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平成12年門審第11号
件名

貨物船フェリーたかちほプレジャーボート民丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、米原健一、橋本 學)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:フェリーたかちほ船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:フェリーたかちほ二等航海士 海技免状:一級海技士(航海)
C 職名:民丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
たかちほ・・・右舷船首部外板に擦過傷
民丸・・・船尾部を圧壊、船長が骨折等

原因
たかちほ・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
民丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、フェリーたかちほが、見張り不十分で、錨泊中の民丸を避けなかったことによって発生したが、民丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月16日13時00分
 鹿児島県枇榔島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船フェリーたかちほ プレジャーボート民丸
総トン数 3,891トン  
全長 131.16メートル 7.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 9,929キロワット 42キロワット

3 事実の経過
 フェリーたかちほ(以下「たかちほ」という。)は、航行区域を限定近海区域とし、船体中央部に船橋を有する鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか11人が乗り組み、コンテナ貨物2,566トン及び車輌73台を積載し、船首4.31メートル船尾6.15メートルの喫水をもって、平成11年5月16日12時35分鹿児島県志布志港を発し、沖縄県那覇港へ向かった。
 A受審人は、自ら操船指揮を執って志布志港第一突堤フェリーターミナルを離桟し、出港部署及び機関用意を解除したのち、B受審人を操船補佐に、当直甲板手を操舵にそれぞれ当たらせ、機関回転をコンピューター制御により徐々に増しながら、引き続き操船の指揮を執って同港防波堤出口に向けて南下した。
 12時50分A受審人は、志布志港沖防波堤の先端部を替わしたのち、船首を志布志湾口の火埼沖に向け、同時55分枇榔島がほぼ左舷正横1海里に並んだとき、前方に危険な他船がいないことを確かめてB受審人に当直を引き継ぎ、VHFで海上保安部へジャスレップの通報を行ったのち、降橋した。
 B受審人は、12時から16時までが同人の当直時間であったことから、離桟後、直ちに昇橋して出航操船中のA受審人の補佐に就き、志布志港の港界を過ぎたころに船橋当直を引き継いだのち、12時55分半志布志港南防波堤灯台から170度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に至ったとき、当直甲板手に命じて針路を150度に定めて自動操舵とし、引き続き、機関をコンピューター制御による増速モードに設定して14.5ノットの対地速力で進行した。
 間もなく、B受審人は、周囲を一瞥(いちべつ)したところ他船を見かけなかったことから、当直甲板手を甲板作業に従事させ、単独で船橋当直に当たって続航した。
 12時58分B受審人は、志布志港南防波堤灯台から165度2.2海里の地点に達したとき、正船首900メートルのところに、民丸を視認でき、その後、その方位に変化がないことや接近模様などから、同船が停止していることを判別できる状況となったが、前路に他船がいないものと思い、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かずに進行した。
 こうして、B受審人は、前路の民丸を避けないまま続航中、13時00分志布志港南防波堤灯台から162.5度2.7海里の地点において、たかちほは、原針路のまま、14.5ノットよりやや速い対地速力で、その船首が、民丸の船尾に後方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、視界は良好であった。
 B受審人は、民丸と衝突したことに気付かずに航行中、海上保安部からの連絡によって衝突の事実を知り、A受審人は、B受審人から民丸と衝突した旨の報告を受け、事後の措置に当たった。
 また、民丸は、航行区域を限定沿海区域とし、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、C受審人が1人で乗り組み、大人2人と子供2人を乗せ、蜷貝(にながい)を採取する目的で、船首0.15メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、同日10時10分宮崎県福島高松漁港を発し、同港南西方沖合約3海里の枇榔島へ向かった。
 10時20分C受審人は、枇榔島に到着したところ、子供の1人が船釣りを望んだので、大人2人と子供1人を同島畳埼の東海岸に降ろしたのち、釣りの目的で、同埼南西方約1海里半の沖合に移動し、同時25分前示衝突地点で機関を停止し、長さ200メートル直径8ミリメートルのクレモナ製ロープを錨索として用い、その先端に重さ8.7キログラムのステンレス製の錨を結わえて海中に投じ、同ロープを150メートル延出して船首部のたつにクラブヒッチで結び錨泊を始めた。
 12時50分C受審人は、錨泊中を示す法定形象物を掲げず、操舵室右舷側の高さ約2メートルのポールの先端に、所属遊漁船組合が遊漁中に掲揚することを定めた50センチメートル四方のオレンジ色の旗を掲げて釣りを行っていたとき、たかちほが、志布志港沖防波堤の先端を替わり、自船に向首しつつあることを認めたが、まだ距離があったことから、そのうち同船が自船を避航して行くものと思い、その後の動静監視を十分に行わず、操縦席後方の甲板で釣りを続けた。
 12時58分C受審人は、左舷船尾15度900メートルのところに、たかちほが衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、錨索を解き放ち機関を始動して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けた。
 こうして、C受審人は、船首を風に立て135度に向首して錨泊中、12時59分少し過ぎたかちほが300メートルまで接近したとき、避航する気配のない同船を認め、衝突の危険を感じて掲揚していたオレンジ色の旗を振ったが、効なく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、たかちほは、右舷船首部外板に擦過傷を生じ、民丸は、船尾部を圧壊し、C受審人が骨折等を負うに至った。

(原因)
 本件衝突は、志布志湾において、鹿児島県枇榔島西方沖合を同湾口に向けて南下中のたかちほが、見張り不十分で、錨泊中の民丸を避けなかったことによって発生したが、民丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、志布志湾において、志布志港の出航操船を終えたA受審人から当直を引き継ぎ、同湾口に向けて南下する場合、前路で錨泊中の民丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、周囲を一瞥したところ他船を見かけなかったことから、付近に他船がいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の民丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、民丸の船尾部を圧壊し、C受審人に骨折等を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 C受審人は、志布志湾において、釣りの目的で錨泊中、志布志港を出航したたかちほが自船に向首しつつあることを認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、まだ距離があったことから、そのうち同船が自船を避航して行くものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かず、機関を始動して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:56KB)





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