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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年広審第9号
件名

漁船つばさ丸漁船平成丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、中谷啓二、横須賀勇一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:つばさ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
つばさ丸・・・プロペラ、プロペラ軸及び舵を曲損
平成丸・・・船尾部を大破し、のち廃船
船長が腰部捻挫等(入院治療1箇月半)

原因
つばさ丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、つばさ丸が、見張り不十分で、錨泊中の平成丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月19日09時45分
 愛媛県北宇和郡吉田港沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船つばさ丸 漁船平成丸
総トン数 3.6トン 0.6トン
全長 10.8メートル  
登録長   5.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 198キロワット 26キロワット

3 事実の経過
 つばさ丸は、専ら養殖アコヤ貝の運搬に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、平成12年1月19日08時10分山本真珠有限会社の作業場がある愛媛県北宇和郡浅川漁港を発し、同時30分同港北西方3海里の法花津湾南岸の真珠養殖筏に至り、アコヤ貝400キログラムを積み、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、09時30分同筏を発し、同漁港に向かった。
 発航後、A受審人は、陸岸に沿って南下し、四国本島と愛媛県大良島の間の狭い水道を通航したのち、水路の両側にはまち養殖施設が多いため、約1.0海里を低速で航行し、09時40分引出鼻灯台から305度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、針路を117度に定め、機関回転数毎分2,600として23.0ノットの速力(「対地速力」以下同じ。)とし、手動操舵により進行した。
 09時43分半A受審人は、引出鼻灯台から317度1,580メートルの地点に達し、針路を浅川漁港に向く072度に転じたとき、正船首方1,100メートルのところに、平成丸が錨泊しているのを認め得る状況であったが、左舷正横後45度約300メートルのところを僚船が同航しており、どちらが先に作業場に着くかを考えるなどして同船に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、平成丸に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、平成丸に向けたまま続航し、右転するなどして同船を避けることなく進行し、つばさ丸は、09時45分引出鼻灯台から358度1,500メートルの地点において、原針路、原速力ままのその船首が、平成丸の左舷正船尾に直角に衝突し、これを乗り切った。
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、平成丸は、一本釣漁業に従事するFRP製漁船で、船長Bが1人で乗り組み、あじ一本釣漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日09時00分愛媛県北宇和郡吉田港を発し、同港南西方約1.0海里沖合の釣場に向かった。
 09時05分B船長は、引出鼻灯台から358度1,500メートルの地点で、両舷錨を南北に投入し、機関を停止してあじ釣りの準備を始めた。
 ところで、平成丸の錨泊状況は、直径14ミリメートルのクレモナロープを錨索として使用し、右舷側は15キログラムの錨に約100メートルの錨索を付け、左舷側は20キログラムの錨に約70メートルの錨索を付けて海中に投入し、両舷の錨索を船首部に固縛しており、緊急に移動するためには、約30秒の時間が必要であった。
 09時43分半B船長は、船首を吉田港に向首する072度に向けて釣りの準備を続けていたところ、つばさ丸が、馬ノ碆沖の釣り筏を替わして船尾方1,100メートルのところから自船に向けて進行してくるのを初認し、いつもなら通航船が避けてくれていたので、この時もいずれ同船が避けるものと思って笛を吹かないでいたところ、同時45分わずか前同一進路のまま約60メートルに接近し、衝突の危険を感じたものの、どうすることもできず、甲板上に身を伏せたところ、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、つばさ丸は、プロペラ、プロペラ軸及び舵を曲損し、平成丸は、船尾部を大破して廃船処分とされ、B船長が、1箇月半の入院治療を要する腰部捻挫等を負った。

(原因)
 本件衝突は、愛媛県浅川漁港の南西方沖合において、同港の養殖真珠作業場へアコヤ貝を運搬中のつばさ丸が、見張り不十分で、前路に両舷錨を使用して錨泊中の平成丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、法花津湾南岸に設置してある養殖筏から、愛媛県浅川漁港の養殖真珠作業場にアコヤ貝を運搬し、同漁港の南西方沖合を航行する場合、自船の前路であじ釣りのため錨泊している平成丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、左舷後方に僚船が同航しており、どちらが先に作業場に着くかを考えるなどして同船に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、両舷錨を使用して錨泊し、あじ釣りの準備をしている平成丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、つばさ丸のプロペラ、プロペラ軸及び舵を曲損し、平成丸の船尾部を大破して廃船処分とするとともに、B船長に1箇月半の入院治療を要する腰部捻挫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して 、同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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