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平成13年広審第34号
件名

漁船第六十八漁徳丸漁船第2大勢丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(坂爪 靖、高橋昭雄、伊東由人)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第六十八漁徳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第2大勢丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
漁徳丸・・・左舷後部外板に凹損
大勢丸・・・左舷船首部外板に亀裂、ハンドレール曲損等

原因
大勢丸・・・見張り不十分、港則法の航法(右側通行)不遵守(主因)
漁徳丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、港則法の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第2大勢丸が、航路内で第六十八漁徳丸と行き会う際、見張り不十分で、航路の右側を航行しなかったことによって発生したが、第六十八漁徳丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月5日09時10分
 境港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八漁徳丸 漁船第2大勢丸
総トン数 119トン 19.43トン
全長 36.08メートル  
登録長   17.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 551キロワット 478キロワット

3 事実の経過
 第六十八漁徳丸(以下「漁徳丸」という。)は、かにかご漁業に従事する船体中央部に操舵室を設けた鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、出漁に備えてえさを積み込む目的で、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成12年5月5日08時50分境港の通称入船町岸壁を離岸し、同岸壁東方1.1海里ばかりの外港ふ頭北側の岸壁に向かった。
 離岸後、A受審人は、操舵室前部左舷側の機関操縦スタンドの後方に立って1人で遠隔操舵とレーダーによる見張りに当たり、航路入口に向けて東行し、08時59分少し過ぎ境水道大橋橋梁灯(L1灯)と同橋梁灯(C1灯)とのほぼ中間の、境港防波堤灯台から261.5度(真方位、以下同じ。)2,520メートルの地点に達したとき、針路を078度に定め、機関を微速力前進にかけて、4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 ところで、A受審人は、船首楼のため操舵室中央の舵輪後方の操舵位置から正船首左右各約18度の範囲で死角を生じて前方の見通しが妨げられることから、平素適宜ウイングに出るなどして船首死角を補う見張りを行っていた。
 09時03分A受審人は、境港境水道第6号灯浮標を000度80メートルに見る地点で航路に入り、その後航路の右側を同じ針路、速力で続航した。同時07分境港防波堤灯台から264度1,570メートルの地点に達したとき、0.75海里レンジとしたレーダーで左舷船首4度1,380メートルばかりのところに第2大勢丸(以下「大勢丸」という。)を含む漁船数隻の映像を探知し、肉眼で確かめるつもりで左舷ウイングに出たところ、左舷船首方に前路を右方に無難に替わる態勢で入航中のいか釣り漁船を認めるとともにその後方近距離のところに大勢丸を初めて視認し、その後同船と航路内で行き会う状況であることを知ったが、同船が左舷側を見せて航行していたことから、航路の右側を航行してくるものと思い、すぐ同船から目を離して操舵室内に戻り、大勢丸が自船の船首死角の中に入って見えない状態のまま、遠隔操舵に当たった。
 09時07分少し過ぎA受審人は、左舷船首6度1,220メートルに接近した大勢丸が航路の右側から左側に斜航する針路に転じたため、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、この状況に気付かず、警告信号を行って同船に航路の右側につくよう促すことも、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく進行中、同時10分少し前着岸準備のため機関を中立として間もなく同船が左舷船首部の陰から現れ、左舷船首至近に迫ったのを認め、慌てて左舵一杯とするとともに機関を全速力前進としたが効なく、09時10分境港防波堤灯台から266度1,200メートルの地点において、漁徳丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その左舷後部に大勢丸の左舷船首部が前方から8度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 また、大勢丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、同月4日09時30分境港内の境漁港を発し、15時00分隠岐諸島北西方17海里ばかりの漁場に至り、操業を行っていか約825キログラムを獲たところで操業を終え、翌5日03時30分漁場を発進して帰途についた。
 発進後、B受審人は、船橋当直を自らと機関長及び甲板員の3人で単独約2時間半交替で行って隠岐諸島の島後水道経由で境漁港の魚市場に向かい、08時00分地蔵埼北方8.5海里ばかりの地点で、甲板員から当直を引き継いで船橋当直に当たり、同時47分同埼東方700メートルばかりを航過し、そのころ同漁港に入航する態勢の数隻のいか釣り漁船を認め、そのうちの1隻で、自船の前方200メートルばかりを航行する同漁船に追走して島根半島南岸沿いを西行した。
 09時03分半B受審人は、境港第2号灯浮標を000度80メートルに見る、境港防波堤灯台から078度1,000メートルの地点で、境港の航路に入り、針路を航路に沿う270度に定め、機関を全速力前進にかけて自動操舵とし、11.0ノットの速力で進行した。
 09時07分B受審人は、境港防波堤灯台から313度310メートルの地点に達したとき、左舷船首16度1,380メートルばかりのところに航路の右側を東行中の漁徳丸を視認でき、その後同船と航路内で行き会う状況であったが、先航船の船尾や左舷方の岸壁を見ることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かないまま続航した。
 09時07分少し過ぎB受審人は、境港防波堤灯台から302度410メートルの地点に達したとき、針路を魚市場の岸壁北東端に向く250度に転じたところ、漁徳丸が右舷船首2度1,220メートルとなり、その後同船と方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、航路内で行き会う他船はいないものと思い、依然前路の見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、漁徳丸と左舷を対して航過できるよう、速やかに右転して航路の右側を航行することなく、航路の右側から左側に斜航する態勢で進行中、同時10分わずか前左舷船首至近に漁徳丸を認め、慌てて機関を中立としたが効なく、大勢丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、漁徳丸は左舷後部外板凹損、かにかご送り台走行レール曲損等を生じ、大勢丸は左舷船首部外板亀裂(きれつ)、ハンドレール曲損等を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、漁徳丸及び大勢丸の両船が境港の航路を航行中、航路内において行き会う際、西行する大勢丸が、見張り不十分で、航路の右側を航行しなかったことによって発生したが、東行する漁徳丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、単独の船橋当直に就き、境港の航路を西行する場合、航路内で行き会う他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路内で行き会う他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路の右側を東行する漁徳丸に気付かず、速やかに右転して航路の右側を航行することなく進行して同船との衝突を招き、漁徳丸の左舷後部外板に凹損等を、大勢丸の左舷船首部外板に亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、単独の船橋当直に就き、境港の航路の右側を東行中、左舷前方に大勢丸を視認し、同船と航路内で行き会う状況であることを知った場合、操舵室内からは同船が自船の船首死角の中に入って見えなかったから、左舷ウイングに出るなどして大勢丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船を初認したとき、同船が左舷側を見せて航行していたことから、航路の右側を航行してくるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、大勢丸が航路を斜航して衝突のおそれがある態勢で接近してくることに気付かず、警告信号を行って同船に航路の右側につくよう促すことも、衝突を避けるための措置をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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