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平成12年広審第108号
件名

貨物船第二十一金比羅丸漁船初栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、勝又三郎、横須賀勇一)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第二十一金比羅丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:初栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
金比羅丸・・・右舷船首外板に擦過傷
初栄丸・・・船首部を圧壊

原因
金比羅丸・・・動静監視不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守 (主因)
初栄丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務 (衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二十一金比羅丸が、動静監視不十分で、無難に航過する態勢の初栄丸に対し、転針して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、初栄丸が、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月10日16時40分
 豊後水道東部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十一金比羅丸 漁船初栄丸
総トン数 497トン 4.8トン
全長 65.25メートル  
登録長   9.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 第二十一金比羅丸(以下「金比羅丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、海砂760立方メートルを載せ、船首3.60メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成12年3月10日13時30分愛媛県長浜港沖の海砂採取地を発し、同県八幡浜港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を単独片道2交替制を採って自らを含め3人で順繰りに行い、佐田岬北東方2海里付近の伊予灘南部で前直の一等航海士と交替して当直に就き、その後同岬を付け回すようにして豊後水道北東部に入り、16時16分佐田岬灯台から180度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で、針路を目的地に向く075度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で進行した。
 16時35分少し前A受審人は、右舷船首34度2海里のところに船首を左右に大きく振らせながら北上する初栄丸を初めて視認したが、同船と衝突のおそれがあるかどうかを確かめるにあたり、コンパスを利用してその方位変化による動静監視を十分に行うことなく、同船の方位変化を船橋窓枠による見通し線を利用した極短い時間の監視で、同時37分半右舷船首37度1海里に同船を認めるようになったとき、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であると速断し、そのまま進行すれば同船の前路を約820メートル離して替わる状況に気付かないまま、同船の船尾を替わすつもりで、操舵を手動に切り換え右舵15度をとり右転を始めた。ところが、続いて初栄丸の船首が大きく左に振れたのを認めて舵を中央に戻して約20度右転した095度に転針した状態となったとき、再び同船の船首が右に振れ戻って右舷船首17度に同船を認めるようになり、同船に対し新たな衝突のおそれを生じさせ、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況で続航した。
 16時38分半A受審人は、その方位がほとんど変わらず1,000メートルに初栄丸を認めるようになったものの、依然としてコンパスによる動静監視を十分に行わず、レーダープロッター映像に現われた両船の速力ベクトル模様を見比べて初栄丸が自船の約1.5倍の速力であることを知り、そのままの態勢で進行しても速力の速い同船が自船の前路を替わるものと思い、速やかに右舵一杯とするなど衝突を避けるための措置をとることなく、同じ針路及び速力で進行中、同船と至近に迫るに及んで衝突の危険を感じ、右舵一杯としたが及ばず、16時40分佐田岬灯台から090度4.0海里の地点において、金比羅丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、右舷船首部に初栄丸の船首が前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、初栄丸は、ふぐはえ縄漁業に従事する汽笛不装備のFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日05時00分同県佐田岬漁港を発し、同港南東方9海里沖の漁場に至って操業を行い、16時ころふぐ約10キログラムを獲て操業を止め、同時15分機関を半速力前進にかけて漁獲物の選別を行いながら帰途に就いた。
 選別後、16時18分B受審人は、佐田岬灯台から111度9海里の地点で、針路を基地の佐田岬漁港に向く305度に定め、機関を全速力前進にかけて15.0ノットの速力で約1海里前方を先航する同僚船に後続する態勢で進行した。
 ところで、B受審人は、遠隔手動操舵によるため船首が左右に大きく振られながら操船中、16時35分少し前左舷船首16度2海里のところに東行中の金比羅丸が存在し、さらに同時37分半左舷船首13度1海里に同船を認めることができるようになり、同船が自船の進路を横切るも前路を無難に替わる状況であったところ、金比羅丸が右転して新たな衝突のおそれがある状況となったが、これに気付かないまま続航した。
 こうして、16時38分半B受審人は、左舷船首13度1,000メートルに金比羅丸を初めて視認し、同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であることを認めたが、そのうちに金比羅丸が自船の進路を避けるものと思い、その後金比羅丸の動静監視を行わなかったので、同船が避航動作をとらないまま接近することに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、さらに衝突を避けるための措置をとることもなく進行し、同時40分少し前左舷船首至近に迫った同船に気付いて衝突の危険を感じ、急いで機関の回転数を下げたが効なく、初栄丸は、原針路、ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、金比羅丸は右舷船首外板に擦過傷を生じ、初栄丸は船首部を圧壊した。

(原因)
 本件衝突は、豊後水道東部において、両船が互いに進路を横切るも無難に航過する態勢で接近中、東行する金比羅丸が、動静監視不十分で、右舷前方を北上する初栄丸に対して右転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、北上する初栄丸が、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、佐田岬半島南岸沖合を東行中、右舷前方に船首を左右に大きく振らせながら互いに進路を横切る態勢で北上する初栄丸を視認した場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、コンパスを利用した方位変化により動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、その方位変化を船橋窓枠による見通し線により極短い時間で行い、コンパスを利用した方位変化により動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であると速断し、同船の進路を避けるつもりで右転して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して、同船との衝突を招き、金比羅丸の右舷船首外板に擦過傷を生じさせ、初栄丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、佐田岬半島南岸沖合を基地に向けて北上中、左舷前方に東行中の金比羅丸と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況を認めた場合、避航動作をとらないまま接近する同船に対して避航を促すための有効な音響による信号及び衝突を避けるための措置をとることができるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、進行方向左舷側に見る金比羅丸の方が避航船の立場であり、そのうちに同船が自船を避けるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、金比羅丸が避航動作をとらないまま接近することに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく進行して、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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