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平成13年仙審第10号
件名

貨物船永田丸漁船第二十二大東丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月23日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(東 晴二、喜多 保、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:永田丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第二十二大東丸船長 海技免状:六級海技士(航海)(履歴限定)

損害
永田丸・・・船首部左舷外板に凹損
大東丸・・・船尾端右舷外板及びギャロス、煙突など甲板上の設備を損壊

原因
永田丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
大東丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、永田丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第二十二大東丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月23日15時40分
 宮城県歌津埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船永田丸 漁船第二十二大東丸
総トン数 497トン 30トン
全長 75.63メートル 21.66メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 441キロワット

3 事実の経過
 永田丸は、航行区域を沿海区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で、船長C、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材593トンを積載し、バラスト400トンを張り、船首2.8メートル、船尾4.1メートルの喫水をもって、平成12年5月22日14時00分京浜港東京区東京鉄鋼ふ頭を発し、北海道室蘭港に向かった。
 ところで、C船長は、船橋当直を同船長とA受審人との2人で6時間交替とし、C船長が04時30分から10時30分、16時30分から22時30分を、A受審人がそれ以外の時間をそれぞれ受け持つようにしていた。
 そして、C船長は、A受審人に対して漁船には注意すること、潮流が強いときには保針に注意すること、不安を感じたらいつでも報告することなどを平素口頭で指示していたほか、視界制限時の注意事項として、危険を感じたならば報告すること、機関当直者を見張りに配置すること、減速すること、霧中信号を吹鳴すること、航海灯を点灯することなどを船橋に掲示し、A受審人は、同掲示については承知していた。
 翌23日10時30分C船長は、福島県鵜ノ尾埼東方沖合を北上中、A受審人に船橋当直を引き継ぎ、その際針路を019度(真方位、以下同じ。)としていること、速力が10ないし10.5ノットであることなどを伝えたほか、濃霧注意報を聞いていたので、視界には注意し、霧がひどいようであればコースラインにとらわれずに沖出しするよう指示した。
 13時02分A受審人は、金華山灯台から109度2.0海里の地点に達したとき、針路を019度に定め、機関を全速力前進にかけ、霧が出始めたなか、機関当直中の一等機関士を見張りに配置し、自動操舵とし、11.5ノットの対地速力で進行した。
 15時00分A受審人は、歌津埼灯台から113度11.0海里の地点に達したとき、霧のため視界が制限される状態となったので、レーダー2台をそれぞれ6海里レンジ、1.5海里レンジとして監視し、一等機関士に肉眼による見張りを行わせたが、2人で見張りをしていること、自分で対処できると思ったことなどから、船長に報告しなかったばかりか、航海灯を点灯せず、霧中信号を行わずに続航した。
 15時12分A受審人は、正船首少し左方2.1海里のところに第二十二大東丸(以下「大東丸」という。)が存在し、同船をレーダーにより探知することができる状況であったが、そのころレーダーで認めていた右舷前方の反航船2隻に気をとられ、船首方のレーダー監視を十分に行わなかったので、大東丸に気付かず、同時15分視界がさらに制限される状態となったので、機関を徐々に減じ、7.0ノットの対地速力で続航し、同時30分前示反航船のうち1隻が前方を横切るように思ったので、針路を自動操舵のまま015度に転じた。
 このとき大東丸が正船首少し左方0.7海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、A受審人は、なおも大東丸に気付かず、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また必要に応じて行きあしを止めないまま進行中、15時40分少し前一等機関士の船がいるという声で正船首少し左方至近距離に大東丸の船橋とマストを視認し、手動操舵に切り替えて右舵一杯とし、全速力後進を一等機関士に指示したが、15時40分歌津埼灯台から084度12.0海里の地点において、永田丸は、同一の針路及び速力で、その船首が大東丸の船尾部右舷側に後方から3度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で、風力1の北東風が吹き、視程は約100メートルであった。
 C船長は、自室にいたところ衝撃を感じ、窓から大東丸を視認し、昇橋して事後の措置に当たった。
 また、大東丸は、推進器として可変ピッチプロペラを備えた船首船橋型鋼製底引き網漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、船首1.5メートル、船尾2.5メートルの喫水をもって、同月23日01時30分宮城県女川港を発し、03時35分同県歌津埼沖合の漁場で全長680メートルの漁具によりオッター式底引き網の操業を開始し、たらなど500キログラムを漁獲して1回目を終え、10時35分歌津埼東北東方約14海里の地点で投網し、漁労に従事していることを示す灯火及び形象物を掲げ、曳網しながら南下した。
 B受審人は、レーダーとともに、GPS装置、魚群探知機、ネットレコーダーなどを監視しながら1人で曳網時の船橋当直に当たり、13時30分北上することとし、右回りで反転を開始し、14時00分歌津埼灯台から109度10.7海里の地点で、針路を023度に定め、機関を全速力前進よりも少し減じ、3.0ノットの対地速力で自動操舵として曳網を続けた。
 15時00分B受審人は、霧のため視界が著しく制限される状態となったが、霧中信号を行わずに進行し、同時12分6海里レンジとしたレーダーにより正船尾少し右方2.1海里のところに接近する永田丸の映像を認め、その進路から遠ざかろうと、針路を018度に転じ、その後後方の永田丸が自船と著しく接近することを避けると思い、ネットレコーダーなどを見ていてレーダーによる動静監視を行わず、同時30分永田丸が0.7海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、その状況に気付かず、大幅に針路を変えるなど衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行することのないまま同一の針路及び速力で続航した。
 15時40分少し前B受審人は、後方を見て正船尾少し右方至近距離に永田丸を視認し、そのまま接近するので汽笛長音を2回吹鳴したが、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、永田丸は、船首部左舷外板に凹損を生じ、大東丸は、船尾端右舷外板及びギャロス、煙突など甲板上の設備を損壊し、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、宮城県歌津埼東方沖合において、霧のため視界が著しく制限されたなか、永田丸が、北上中、航海灯を点灯せず、霧中信号を行わなかったばかりか、レーダーによる見張りが不十分で、低速力で同航する前路の大東丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、大東丸が、底引き網の曳網を行いながら北上中、霧中信号を行わなかったばかりか、永田丸に対する動静監視が不十分で、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行しなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、宮城県歌津埼東方沖合を北上中、霧のため視界が著しく制限されたなか、船橋当直に当たる場合、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、反航する他船に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、低速力で同航する前路の大東丸に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また必要に応じて行きあしを止めないまま進行して衝突を招き、永田丸の船首部左舷外板に凹損を生じさせ、大東丸の船尾端右舷外板に凹損のほか、ギャロス、煙突など甲板上の設備に損壊を生じさせた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 B受審人は、宮城県歌津埼東方沖合を底引き網漁業の曳網を行いながら低速力で北上中、霧のため視界が著しく制限されたなか、船橋当直に当たり、レーダーにより右舷後方から接近する永田丸を認めた場合、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、後方の永田丸が自船と著しく接近することを避けると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、大幅に針路を転じるなど衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行することのないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示損傷を生じさせた。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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