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平成13年神審第24号
件名

貨物船第十八真栄丸プレジャーボート実吉丸II衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、阿部能正、西山烝一)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:第十八真栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:実吉丸II船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
真栄丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
実吉丸・・・船首部を破損し転覆、のち廃船、
同乗者2人が打撲等

原因
真栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
実吉丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十八真栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の実吉丸IIを避けなかったことによって発生したが、実吉丸IIが、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月30日12時40分
 兵庫県東播磨港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八真栄丸 プレジャーボート実吉丸II
総トン数 367トン  
全長 56.0メートル 6.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 735キロワット 44キロワット

3 事実の経過
 第十八真栄丸(以下「真栄丸」という。)は、主に兵庫県東播磨港と阪神地区諸港との間において鋼材等の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成11年11月30日10時15分同県尼崎西宮芦屋港を発し、東播磨港に向かった。
 ところで、真栄丸は、船首甲板にクレーンの運転室やマストが設備されていたので、操舵室中央の操舵位置からは、正船首を中心に右舷2度左舷5度の範囲が死角となっていた。
 A受審人は、発航操船に引き続き船橋当直に当たり、11時ごろ少し休息をとるため一等航海士と交代して降橋し、12時ごろ播磨灘北東部のカンタマ南灯浮標付近で昇橋して再び単独の当直に就き、自動操舵により西行を続け、同時35分東播磨港別府東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から179度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を349度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 12時37分A受審人は、正船首930メートルのところに、実吉丸II(以下「実吉丸」という。)を視認することができ、その後停止状態にある同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、定針するとき周囲を一べつし、数隻の小船を遠方に視認したものの、近くに他船を認めなかったので、前路に支障となる船舶はいないものと思い、身体を左右に移動するなど、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、A受審人は、実吉丸が錨泊中の形象物を表示していなかったものの、同じ方向に船首を向けて静止している様子から、錨泊していることが分かる状況で同船に接近したが、依然として見張りが不十分で、これに気付かず、直ちに転舵するなど、実吉丸を避けることなく進行し、12時40分東防波堤灯台から188度1.0海里の地点において、真栄丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部が、実吉丸の船首部に前方から11度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突に気付かないまま東播磨港に入航して13時ごろ錨泊し、その後しばらくして来船した海上保安官による船体検査を受け、痕跡を認めて衝突の事実を知った。
 また、実吉丸は、セルモーター始動式船外機を装備し、船体中央やや後部寄りに操舵室を備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日08時00分東播磨港を発し、同港南方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、08時30分前示衝突地点の釣り場に到着して機関を止め、水深8メートルの海底に錨として船首から重さ20キログラムの鎖を投じ、全長40メートルで直径14ミリメートルの合成繊維索を15メートル延出して錨泊し、東播磨港に出入りするなど他の船舶が通常航行する水域であったものの、錨泊中を表示する形象物を掲げないまま釣りを始めた。
 B受審人は、操舵室の後部右舷側で船尾方を向き、同乗者1人が同左舷側に、同乗者2人が船体中央部で左右両舷側にそれぞれ腰を下ろし、釣りざおを用いて釣りを行っていたところ、12時37分船首が180度を向いていたとき、左舷船首11度930メートルのところに自船に向首した真栄丸を視認することができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、同船が間近に接近しても機関を始動して後進するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。
 12時40分少し前B受審人は、船体中央部にいた同乗者の危ないとの叫び声を聞いて振り返ったところ、船首至近に真栄丸を初めて視認し、側に置いていたボンベ付ラッパを鳴らした直後、実吉丸は、180度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、真栄丸は、右舷船首部外板に擦過傷を生じただけであったが、実吉丸は、船首部を破損して左舷側から転覆し、のち廃船処分となり、また、実吉丸同乗者Cが左足に打撲及び挫傷を、並びに同Dが左肋骨打撲及び右頬部擦過傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、兵庫県東播磨港南方沖合において、真栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の実吉丸を避けなかったことによって発生したが、実吉丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、東播磨港南方沖合において、船首方に死角のある操舵位置で操船に当たる場合、前路の他船を見落とさないよう、身体を左右に移動するなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針するとき周囲を一べつし、数隻の小船を遠方に視認したものの、近くに他船を認めなかったので、前路に支障となる船舶はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の実吉丸に気付かず、同船を避けることなく進行して実吉丸との衝突を招き、真栄丸の右舷船首部外板に擦過傷を、実吉丸の船首部に破損をそれぞれ生じさせ、同船の同乗者2人に打撲などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、東播磨港に出入りする船舶が航行する海域で錨泊して釣りを行う場合、自船に向首して接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する真栄丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:41KB)





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