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平成13年函審第20号
件名

油送船昭立丸灯浮標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄、安藤周二、織戸孝治)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:昭立丸船長 海技免状:一級海技士(航海)

損害
昭立丸・・・プロペラの先端部に欠損、舵板に亀裂
第4号灯浮標・・・上部が損傷、固定用チェーンを切断

原因
針路選定不適切

主文

 本件灯浮標衝突は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月16日14時13分
 瀬戸内海水島航路

2 船舶の要目
船種船名 油送船昭立丸
総トン数 49,704.32トン
全長 237.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 12,797キロワット

3 事実の経過
 昭立丸は、鹿児島県喜入港から瀬戸内海、京浜及び北海道各方面に原油の二次輸送に従事する船尾船橋型油送船で、A受審人ほか20人が乗り組み、空倉のまま、船首5.09メートル船尾8.61メートルの喫水をもって、平成12年10月16日13時20分岡山県水島港の日石三菱石油精製株式会社水島製油所6号桟橋を発し、喜入港に向かった。
 ところで、A受審人は、これまで水島港で7ないし8回の出入港経験を有し、同港周辺海域の水路状況を知っており、出港後、いつものように港内航路に続き、約700メートル幅で灯浮標が設置され南方に延びた水島航路を南下し、備讃瀬戸北航路との交差部を通航して備讃瀬戸南航路との接続部に達したのち、左転して備讃瀬戸東航路に向かうことにした。
 A受審人は、発航時から船橋前部中央で操船指揮に当たって港内航路を南下し、13時50分水島航路に入り、その後船尾配置を終えて昇橋した二等航海士を見張りに、また甲板手を手動操舵にそれぞれ就け、前方1海里ばかりのところに進路警戒船を先航させて航路に沿って進行した。
 14時01分A受審人は、水島航路第7号灯浮標(以下、灯浮標名については「水島航路」を省略する。)と第8号灯浮標との間の、鍋島灯台から315度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点に達したとき、針路を165度に定め、機関を港内全速力前進より少し上げた回転数毎分90にかけ、折からの約0.5ノットの南東流を右舷後方から受けて1度ばかり左方に圧流されながら、12.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で続航した。
 定針後間もなくA受審人は、船首少し右の水島航路と備讃瀬戸南航路との接続部付近に、東方に向けて低速力で引き網中の漁船を視認し、同漁船に留意して南下を続けるうち、自船が徐々に左方に圧流されていることに気付いた。
 A受審人は、当時、備讃瀬戸三ツ子島付近の潮流が東流の最強期に近いことを知っており、14時07分鍋島灯台から283度2,000メートルの地点において、第6号灯浮標を左舷側330メートルに航過したとき、航路の中央より少し左側を進行していて、潮流の影響により更に左方に圧流される状況であったが、このままで左舷前方の第4号灯浮標を無難に航過できると思い、同灯浮標から十分に離れ航路の中央より右側部分を進行して漁船を左舷側に航過する針路を選定することなく、原針路のまま、約2ノットの東北東流により左方に10度ばかり圧流されながら、12.0ノットの速力で同灯浮標に著しく接近する状況となって進行した。
 その後、A受審人は、前示漁船の船尾方を航過するつもりで、これを漁船に連絡するよう進路警戒船に対して指示し、14時09分機関を港内全速力前進に減じて10.5ノットの速力で左方に圧流されながら南下したところ、漁船が停船し、やがて少し後退を始めたことから、漁船と第4号灯浮標の間を通航することに考え直し、なおも同灯浮標に著しく接近する状況のまま同一針路で続航するうち、同時12分半同灯浮標が左舷船首10度350メートルに近づいたとき、漁船が東方に向けて前進し始めたのを認め、急いで右舵一杯を令し、次いで機関を微速力前進に減じて右回頭中、14時13分鍋島灯台から219度1,750メートルの地点において、昭立丸は、170度に向首したとき、約10.0ノットの速力をもって、その左舷船尾が第4号灯浮標に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には約2.1ノットの東北東流があった。
 灯浮標衝突の結果、昭立丸は、プロペラの先端部に欠損、舵板に亀裂などを生じ、また第4号灯浮標は、上部が損傷したほか固定用チェーンを切断したが、のちいずれも修理、復旧された。

(原因)
 本件灯浮標衝突は、前路に操業中の漁船が存在する状況で東流の最強期近くに水島航路を備讃瀬戸南航路の接続部に向け南下中、針路の選定が不適切で、航路東側端の第4号灯浮標に著しく接近する状況となって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、前路に操業中の漁船が存在する状況で東流の最強期近くに水島航路を備讃瀬戸南航路の接続部に向け南下する場合、左舷前方の第4号灯浮標に著しく接近する状況となって圧流されることのないよう、同灯浮標から十分に離れ航路の中央より右側部分を進行して漁船を左舷側に航過する針路を選定すべき注意義務があった。ところが、同人は、このままで同灯浮標を無難に航過できると思い、同灯浮標から十分に離れ航路の中央より右側部分を進行して漁船を左舷側に航過する針路を選定しなかった職務上の過失により、左方に強く圧流されて同灯浮標との衝突を招き、自船のプロペラの先端部に欠損、舵板に亀裂を生じさせ、同灯浮標の上部を損傷したほか固定用チェーンを切断させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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