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平成12年広審第78号
件名

貨物船第二十五幸水丸旅客船第三いんのしま衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二、高橋昭雄、伊東由人)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第二十五幸水丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第三いんのしま船長 海技免状:三級海技士(航海)(履歴限定)

損害
幸水丸・・・右舷上甲板ハンドレール、オーニング支柱等に曲損
いんのしま・・・ランプウェイに曲損、凹損

原因
いんのしま・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸水丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、離桟する第三いんのしまが、見張り不十分で、水路航行中の第二十五幸水丸を避けなかったことによって発生したが、第二十五幸水丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月15日19時22分
 瀬戸内海因島西岸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十五幸水丸 旅客船第三いんのしま
総トン数 197.71トン 98トン
全長 37.42メートル 25.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット 242キロワット

3 事実の経過
 第二十五幸水丸(以下「幸水丸」という。)は、広島県尾道糸崎港を基地とし、専ら近傍各地の造船所で入渠船への給水作業に従事する船尾船橋型の給水船で、A受審人ほか2人が乗り組み、平成11年11月15日午前同港を出航し、愛媛県今治市の造船所に寄せ、その後同県岩城島北岸の岩城造船沖に至り、生口橋橋梁灯(C2灯)(以下「中央灯」という。)から162度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、錨泊船に接舷して給水作業を終えたのち、船首2.4メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、同日19時11分同地点を発進し帰途に就いた。
 A受審人は、発進時から1人で船橋当直に就き、所定の灯火を表示して因島西岸と生口島東岸に挟まれた幅約500メートルでほぼ南北に続いている水路の南口に向かい、19時15分中央灯から164度1,960メートルの地点で、針路を350度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じ6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
 そのころA受審人は、右舷前方約1,400メートルの因島西岸に、着桟している第三いんのしま(以下「いんのしま」という。)の明るい灯火を初認し、これまでの付近の航行経験から前示水路を始終横断しているカーフェリーのものであることを認め、19時20分水路南口で予定転針地点に差し掛かかるころ、右舷船首24度400メートルとなった同船の状態を確かめようと双眼鏡を使用して見たところ、これまでと同様に航海灯及び多数の照明灯を点灯して着桟中であり、船尾ランプウェイが降下していたことから、しばらくは離桟しないものと思い、その後同船から目を離し、同分少し過ぎ中央灯から156度920メートルの地点に達したとき、針路を同灯を船首目標にして336度に転じ、水路のほぼ中央部を続航した。
 転針したときA受審人は、右舷船首39度350メートルのところで、いんのしまが離桟して自船前路に向き、その後衝突のおそれのある態勢で接近していることを認めることができる状況であったが、専ら中央灯がある船首方向に注意を払い、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 19時22分わずか前A受審人は、ふと右方を見て至近に迫ったいんのしまの灯火に気付き、急ぎ機関を中立にしたが効なく、同時22分中央灯から156度580メートルの地点において、幸水丸は、原針路、原速力のままその右舷前部に、いんのしまの船首部が、後方から76度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、付近には弱い北流があった。
 また、いんのしまは、中央部の架橋型の船橋上部に全周をガラス窓とした操舵室を備え、両頭にプロペラ及びランプウェイをそれぞれ装備し、水路両岸を約4分かけて行き来するカーフェリーで、西岸にあたる生口島赤崎地区発06時50分の便を第1便、及び東岸の因島金山地区発19時40分のものを最終便とし、両地区での着桟時間を昼休みの間を除いて約5分間として運航されていた。
 ところで、B受審人は、短時間で離着桟を繰り返していたことから、通常、着桟時には係留索を取らずに機関を使用して前部を桟橋に押し付け、離桟時にランプウェイは先端を少し上げるだけで、降下した状態のまま進行し、夜間は常時、所定の航海灯並びに船橋下部前後に各2個備えている下方の車輌甲板用の照明灯及び同甲板上の前後に各1個あるランプウェイ用照明灯を点灯していた。そして離桟時にはランプウェイを上げるとすぐに水路を横断する態勢になることから、予め付近を航行中の船舶の動静を確かめ、状況に応じて離桟を遅らせるなどして、それらと衝突のおそれが生じないよう図っていた。
 同日B受審人は、いんのしまに機関長と2人で乗り組み、第1便から運航を続け、19時10分航海灯及び各照明灯を点灯して生口島赤崎地区の桟橋を発し、同時14分中央灯から137度700メートルの地点で、因島金山地区の桟橋に278度に向首して着桟した。
 19時19分B受審人は、車輌甲板での作業を終えて定刻の同時20分の離桟に備え昇橋し、そのころ左舷正横後2度600メートルのところに、水路に向けて北上中の幸水丸の白、緑2灯を視認でき、そのまま離桟すると同船の前路に向かい衝突のおそれが生じる状況であったが、操舵室右舷側の船橋甲板から周囲を一瞥して支障となる航行船はいないものと思い、同室の陰になっている左舷正横方向の見張りを十分に行うことなく、幸水丸に気付かず、離桟時刻を遅らせるなどして同船を避けることとしなかった。
 こうしてB受審人は、1人で船橋配置に就き、機関長を船尾の配置に当て、船首尾共1.7メートルの喫水をもって、19時20分ランプウェイを上げて機関を微速力前進にかけ、同分少し過ぎ中央灯から138度700メートルの地点で、折からの北流の影響を考慮して針路を対岸の赤崎地区の桟橋の少し南方に向けて260度に定め、266度の進路及び4.1ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 定針したときB受審人は、左舷船首65度350メートルに接近していた幸水丸と衝突のおそれのある態勢になっていたが、左舷側は窓ガラスに陸岸の灯火が反射して見にくかったものの、視線の位置を変えるとかレーダーを使用するなどせず、依然、見張り不十分で同船に気付かず、そのまま続航中、19時22分少し前左舷前方至近に迫った幸水丸に気付き、急ぎ機関を全速力後進にかけたが効なく、いんのしまは、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸水丸は、右舷上甲板ハンドレール、オーニング支柱等に曲損を、いんのしまは、ランプウェイに曲損、凹損などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、因島と生口島間の水路において、水路東岸に着桟中のいんのしまが、離桟して対岸に向かうに当たり、見張り不十分で、水路を北上中の幸水丸を避けなかったことによって発生したが、幸水丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、因島と生口島間の水路東岸に着桟中、対岸に向け離桟しようとする場合、水路に向けて北上中の幸水丸を見落とさないよう、水路航行船に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥して支障となる航行船はいないものと思い、水路航行船に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸水丸を避けずに衝突を招き、幸水丸の右舷上甲板ハンドレール、オーニング支柱等に曲損を、いんのしまのランプウェイに曲損、凹損などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、因島と生口島間の水路南口を北上中、水路東岸に着桟中のいんのしまの灯火を認めた場合、同船が離桟して衝突のおそれが生じることがないかどうか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いんのしまはしばらく離桟しないと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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