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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年広審第6号
件名

漁船第2妙力丸漁船敏栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月6日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、竹内伸二、勝又三郎)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第2妙力丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
妙力丸・・・船首部に擦過傷、プロペラ及びプロペラ軸を曲損
敏栄丸・・・船体中央部右舷側に破口及び船橋を圧壊、のち廃船
船長が海中転落し、外傷性ショックで死亡

原因
妙力丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
敏栄丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第2妙力丸が、見張り不十分で、漂泊中の敏栄丸を避けなかったことによって発生したが、敏栄丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月3日11時09分
 瀬戸内海 伊予灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船第2妙力丸 漁船敏栄丸
総トン数 4.4トン 4.0トン
登録長 9.54メートル 9.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 70

3 事実の経過
 第2妙力丸(以下「妙力丸」という。)は、船体中央部に船橋を有し、その後部右舷外側に舵輪及び操縦レバーを備えるFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、たち魚一本釣りの目的で、平成12年9月3日04時50分愛媛県三崎港を発し、速吸瀬戸北方の漁場に至って09時ごろから南北方向に往復する操業を開始した。
 ところで、妙力丸の船橋構造は、上下2段に仕切られており甲板上から仕切板まで約1.6メートルで、上段は、仕切板から天井まで約0.6メートルで、船橋前面及び左右両面のほか後面がそれぞれガラス窓となっており、船橋後部の甲板上操船位置から船首方向を見通すことができるようになっていたものの、船橋上段の中央にはレーダー、左舷側にはプロッター及び右舷側にはGPSが設置され、それぞれ操船位置からガラス窓を通して監視できるようになっているため、レーダー画面は船首方の見通しを妨げる配置となっており、船橋後部から見張りを行うに際しては、身体を左右に移動するなどしてその死角を補う見張りをする必要があった。
 また、多数のたち魚一本釣り漁船が操業する速吸瀬戸北方海域における操業方法は、100メートルないし200メートルのワイヤー製幹糸の先端に約6キログラムの底重りを付け、その先に付けた300メートルのナイロン製枝糸に釣り針100本を付けた仕掛けを使用するもので、機関を微速力にかけて対水速力1ノットとして潮流に流されながら、甲板上のローラーから仕掛けを延出して10分ないし20分引いた後、仕掛けを揚げて漁獲し、潮上りして元の位置に戻り、再び仕掛けを投入して引き糸を繰り返すものであった。
 こうして、2回目の引き糸を終えたA受審人は、投入地点に向かうため船橋後部に立って操舵操船にあたり、11時07分佐田岬灯台から330度(真方位、以下同じ。)8.0海里の地点で、潮上りのため、針路を202度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して13.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したとき、A受審人は、敏栄丸が左舷船首4度960メートルのところに船首を北西に向けて漂泊しているのを認め得る状況であったが、比較的同業船の少ない場所にいたので前路に同業船はいないものと思い、身体を左右に移動するなどしてレーダーなどの航海計器による死角を補う見張りを行うことなく、このことに気付かず、その後、甲板上に座って釣り針にエサをつける作業に取りかかった。
 11時08分A受審人は、敏栄丸が同方位500メートルのところに折からの潮流に流されながら引き糸中であることを認めることができ、同船にほぼ向首して接近したが、依然、エサつけ作業を続け、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、敏栄丸を避けることなく続航中、11時09分佐田岬灯台から328度7.8海里の地点において、妙力丸は、同じ針路、速力のまま、その船首が敏栄丸の右舷中央部に前方から67度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、視界は良好で、付近には約2.0ノットの北北東流があった。
 また、敏栄丸は、船体中央部に船橋を有するFRP製漁船で、船長Bが単独で乗り組み、たち魚一本釣りの目的で、同日05時00分三崎町与侈(よぼこり)を発し、速吸瀬戸北方の漁場に向かった。
 B船長は、10時59分佐田岬灯台から328度7.5海里の地点に達したとき、船首を315度に向け、機関を1.0ノットの前進速力にかけ、折からの潮流によって000度に流されながら、たち魚一本釣りを行っていたところ、11時07分右舷船首67度960メートルのところに妙力丸を認めることができ、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したものの、敏栄丸は、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらず、その船首が315度を向いた状態で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、妙力丸は船首部に擦過傷を生じ、プロペラ及びプロペラ軸を曲損したが、のち修理され、敏栄丸は船体中央部右舷側に破口及び船橋の圧壊をそれぞれ生じて廃船とされ、B船長(昭和38年3月4日生、一級小型船舶操縦士免状受有)は海中転落し、第二春明丸に救助されたが、外傷性ショックにより間もなく死亡した。

(原因)
 本件衝突は、速吸瀬戸北方の伊予灘において、両船がたち魚一本釣りに従事中、潮上りのため南下する妙力丸が、見張り不十分で、前路で漂泊して引き糸中の敏栄丸を避けなかったことによって発生したが、敏栄丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、速吸瀬戸北方のたち魚一本釣り漁船が集団で操業する海域において、潮上りを行う場合、舵輪後方に立って操船すると船橋内に設置された計器類により船首方の見通しが妨げられるから、前路に漂泊して引き糸中の敏栄丸を見落とすことのないよう、身体を左右に移動するなどその死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、比較的同業船の少ない場所にいたので前路に同業船はいないものと思い、身体を左右に移動するなど死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、敏栄丸を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、プロペラ及びプロペラ軸に曲損をそれぞれ生じさせ、敏栄丸の船体中央部右舷側に破口及び船橋の圧壊を生じさせるとともに、同船船長が外傷性ショックのため死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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