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平成12年広審第110号
件名

貨物船せどろす丸貨物船きび丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、坂爪 靖、横須賀勇一)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:せどろす丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:せどろす丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:きび丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
D 職名:きび丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)

損害
せどろす丸・・・右舷船尾に破口と凹損
きび丸・・・船首部を圧壊

原因
せどろす丸・・・狭視界時の航法(レーダー・速力)不遵守
きび丸・・・狭視界時の航法(レーダー・速力)不遵守

主文

 本件衝突は、せどろす丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、きび丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Dを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月27日01時45分
 伊予灘北部 天田島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船せどろす丸 貨物船きび丸
総トン数 5,918.77トン 290トン
全長 113.00メートル 52.096メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,310キロワット 588キロワット

3 事実の経過
 せどろす丸は、船尾船橋型の貨物船で、A、B両受審人ほか12人が乗り組み、原塩10,400トンを積載し、船首8.02メートル船尾8.49メートルの喫水をもって、平成12年6月26日20時30分広島県倉橋島北西岸の三ツ子島を発し、関門港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を、航海士と甲板手の2人による3直4時間交替とし、発航後自ら操船指揮にあたって大須、奈佐美両瀬戸を通航したあと、小黒神島南方沖合で三等航海士と甲板手に船橋当直を命じて降橋し、23時10分ごろ諸島水道北方で昇橋して再び操船指揮にあたり、同時30分同水道を南下中、B受審人が三等航海士と交替して船橋当直に就き、同時50分片島南方沖合に達したとき、同受審人と甲板手に船橋当直を命じて降橋した。
 A受審人は、諸島水道通航中霧雨のため一時視界が悪化したものの、その後天候が回復して降橋時には視界が良かったうえ、当時霧についての気象注意報が発表されておらず、平素、瀬戸内海航行中視程が1海里以下になれば錨泊して天候の回復を待つようにし、6月初めに乗組員を集めて霧中航海についてミーティングを行ったとき、船橋当直者に対し、狭視界時には報告するよう注意を促していたので、視界が悪くなれば当直者から報告があるものと思い、そのまま自室で休息した。
 B受審人は、法定灯火を点灯し、海図に記載された平郡水道の推薦航路線から0.1海里ほど右側をほぼ同線に沿って西行し、翌27日01時29分天田島灯台から073度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で針路を237度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したときB受審人は、天田島灯台の灯光を視認することができなかったものの、左舷船首7度2.4海里のところに平郡水道第1号灯浮標(以下「1号灯浮標」という。)の灯光が見えていたので視界はそれほど悪くないものと判断し、甲板手に前路の見張りを行うように指示するとともに、レーダーを3海里レンジとして肉眼とレーダーにより見張りにあたっていたところ、同時38分天田島西岸まで1.0海里となっても天田島灯台の灯光を視認することができず、同島周辺が霧のため視界が制限された状態であることを知ったが、安全な速力に減じず、A受審人にその旨を報告することも、霧中信号を吹鳴することもしないまま続航した。
 01時39分B受審人は、レーダーで右舷船首11度2.0海里にきび丸の映像を探知し、その航海灯を視認することができなかったものの、依然安全な速力とせず、同時42分同船がほとんど方位変化のないまま1.0海里に近づいても依然航海灯を視認することができず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、そのころ左舷側500メートルに航過した1号灯浮標の灯光が見えたので、右舷側の視界もそれほど悪くなく、同船の航海灯が見えてからでも転舵して衝突を避けることができると思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、手動操舵に切り換えて甲板手を操舵にあたらせ、右舷前方に留意しながら全速力のまま進行した。
 01時45分少し前B受審人は、右舷船首方至近にきび丸のマスト灯と両舷灯を認め、同船がほぼ自船に向首していることを知って左舵一杯を令したが、せどろす丸は、01時45分天田島灯台から185度0.9海里の地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船尾にきび丸の船首が前方から24度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力3の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は約200メートルで、天田島から南ないし東に遠ざかるにつれて霧が薄くなっていた。
 また、きび丸は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、C、D両受審人ほか3人が乗り組み、水酸化マグネシウム481.282立方メートルを積載し、船首3.2メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同月26日18時25分関門港を発し、三重県四日市港に向かった。
 C受審人は、毎6時から12時まで自ら船橋当直に従事するほか、D受審人に毎0時から6時まで単独で船橋当直を行わせ、平素同人に対し、視程が2海里以下になれば報告し、霧中では減速するなどの措置をとるよう指示していた。
 出航後C受審人は、自ら船橋当直に従事して関門海峡を通航したのち周防灘を東行し、23時30分姫島北方でD受審人に船橋当直を引き継ぎ、その後自室で休息した。
 D受審人は、所定の航海灯を表示し、肉眼とレーダーにより見張りを行いながら周防灘及び伊予灘北部を東行し、翌27日01時36分天田島灯台から233度1.8海里の地点で針路を081度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけ、8.6ノットの対地速力で、推薦航路線の南側を手動操舵により進行した。
 01時37分D受審人は、3海里レンジとしたレーダーで左舷船首13度2.6海里にせどろす丸の映像を探知したものの航海灯を視認することができず、1号灯浮標を左舷側に航過するつもりで同灯浮標を正船首少し左に見て続航するうち、同時39分ごろ視界が悪くなってその灯光が見えなくなるとともに、レーダーで1海里前方に探知した他船の灯火を視認することができないことから、霧のため視界が制限された状態であることを知ったが、このことをC受審人に報告せず、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもしないまま、レーダー画面を見ながら操舵にあたった。
 01時40分D受審人は、折から航過した西行船が約200メートルとなったときにようやくその航海灯を視認したことから視界が著しく狭められていることを知り、同時42分レーダーでせどろす丸が方位変化のないまま1.0海里に接近したことを認め、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、同船が推薦航路線に沿って同線から北側に十分離れたところを西行して自船の左舷側を無難に航過すると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、全速力のまま続航した。
 その後D受審人は、レーダーを0.75海里レンジに切り換えて監視していたところ、せどろす丸の映像が画面中心に近づくのを認めたので左舷前方に留意しながら進行中、01時45分少し前同船のマスト灯を至近に認めて左舵一杯としたが、きび丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、せどろす丸は、右舷船尾に破口と凹損を生じ、きび丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、伊予灘北部において、両船が霧のため視界制限状態となった天田島沖合を航行中、西行するせどろす丸が、安全な速力とせず、レーダーで前路に探知したきび丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行するきび丸が、安全な速力とせず、レーダーで前路に探知したきび丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、甲板手とともに船橋当直に従事し、霧のため視界制限状態となった天田島東方沖合を西行中、レーダーで右舷船首方向に探知したきび丸が、ほとんど方位変化のないまま接近することを認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったから、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのころ左舷側500メートルに航過した1号灯浮標の灯光が見えたので、右舷側の視界もそれほど悪くなく、きび丸の航海灯が見えてからでも転舵して衝突を避けることができると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、せどろす丸の右舷船尾に破口と凹損を生じさせるとともに、きび丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は、夜間、単独で船橋当直に従事し、霧のため視界制限状態となった天田島南方沖合を東行中、レーダーで左舷船首方向に探知したせどろす丸が方位変化のないまま接近することを認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったから、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、せどろす丸が海図記載の推薦航路線に沿って同線から北側に十分離れたところを西行して自船の左舷側を無難に航過すると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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