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平成12年広審第114号
件名

貨物船第三芸安丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月11日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(坂爪 靖、伊東由人、西林 眞)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第三芸安丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
B 職名:第三芸安丸機関長

損害
芸安丸・・・球状船首及び船首外板に凹損
防波堤・・・一部に欠損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件防波堤衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月16日07時30分
 愛媛県枝越港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三芸安丸
総トン数 199トン
登録長 54.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット

3 事実の経過
 第三芸安丸(以下「芸安丸」という。)は、専ら関門港や大分県大分港、山口県徳山下松港などから京浜港への鋼材輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人の2人が乗り組み、鋼材約550トンを積載し、船首2.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成12年6月16日00時40分徳山下松港を発し、千葉県千葉港に向かった。
 ところで、A受審人は、船長として乗り組んでいたものの、同人の父であるB指定海難関係人が実質上の船長として入出港操船などの運航の指揮に当たり、船橋当直については自らとB指定海難関係人の2人で単独約5時間交替で行っていた。
 発航後、A受審人は、B指定海難関係人とともに船橋当直に当たって山口県上関海峡を通過したのち、03時00分ごろ平郡水道の沖家室島付近でB指定海難関係人に船橋当直を行わせて休息することとしたが、同人が同当直の経験が豊富であったことから、特に注意するまでもないものと思い、眠気を催したときには報告するよう指示することなく降橋して自室に退き、07時30分ごろ宮ノ窪瀬戸で昇橋するつもりで同時15分に目覚し時計を設定して休息した。
 こうして、単独の船橋当直に就いたB指定海難関係人は、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの速力で、自動操舵によって進行して安芸灘に入り、05時50分ごろ斎島(いつき)南方0.5海里ばかりの地点でトリム調整のため一番バラストタンクに海水を張ろうとバラストポンプを始動したところ、調子が悪かったので途中の愛媛県枝越港に寄せてドックで同ポンプの修理を済ませたのち目的港に向かうこととして続航した。
 07時14分半B指定海難関係人は、カヤトマリ鼻灯台から012度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点に達したとき、針路を枝越港新北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)にほぼ向首する083度に定め、機関を半速力前進の8.0ノットの速力とし、手動操舵によって進行した。
 その後、B指定海難関係人は、立った姿勢で舵輪に寄りかかり、北防波堤灯台の手前750メートルばかりの地点でいったん行きあしを止め、港内の様子を見てドックに他船が入っているようであれば修理をあきらめ、そのまま千葉港に向かうことにしようなどと考えながら当直を続けるうち、天気が良く、海上も穏やかなことから気が緩んだうえ、徳山下松港での約7時間の積荷役中、約2時間毎に3度船体のシフト作業を行い、ほとんど休息時間がとれないまま同港を出港してそのまま船橋当直に当たるなど睡眠不足気味であったことから、眠気を催すようになったが、休息中のA受審人を起こして当直を交代するなどの居眠り運航の防止措置をとらないで続航したところ、間もなく居眠りに陥った。
 07時27分少し前B指定海難関係人は、いったん行きあしを止める予定地点に達したものの、居眠りをしていてこのことに気付かず、枝越港の南防波堤に向かって進行中、同時30分わずか前ふと目覚めて前方を見たとき、船首至近に同防波堤を認め、急ぎ機関を全速力後進としたが効なく、07時30分北防波堤灯台から090度80メートルの地点において、芸安丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その左舷船首が南防波堤中央部に66度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、07時15分に目覚まし時計が鳴ったものの無意識のうちに止めて就寝中、衝撃で目覚めて急ぎ昇橋し、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、芸安丸は球状船首及び船首外板に凹損を生じたがのち修理され、防波堤は一部に欠損などを生じた。

(原因)
 本件防波堤衝突は、愛媛県枝越港西方沖合を同港に向けて東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港の南防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対して眠気を催したときには報告するよう指示しなかったことと、同当直者が眠気を催したときに居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、瀬戸内海を東行するにあたり、無資格の機関長に単独の船橋当直を行わせる場合、同機関長が居眠り運航とならないよう、眠気を催したときには報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、同人の父である同機関長が船橋当直の経験が豊富であったことから、特に注意するまでもないものと思い、眠気を催したときには報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同機関長が居眠りに陥り、愛媛県枝越港の南防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き、芸安丸の球状船首及び船首外板に凹損を、同防波堤の一部に欠損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独の船橋当直に就き、愛媛県枝越港西方沖合を同港に向けて東行中、眠気を催した際、船長を起こして当直を交代するなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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