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平成12年広審第106号
件名

貨物船第八かねと丸押船第五十五洞海丸被押バージBG102衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月9日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、坂爪 靖、伊東由人)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第八かねと丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第五十五洞海丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
かねと丸・・・船首上部を圧壊
洞海丸押船列・・・BG102の右舷側後部外板に亀裂と凹損

原因
洞海丸押船列・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵 守(主因)
かねと丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不 遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第五十五洞海丸被押バージBG102が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八かねと丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八かねと丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための適切な協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月30日13時28分
 瀬戸内海 周防灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八かねと丸
総トン数 445トン
全長 65.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット

船種船名 押船第五十五洞海丸 バージBG102
総トン数 299トン  
全長 41.80メートル  
垂船間長   115.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,647キロワット  

3 事実の経過
 第八かねと丸(以下「かねと丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、石灰石1,450トンを載せ、船首4.1メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成12年4月30日07時45分大分県津久見港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 出航後A受審人は、関埼付近まで自ら船橋当直にあたり、09時00分ごろ次席一等航海士と交替し、その後同航海士と二等航海士にそれぞれ約2時間ずつ単独の船橋当直を行わせ、12時50分姫島東北東方約3海里のところで再び単独の船橋当直に就き、周防灘を北上した。
 13時03分A受審人は、火振埼灯台から213度(真方位、以下同じ。)6.2海里の地点に達し、徳山航路第1号灯浮標を左舷側600メートルに航過したとき、針路を徳山湾入口の岩島に向首する002度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、そのころ左舷前方4.8海里のところに東行する第五十五洞海丸被押バージBG102(以下「洞海丸押船列」という。)を初認し、その後操舵スタンド後方の椅子に腰掛けて見張りにあたった。
 13時20分A受審人は、洞海丸押船列を左舷船首47度1.5海里に見るようになり、その後同押船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢となって接近することを知り、その動向に留意していたところ、同時25分少し過ぎ同押船列が1,000メートルに近づいても自船の進路を避ける様子が認められなかったが、警告信号を行わず、針路、速力を保持して続航した。
 13時27分少し過ぎA受審人は、300メートルに接近した洞海丸押船列に依然避航動作をとる様子が認められないことから衝突の危険を感じたが、同押船列がそのうちに避航動作をとるものと思い、速やかに機関を後進にかけて行きあしを停止するなど衝突を避けるための適切な協力動作をとることなく、自動操舵のまま針路設定ダイヤルを右に少しずつ回してその動向を見守り、20度ばかり右転したあと機関を全速力後進にかけたものの及ばず、13時28分かねと丸は、火振埼灯台から246度3.6海里の地点において、025度に向首して速力が6.0ノットになったとき、その船首がBG102の右舷側後部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力2の南東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、第五十五洞海丸(以下「洞海丸」という。)は、鋼製の引船兼押船で、B受審人ほか6人が乗り組み、海砂約3,730立方メートルを積載して喫水が船首6.0メートル船尾6.8メートルとなった非自航型鋼製バージBG102の凹状船尾に船首部をかん合し、スライド及びノックピンで連結して全長約149メートルの押船列とし、船首尾とも3.2メートルの喫水をもって、同日09時05分関門港を発し、徳山下松港第4区の光市沖合に向かった。
 10時30分ごろB受審人は、山口県宇部港南方沖合で単独の船橋当直に就いて周防灘を東行し、13時05分周防野島灯台から190度2.3海里の地点で針路を085度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの速力で進行した。
 定針後間もなくB受審人は、前路をいちべつして近くに他船を認めなかったので毎月作成することになっている作業日報の記入を行うこととし、船橋内右舷側後部の海図台で同日報の記入作業を始めた。
 13時20分B受審人は、火振埼灯台から251度4.7海里の地点に達したとき、右舷船首50度1.5海里に北上中のかねと丸を視認することができ、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、自船が大型バージを押しているので接近する船舶の方で避けてくれると思い、前路の見張りを十分に行わず、書類の作成に没頭していたので、このことに気付かず、かねと丸の進路を避けることなく続航した。
 13時27分半海図台に向かって作業日報を記入していたB受審人は、ふと右舷側を見たところ、ゆっくりと右転しながら150メートルに迫ったかねと丸を初認して衝突は避けられないと感じたが、いちべつして自船より速力の速い同船が、右舷後方から自船を追い越す態勢で接近し、自船の進路を避けるものと思い、手動操舵に切り換えてしばらくその動きを見守ったのち、同時28分少し前右舵一杯をとって回頭中、洞海丸押船列は、105度を向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、かねと丸は船首上部が圧壊し、洞海丸押船列はBG102の右舷側後部外板に亀裂と凹損が生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、徳山下松港沖合の周防灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、東行中の洞海丸押船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切るかねと丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中のかねと丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための適切な協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、徳山下松港沖合を東行中、前路を左方に横切り同港に向け北上するかねと丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が大型バージを押しているので接近する船舶の方で避けてくれると思い、書類の作成に没頭し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、かねと丸の進路を避けないで進行して同船との衝突を招き、かねと丸の船首上部を圧壊するとともに、BG102の右舷側後部外板に亀裂などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、周防灘において、徳山下松港に向け自動操舵により北上中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する洞海丸押船列が、自船の進路を避けないまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに機関を後進にかけて行きあしを停止するなど衝突を避けるための適切な協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同押船列がそのうちに避航動作をとるものと思い、速やかに機関を後進にかけて行きあしを停止するなど衝突を避けるための適切な協力動作をとらなかった職務上の過失により、自動操舵のまま小角度の右転を繰り返しながら進行して同押船列との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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