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平成13年函審第21号
件名

漁船第三ところ丸引船列遊漁船汐友丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年9月20日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、安藤周二、工藤民雄)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第三ところ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:汐友丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ところ丸・・・船首部に擦過傷
汐友丸・・・左舷中央部外板に破口、水没、のち廃船
船長ほか釣客7人が骨折、打撲

原因
ところ丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守 (主因)
汐友丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第三ところ丸引船列が、見張り不十分で、漂泊中の汐友丸を避けなかったことによって発生したが、汐友丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月25日11時20分
 北海道常呂漁港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三ところ丸
総トン数 19トン
登録長 21.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160

船種船名 漁船第十一ところ丸 漁船第十五ところ丸
総トン数 1.2トン 1.2トン
登録長 6.88メートル 6.88メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
漁船法馬力数 30 30

船種船名 遊漁船汐友丸
登録長 8.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 35

3 事実の経過
 第三ところ丸(以下「ところ丸」という。)は、専ら定置漁業に従事する後部船橋型FRP製漁船で、秋さけの定置網漁の操業開始に先立って、同網の型枠点検の目的で、A受審人ほか8人が乗り組み、船首0.3メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、無人の船首0.0メートル船尾0.2メートルの喫水となった第十一ところ丸を、更に同船の船尾から、無人の同喫水となった第十五ところ丸をそれぞれ10メートルの船間間隔をもって縦列(以下「ところ丸引船列」という。)に曳航し、平成12年8月25日06時30分北海道常呂漁港を発し、同漁港の西方約10海里の漁場に向かい、第十一ところ丸及び第十五ところ丸を使用して同点検を終了したのち、10時56分半少し過ぎ常呂港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から285度(真方位、以下同じ。)9.8海里の地点で、ところ丸引船列を形成して帰途に就いた。
 ところで、ところ丸は、全速力で航行すると、船首が浮上し、操舵位置からは船首左舷20度から船首右舷20度までの範囲に死角を生じ、前方の見通しが妨げられることから、平素、航行の際には、船首に見張り員を配置して死角を補っていた。
 発進時、A受審人は、当日早朝に他の漁労作業を行った後の点検であったことなどから、乗組員を後部甲板で休息させ、船首に見張り員を配置しないまま単独で船橋当直に就き、針路を110度に定めて手動操舵により、機関を全速力前進にかけて16.0ノットの対地速力で進行した。
 11時05分半少し過ぎA受審人は、北防波堤灯台から283度7.4海里の地点で、針路を089度にとり、同時18分半同灯台から295度4.2海里の地点に達したとき、海岸から沖合に向けて設置された定置漁具に沿って、針路を常呂漁港に向く100度に転じた。
 転針時、A受審人は、船首方740メートルのところに漂泊中の汐友丸を視認できる状況で、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、右舷方近距離の前示定置漁具の存在に気を奪われ、依然船首に見張り員を配置するなど船首方の死角を補う見張りを行わなかったので、同船に気付かず、これを避けることなく続航中、11時20分北防波堤灯台から296度3.8海里の地点で、ところ丸引船列は、原針路、原速力のまま、ところ丸の船首部が、汐友丸の左舷中央部に後方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には微弱な東流があった。
 また、汐友丸は、船首船橋型FRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客7人を乗船させ、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日04時50分常呂漁港を発し、同漁港西方の釣場に向かった。
 B受審人は、釣場到着後、適宜釣場移動や潮上りを繰り返しながら遊漁を行い、11時00分前示衝突地点のわずか西方で、100度を向首して機関を停止し、パラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を船首から投入し、曳索を約10メートル延出したのち、船首方に向けわずかに圧流されながら釣客に遊漁をさせ、自らは操舵室後方の甲板上で椅子に腰を掛け、周囲の見張りに当たった。
 11時18分半B受審人は、正船尾方740メートルのところに、自船に向首する、ところ丸引船列を視認し、その後同引船列が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、同引船列の方でやがて避航するものと思い、警告信号を行うことなく漂泊中、同時20分少し前同引船列が同方向100メートルのところに接近したとき、衝突の危険を感じ、慌てて操舵室に入って機関を始動し、シーアンカーを投入したまま左舵一杯としたが及ばず、050度を向首して前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ところ丸は、船首部に擦過傷を生じ、汐友丸は、左舷中央部外板に破口を生じて間もなく水没し、のち引き揚げられて廃船処分され、また、B受審人ほか釣客7人が骨折、打撲などを負った。

(原因)
 本件衝突は、漁場から帰航中のところ丸引船列が、見張り不十分で、漂泊中の汐友丸を避けなかったことによって発生したが、汐友丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、漁場から帰航する場合、船首浮上により死角を生じて前方の見通しが妨げられる状況であったから、前路で漂泊中の汐友丸を見落とさないよう、船首に見張り員を配置するなど船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、右舷方近距離の定置漁具の存在に気を奪われ、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、汐友丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、ところ丸の船首部に擦過傷を生じさせ、汐友丸の左舷中央部外板に破口を生じて水没させ、B受審人ほか釣客7人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、遊漁のためシーアンカーを投入して漂泊中、正船尾方にところ丸引船列を視認し、衝突のおそれのある態勢で接近することを認めた場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同引船列の方でやがて避航するものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、また、釣客を負傷させ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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