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平成12年門審第99号
件名

漁船第二福進丸漁船祐徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、米原健一、橋本 學)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第二福進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:祐徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:祐徳丸甲板員

損害
福進丸・・・船首部外板に破口を伴う損傷
祐徳丸・・・船首部を圧壊

原因
福進丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
祐徳丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二福進丸が、見張り不十分で、漂泊中の祐徳丸を避けなかったことによって発生したが、祐徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月15日05時17分
 長崎県対馬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二福進丸 漁船祐徳丸
総トン数 12.0トン 6.6トン
全長 18.50メートル  
登録長   11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 320キロワット 367キロワット

3 事実の経過
 第二福進丸(以下「福進丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成11年10月14日16時20分長崎県千尋藻(ちろも)漁港を発し、対馬長崎鼻灯台東南東15海里付近の漁場へ向かった。
 17時20分A受審人は、漁場に到着して操業を行い、翌15日04時31分いか約30キログラムを獲たところで帰途に就くこととし、対馬長崎鼻灯台から107.5度(真方位、以下同じ。)14.1海里の地点で針路を298度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進の回転数毎分1,500にかけ、10.0ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 04時50分ごろA受審人は、周囲に他船を認めなくなったので、操舵スタンド後方の一段高くなった板の間に船首方を向いて腰を掛け、身体を左によじって斜め後方を向いた姿勢で、同板の間に資料を広げて自船の漁獲高の集計や僚船の暗号無線の解読に取り掛かり、その後、周囲の見張りを十分に行わずに続航した。
 05時14分わずか過ぎA受審人は、対馬長崎鼻灯台から096.5度7.0海里の地点に至ったとき、正船首900メートルのところに、祐徳丸が表示する白、緑、紅の3灯に加え、緑色点滅全周灯1灯及び作業灯1灯を視認することができ、その後、その方位に変化がないことや接近模様などから漂泊中の同船に向首して接近していることが分かる状況であったが、依然として左後方を向いた姿勢のまま、漁獲高の集計や暗号無線の解読を続けて周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かずに進行した。
 こうして、A受審人は、前路の祐徳丸を避けることなく続航中、05時17分対馬長崎鼻灯台から095度6.6海里の地点において、福進丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、祐徳丸の船首にほぼ真正面から衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 また、祐徳丸は、主に延縄漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同月14日23時40分長崎県高浜漁港を発し、翌15日00時10分同港南東方沖合6海里付近の海域に至り、漂泊して延縄漁の餌とするいかを釣り始めた。
 03時00分B受審人及びC指定海難関係人は、いか約90ぱいを漁獲して餌釣りを終え、同指定海難関係人は、単独で操舵操船に当たり、対馬長崎鼻灯台から東南東7海里付近の延縄漁場へ向けて航行を開始し、同受審人は、発航以来休息をとっていなかったことから、早暁からの投縄に備えて操舵室後部の船員室で仮眠を始めた。
 ところで、B受審人は、C指定海難関係人に対し、平素から単独で当直に当たるときは、航海中及び漂泊中を問わず見張りを十分に行うように適切な指示を行っており、同指定海難関係人は、本件発生までは同受審人の指示を遵守して見張りに当たっていたものであった。
 04時10分C指定海難関係人は、漁場に到着し、延縄の投縄予定時刻までしばらく時間があったことから、機関のクラッチを切って中立回転とし、レーダーを1.5マイルレンジとして作動させ、白、緑、紅の3灯及び船尾灯に加え、緑色点滅全周灯1灯を点灯して漂泊を行っていたところ、05時00分ごろから周囲に他船を見受けなくなり、また、投縄開始予定時刻が迫って来たことから、レーダーのスイッチを切って船橋から前部甲板に移動し、新たに同甲板上の作業灯1灯を点灯して、餌の準備に取りかかった。
 05時14分わずか過ぎC指定海難関係人は、前示衝突地点で、120度に向首し、船橋前の前部甲板左舷側で右舷方を向いて立ち、いけすの蓋の上にまな板を置いて餌のいかを切っていたとき、ほぼ正船首900メートルのところに、福進丸が表示する白、緑、紅の3灯を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、餌の準備に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かずに漂泊を続けた。
 こうして、C指定海難関係人は、福進丸の接近に気付かないまま、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、機関のクラッチを入れて場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、船員室で仮眠中、異常な音と衝撃に気付き昇橋し、C指定海難関係人から衝突した旨の報告を受け、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、福進丸は、船首部外板に破口を伴う損傷を生じ、祐徳丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県対馬東方沖合において、福進丸が、見張り不十分で、漂泊中の祐徳丸を避けなかったことによって発生したが、祐徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県対馬東方沖合において、単独で船橋当直に当たり、発航地の千尋藻漁港へ帰航する場合、前路で漂泊中の祐徳丸が表示していた灯火を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船の漁獲高の集計をすることなどに気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の祐徳丸が表示していた白、緑、紅の3灯に加え、緑色点滅全周灯1灯及び作業灯1灯に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部外板に破口を伴う損傷を生じさせ、祐徳丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就き対馬東方沖合で漂泊中、見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、本件後、見張りの重要性を再認識して安全運航に精励していることに徴し、勧告しない。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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