを避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、下関漁港を出航し、多数の船舶が錨泊する関門港港域外を航行中に反航船を避けて針路を転じた場合、法定の灯火を表示して、甲板照明を行っている錨泊中のサルファー トリッパーを避けることができるよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、反航船のかわり具合とレーダーの始動操作に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のサルファー トリッパーに向首して接近していることに気付かず、そのまま航行を続けて同船との衝突を招き、サルファー トリッパーの右舷中央部外板に凹損等を生じさせ、新生丸の船首部を圧壊させたほか、同船の同乗者2人に腰部打撲及び顔面切創等の傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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