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平成12年長審第82号
件名

貨物船第五フェリー美咲貨物船大伸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、平田照彦、平野浩三)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第五フェリー美咲船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:大伸丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
美咲・・・左舷後部に凹損
大伸丸・・・右舷船首部に凹損

原因
大伸丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
美咲・・・横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大伸丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第五フェリー美咲の進路を避けなかったことによって発生したが、第五フェリー美咲が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月6日16時00分
 長崎県佐世保港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五フェリー美咲 貨物船大伸丸
総トン数 498トン 424トン
全長 65.79メートル 49.76メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第五フェリー美咲(以下「美咲」という。)は、船首船橋型鋼製カーフェリーで、A受審人ほか3人が乗り組み、車両5台及び運転者4人を乗せ、船首1.6メートル船尾5.3メートルの喫水をもって、平成12年4月6日14時25分五島列島中通島の榎津港を発し、佐世保港に向かった。
 A受審人は、自ら操船して港外に出て、14時30分継子瀬を通過するとき機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で進行し、15時46分伏瀬灯標から355度(真方位、以下同じ。)0.3海里の地点で、針路を083度に定めて自動操舵とし、北寄りの風波を左舷から受けて084度の実航針路で続航した。
 A受審人は、定針直後、左舷船首63度1.5海里に大伸丸を初認し、15時55分伏瀬灯標から076度2.2海里の地点に達したとき、同船の方位が変わらないまま距離が0.5海里に接近し、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを知り、その動静を監視しながら進行した。
 15時57分A受審人は、大伸丸が避航の様子を見せずに0.3海里に接近したので汽笛によって警告信号を行ったものの、依然として同船に避航の様子が見えなかったが、更に接近すれば避けるものと思い、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行し、16時00分伏瀬灯標から078度3.3海里の地点において、美咲の左舷後部が、原針路、原速力のまま、大伸丸の右舷船首に後方から27度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、大伸丸は、船尾船橋型鋼製石材運搬船で、B受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、同日14時10分五島列島宇久島の平漁港を発し、長崎県西海町の採石場に向かった。
 B受審人は、自ら操船して港外に出て、14時20分前小島を通過するとき、機関を全速力前進にかけて12.5ノットの対地速力で進行し、まもなく、一等航海士に当直を引き継いで休息した。
 15時36分一等航海士は、伏瀬灯標から330度2.8海里の地点に達したとき針路を110度に定め、北寄りの風波を左舷から受けて111度の実航針路で、自動操舵によって進行した。
 B受審人は、15時50分再び当直につくため昇橋し、一等航海士より右舷側から美咲が来る旨の引継ぎを受けたのち当直につき、同時52分伏瀬灯標から053度2.1海里の地点で、右舷正横0.8海里に前路を左方に横切る態勢で接近する美咲を認めたが、同船とは今まで何度も出会っていて同船の速力が自船より速いことを知っていたので、前路を無難に航過して行くものと思い、その後、方位の変化を確かめる等同船に対する動静監視を十分に行わないまま進行した。
 15時55分B受審人は、伏瀬灯標から065度2.5海里の地点に達したとき、美咲の方位が変わらないまま距離が0.5海里となり、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況となったが、動静監視を行っていなかったのでこのことに気付かず、減速するなど同船の進路を避けることなく進行し、16時00分少し前至近に迫った美咲を認めて左舵一杯機関後進としたものの効なく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、美咲は左舷後部に、大伸丸は右舷船首部に凹損等を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、長崎県佐世保港西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、大伸丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る美咲の進路を避けなかったことによって発生したが、美咲が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、佐世保港西方沖合において、採石場に向かって航行中、前路を左方に横切る態勢で接近する美咲を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、方位の変化を確かめる等同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、美咲は自船より速い速力で進行しているので無難に前路を航過して行くものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、美咲と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、減速するなど美咲の進路を避けることなく進行して衝突を招き、美咲の左舷後部及び大伸丸の右舷船首部に凹損等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、佐世保港西方沖合を同港に向かって航行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する大伸丸に対して警告信号を行っても同船に避航の様子が認められない場合、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に接近すれば大伸丸が避航するものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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