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平成13年門審第4号
件名

漁船豊徳丸貨物船ジャンヤンサン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、橋本 學、相田尚武)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:豊徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
豊徳丸・・・右舷後部舷橋に擦過傷、船体前部のマスト及び同後 部のデリックを折損
ジャン号・・・左舷船首部外板に擦過傷

原因
ジャン号・・・居眠り運航防止措置不十分、各種船間の航法(避航 動作)不遵守(主因)
豊徳丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守 (一因)

主文

 本件衝突は、ジャン ヤン サンが、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁ろうに従事している豊徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊徳丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月11日02時47分
 伊予灘南部

2 船舶の要目
船種船名 漁船豊徳丸 貨物船ジャンヤンサン
総トン数 4.99トン 1,563トン
全長 14.50メートル 111.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   1,790キロワット
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 豊徳丸は、船体中央からやや後方に操舵室を有し、底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、全長が12メートルを超えるが汽笛を装備しないまま、操業の目的で、船首0.48メートル船尾1.34メートルの喫水をもって、平成12年3月10日08時00分大分県美濃崎漁港を発し、09時00分ごろ同漁港北東方沖合10海里付近の漁場に至り、伊予灘西航路第2号灯浮標及び別府航路第1号灯浮標間を往復して操業を行った。
 ところで、A受審人が行う底引き網漁は、ビームによって網口を開いた長さ30メートルの魚網及びこれに取り付けたそれぞれの長さ220メートルの2本の鋼製曳索を船尾から延出し、操舵室付近の左右両舷端に設けたたつに各曳索を係止して5時間ないし6時間曳網したのち、後部甲板のウインチ及びデリックを用いて揚網を行い、30分後再び投網するもので、曳網中には、転針方向と反対舷の曳索を両手で船体内側に引き寄せ、2本の曳索のバランスを調節することによって針路を変更することができ、他船などを避航する際には操舵装置を併用することで大きく針路を転じることもできた。
 A受審人は、日没後、トロールにより漁ろうに従事している船舶の灯火を表示し、曳網中の見張りを甲板員と交替して行いながら操業を続け、翌11日01時00分臼石鼻灯台から047度(真方位、以下同じ。)10.4海里の地点に達したとき、単独で見張りに就くとともに、針路を160度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけて2.0ノットの対地速力で、遠隔操舵装置による手動操舵により進行した。
 定針後A受審人は、操舵室の右舷側に立って見張りに当たっていたところ、02時30分ごろそれまで周囲に多数見かけていた他船の数が少なくなったことから、同室左舷側の畳敷き台の後部に移動し、遠隔操舵装置を持って後壁にもたれて座り、前方を向いた姿勢で南下した。
 02時43分A受審人は、臼石鼻灯台から066.5度9.5海里の地点に差し掛かったとき、右舷船尾6度1,570メートルのところにジャン ヤン サン(以下「ジャン号」という。)が表示する白、白、紅、緑4灯を視認でき、その後、同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況となったが、他船が漁ろうに従事している自船の進路を避けるものと思い、依然前方を向いて座ったまま、後方の見張りを十分に行わなかったので、ジャン号の灯火を見落とし、このことに気付くことなく続航した。
 A受審人は、ジャン号が避航の気配を見せずに更に接近し、02時46分同船が同方位400メートルに迫ったものの、後方の見張り不十分で、このことに気付かず、遠隔操舵装置及び曳索を操作して大きく左転するなど、衝突を避けるための協力動作をとらないで進行中、02時47分臼石鼻灯台から067度9.5海里の地点において、豊徳丸は、原針路、原速力のまま、その右舷後部に、ジャン号の左舷船首部が後方から5度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、ジャン号は、船尾船橋型の貨物船で、船長B、二等航海士Cほか9人が乗り組み、コンテナ及び雑貨1,600トンを載せ、船首3.20メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、同月10日22時30分関門港を発し、宮崎県細島港に向かった。
 C二等航海士は、23時30分下関南東水道第4号灯浮標付近で昇橋し、航行中の動力船の灯火を表示していることを確認したうえ、操舵手1人を伴って船橋当直に就き、周防灘を東行したのち、翌11日01時42分姫島灯台から121度2.4海里の地点に達し、伊予灘西航路第4号灯浮標を左舷方400メートルに見たとき、針路を155度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて14.7ノットの対地速力で進行した。
 02時00分C二等航海士は、夕食時に忘れていた風邪薬を服用し、同時15分操舵手が夜食をとりに降橋したあと、操舵室前部に置いていたいすに腰を掛けて単独で見張りに当たっていたところ、いつしか居眠りに陥った。
 C二等航海士は、02時43分臼石鼻灯台から061度9.5海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首1度1,570メートルのところに豊徳丸が表示する緑、白、白3灯を視認でき、同船がトロールにより漁ろうに従事していることが分かり、その後、同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りをしていたので、このことに気付かず、同船の進路を避けずに続航中、ジャン号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C二等航海士は、03時00分ごろ操舵手が再び昇橋したとき目を覚まし、衝突したことに気付かないで航行を続け、04時00分船橋当直を交替した。B船長は、08時00分細島港に入港して海上保安部の調査を受け、左舷船首部外板に生じていたペイント剥離などを見て衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、豊徳丸は、右舷後部舷端に擦過傷を生じたほか、船体前部のマスト及び同後部のデリックを折損したが、のち修理され、ジャン号は、左舷船首部外板に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、伊予灘南部において、南下中のジャン号が、居眠り運航の防止措置が不十分で、トロールにより漁ろうに従事している豊徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊徳丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、伊予灘南部において、トロールにより漁ろうに従事する場合、後方から接近する他船を見落とすことがないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、他船が漁ろうに従事している自船の進路を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するジャン号に気付かないまま、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して同船との衝突を招き、豊徳丸の右舷後部舷端に擦過傷を生じさせたほか、船体前部のマスト及び同後部のデリックを折損させ、ジャン号の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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