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平成12年門審第102号
件名

漁船第八祐漁丸ケミカルタンカーサンライズアイリス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、西村敏和、相田尚武)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第八祐漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
祐漁丸・・・右舷船首部外板に亀裂
サ号・・・左舷船首部外板に擦過傷

原因
祐漁丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
サ号・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八祐漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るサンライズアイリスの進路を避けなかったことによって発生したが、サンライズアイリスが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月26日03時45分
 鹿児島県大隅群島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八祐漁丸 ケミカルタンカーサンライズアイリス
総トン数 4.91トン 4,893トン
全長 13.30メートル 110.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 242キロワット 3,089キロワット

3 事実の経過
 第八祐漁丸(以下「祐漁丸」という。)は、航行区域を限定近海区域とし、しび流し釣り漁に従事するFRP漁船で、A受審人が1人で乗り組み、きはだまぐろを釣る目的で、船首0.80メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成11年10月26日01時00分鹿児島県枕崎漁港を発し、吐喇(とから)群島平瀬北北東方沖合の漁場に向かった。
 01時55分半A受審人は、坊ノ岬灯台から162度(真方位、以下同じ。)5.3海里の地点で、サービスタンクの燃料油がほとんどないことに気付き、同タンクに燃料油を補給したのち、同地点で針路を198度に定め、機関を8.0ノットの全速力前進にかけて発進し、自動操舵で目的地に向けて進行した。
 ところで、A受審人は、出港するにあたり、レーダーを作動させ、他船が2.5海里以内に接近すれば警報音を発するよう、警報装置のブザーの電源を入れて航行していたところ、01時25分ごろ薩摩黒島灯台から053度14海里ばかりの地点に達したころ、数隻の横切り船が左方から接近し、同装置の鳴り続けるブザーの警報音が気になったので、それらの船が2.5海里以上離れるまで電源を切っておくことにした。
 こうして、横切り船を避け終えたA受審人は、連日の操業で疲労がたまり、出港時から感じていた眠気を払おうとコーヒーを沸かして飲むこととしたが、横切り船がレーダー画面の2.5海里の範囲から出れば、警報装置のブザーの電源を入れることにしていたので、それまでは居眠りすることはあるまいと思い、立って手動で操舵にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、舵輪の前に置いた肘掛け付きのいすに腰を掛けてコーヒーを飲んでたばこを吸ったのち、前路の見張りにあたっているうち、いつしか居眠りに陥った。
 03時40分少し前A受審人は、薩摩黒島灯台から058度12.4海里の地点に達したとき、右舷船首50度1.5海里のところに、前路を左方に横切る態勢のサンライズ アイリス(以下「サ号」という。)が視認でき、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となっていたが、居眠りをしていて、このことに気付かず、接近するサ号の進路を避けることができないまま続航した。
 A受審人は、サ号の接近に気付かないで進行中、03時45分薩摩黒島灯台から060度12.0海里の地点において、祐漁丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部がサ号の左舷船首部に前方から77度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、サ号は、航行区域を遠洋区域とする船尾船橋型のケミカルタンカーで、船長B及び二等航海士Cほか16人が乗り組み、液化ガス3,430トンを積載し、船首4.10メートル船尾6.10メートルの喫水をもって、同月24日08時30分中華人民共和国チャンチャン港を発し、京浜港川崎区に向かった。
 翌々26日00時00分C二等航海士は、草垣島灯台から317.5度16.0海里の地点で、前直の三等航海士と船橋当直を引き継ぎ、針路を095度に定め、機関を13.8ノットの全速力前進にかけ、甲板手に操舵を行わせて進行した。
 03時35分C二等航海士は、薩摩黒島灯台から052度10.0海里の地点に達したとき、左舷船首27度3.1海里のところに、前路を右方に横切る態勢の祐漁丸を初認し、同時40分少し前同方位1.5海里まで接近した同船を認め得る状況となったものの、いずれ避航船である同船が避航動作をとるものと思い、原針路、原速力を保ったまま続航した。
 03時43分C二等航海士は、その方位に変化のないまま、衝突のおそれがある態勢で、1,080メートルまで接近した祐漁丸を認め得る状況となったが、依然として同船が避航動作をとることを期待し、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行した。
 C二等航海士は、祐漁丸が間近に迫ったとき、同船との衝突の危険を感じて昼間信号灯で注意を喚起するとともに、右舵を取ったが、効なく、サ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、祐漁丸は、右舷船首部外板に亀裂などを生じたが、のち修理され、サ号は、左舷船首部外板に擦過傷を生じた。
 また、B船長は、C二等航海士が衝突したことに気付かず、同人から衝突の事実を知らされないまま仕向地に向けて続航し、同月28日10時15分京浜港川崎区の錨地に至り、サ号の塗料と祐漁丸に付着した塗料の鑑定の結果、両船の衝突の事実が確認された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、大隅群島北方海域において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、第八祐漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るサンライズ アイリスの進路を避けなかったことによって発生したが、サンライズ アイリスが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、大隅群島北方海域において、漁場に向けて航行中、眠気を催した場合、連日の操業で疲労がたまり、いすに腰を掛けて当直にあたっていると居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、立って手動で操舵にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、横切り船がレーダー画面の2.5海里の範囲から出れば警報装置のブザーの電源を入れるつもりでいたので、それまでは居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ったまま、接近するサンライズ アイリスに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、自船の右舷船首部外板に亀裂などを生じさせ、サンライズ アイリスの左舷船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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